クローズアップ現代「広がる“読書ゼロ”〜日本人に何が〜」 2014.12.10


私、もう3年ぐらい本を読んでいないんです。
そういう人いっぱいいるんじゃないですか。
本を読まない。
読書時間ゼロ。
日本人の2人に1人にまで拡大しています。
今、大学でも本を読まない人が増えています。
論文の課題を出しても自分の意見を言えない学生が増え読書ゼロの影響を危惧する専門家もいます。
20万冊の蔵書を持つジャーナリストの立花隆さんは人々が本を読まなくなったのはむしろ自然な流れだと指摘します。
読書ゼロは社会に何をもたらすのか。
読書ゼロの実態と最新研究から考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
歩く間も惜しんで本を読んでいたといわれる二宮金次郎を日本人は敬ってきました。
読書は知性を育み心を豊かにするものとして尊ばれてきたのです。
ところが今、人々が手放さないのがスマートフォン。
ニュースサイトやソーシャルネットワークサービス動画サイトに、いつでもどこでも無料でつながることができるようになり電車の中でも本を読んでいる人がめっきり少なくなったように思います。
9月に文化庁が発表した調査結果によりますと1か月に一冊も本を読まないという人は47.5%。
10年前に比べておよそ10%増えています。
また別の調査では全く本を読まないと回答した大学生が初めて4割を超えました。
手元のスマートフォンでネットにつながれば膨大な量の情報を瞬時に得られるようになった今本をじっくり読む意義が見いだしにくくなっているのでしょうか。
読み手が想像力を働かせる余地が大きいといわれる読書。
また、書き手の思考過程をたどれることで論理的に考える力が身につくという指摘もあります。
ネットの活用が当たり前になる中で読書を全くしないという人々の増加、どんな変化を私たちの思考力に与えているのか。
教育現場で起きている異変を取材しました。
日本社会に広がる読書ゼロ。
強い危機感を抱いているのが大学です。
この大学では今これまでにない事態に直面しています。
4年前まで貸し出し数は増え続け、年間およそ17万冊に達していました。
それが一転、毎年1万冊のペースで貸し出し数が減り続けているのです。
大学は貸し出し数減少の背景にスマートフォンの普及があると見ています。
図書館では読書好きのタレントが推薦する本を並べるなど本に関心を持ってもらう取り組みを続けています。
しかし、貸し出し数は回復していません。
本を読まなくなったことで学生にどんな変化が起きているのか。
人間の情報探索行動を研究する逸村裕教授です。
逸村教授は学生が小論文を書き上げる際本を読む人と読まない人でどんな違いが出るのか実験をしています。
課題は英語の早期教育は必要か。
1時間で1500字以内に意見をまとめよというものです。
実験に参加したのは読書時間ゼロの4人と読書をする2人の合わせて6人。
インターネットや図書館の本を自由に利用できる環境に起きどのように情報を集め自分の論を展開していくかつぶさに観察するのです。
まず全員がインターネットに向かい、大手検索サイトで英語の早期教育という同じキーワードを入力。
100万件に上る検索結果の見出しをチェックしていきました。
開始から12分後。
1人の学生が席を立ちます。
図書館に向かったのは1日2時間は本を読むという読書家、鈴木康平さん。
あるネット記事の参考文献になっていた2冊の本を探し出しました。
さらに偶然目にした本も2冊手に取りました。
一方、インターネットを続ける読書ゼロの学生たち。
特殊な装置で視点の動きやホームページの閲覧数を計測したところ驚くべき結果が出ました。
学生がチェックしていたのは検索結果に表示される見出しと150字ほどの概要。
僅か1秒で必要な情報かどうかを判断していたのです。
パソコンとスマホを同時に操る学生もいました。
1分当たりに学生が閲覧するホームページの数は11年前の学生たちの3倍以上。
学生たちは高い情報処理能力を身につけていました。
一方、見つけた記事を時間をかけて読み込むことはありませんでした。
一部をコピーし、貼り付けそこに手を加えることで小論文を完成させていったのです。
インターネットだけの情報で書かれた小論文です。
際立ったのは提示されたテーマの多様さ。
夏目漱石による英語論から英語の早期教育を巡る親子の関係まで多岐にわたっていました。
一方、自分の意見は。
課題をいかに解決していくかが重要。
早期教育を行うには教員が大量に必要。
みずからが提示した多様なテーマとの関連性はほとんどなく考察も深まっていませんでした。
図書館で見つけた文献を読み込む鈴木さんです。
ネットだけを利用していた学生と違い、小論文のテーマをむしろ絞っていきました。
英語の早期教育が必要だとする主張に科学的裏付けはあるのか集中的に調べました。
その過程で気になる記述を見つけました。
大人になっても外国語の習得は可能という研究結果でした。
幼少のころから英語教育を行う必要性は必ずしもないのかもしれない。
鈴木さんなりの視点にたどりつきました。
鈴木さんが書いた小論文です。
年齢を重ねたあとも言語習得が可能であるとする意見もある。
早期教育に過度に重点を置いてほかの教科の授業時間を減らすようなことになっては本末転倒であると考える。
インターネットの膨大な情報の中から文献をたどって考えを深め自分なりの意見を展開したのです。
読書の目的は情報を得ることだけではありません。
文学のように私たちの心を豊かにする本もあります。
そういえば、本が人生を豊かにしてくれるって聞いたことあったな。
読書が脳に与える影響を研究する、東京大学大学院の酒井邦嘉教授です。
読書をしているときの脳はほかの活動をしているときとは違う特徴があるといいます。
例えば、雪国の場面をテレビで見ているとき。
映像は視覚をつかさどるこの部分で。
ナレーションなどの音声はことばをつかさどるこの部分で捉え脳の前方にある部分に伝達。
場面の意味を理解します。
テレビは次々と場面が変わるため脳は入ってくる情報の意味を理解することに追われます。
一方の読書。
「トンネルを抜けると雪国であった」という一節を読むとき、まずはことばを視覚で捉え、次にその意味を理解しようとします。
このとき脳は、どんな景色なのか主人公はどんな人なのかイメージを補おうと視覚をつかさどる部分が動きだします。
すると、過去に見た風景などの記憶をもとに、想像を膨らませ場面のイメージが脳の中に出来上がります。
読書による、こうした一連のサイクルが、想像力を養うことにつながると考えられています。
皆さん、こよい、本を手に取ってみてはいかがでしょうか。
今夜のゲストは、ジャーナリストの立花隆さんです。
スマホが便利で、そして瞬時に情報が手元に来るということもあって、だんだん本を読む人が少なくなっていて、手に取らなくなっていると。
もし立花さんが今、大学生でいらしたら、どういうふうに、情報に接しようとしていると思いますか?
それは難しいけども。
1つは、この今のコンテクストだと、スマホをわりと否定的に捉えてますよね。
だけど、要するにスマホの向こうに何があるかが大事な問題であって、スマホの向こうに、ネットを通して、ほとんどの人類の持っている知識全体があるんですよ。
そりゃ、引き出し方いかんで、どんな情報でも取れるんですよね。
だから、スマホだからみたいな議論っていうのは相当は成り立たない。
それと、もう一つは、さっきの雪国、トンネルを抜けると雪国であった、あれの解釈で、脳がこういうふうに働いてみたいな話がありましたけど、あれは人によって、ものすごい違いますよね。
例えば、僕はあの文章読んで、あの文章、その、トンネルを抜けると、雪国であったという、これは日本語としてはすごい破格の文章ですよね。
だから、そこに僕はぱっと関心がいって、だから視覚がまず来てみたいなね、そういう感じは全くないですね。
あっ、不思議な文章だなって。
で、その文章が自分に与えるイメージとか、要するに、ある本、あるいはある文章を通して、その人の脳を刺激するしかたっていうのは、ものすごい違うわけですよ。
だから、読書論とか、その本に関する、いろんなものの考え方っていうのは、何について言うのか、それから、どういう人について言うのか、それによってものすごく違うんですね。
今の若い人、とりわけ学生で4割が読書をしなくなっているという、この現実で、多くの人たちが、知的劣化が起きるのではないかという心配が一つ。
もう一つは、ネットで検索して、同じキーワードで検索していくと、同じページを見ながらクリックをしていくと、同じような考え方、偏った考え方が広がっていくんではないかと、2つ大きくあると思うんですけれども、この点についてはどうですか、学生が、学びの機関として、過度にスマートフォンやネットということになった場合、どう見てらっしゃいますか?
それは両面あると思います。
それは、学生によってものすごく違うというか、今の若い人をそういうふうな感じで、ばかにしたり、どんどん知性が劣化してるみたいな言い方をすることもできるけれども、でも現実の学生、僕、いろんなタイプの学生に会ってますから、そうするとね、今、そういうふうに、なんといういうか、知的環境そのものの変化の中で、むしろこの変化を利用して、どんどん自分の知的能力を膨らませていってる、そういう若い人たちが、一方でものすごくいるんです。
だから、それは一概に、こう、ああとは言い切れない。
それは何をネットで読んでいるかっていうことになるんですか。
それはありますね。
1つはそれがありますね。
それから。
良質なものが、たくさんあるわけですよね。
両方あります。
それでとにかく、一つはほとんど無限の可能性っていうかね、言ってみれば、昔、これまでに発行されたすべての書物を集めた、アレキサンドリア図書館というのがありましたよね。
今はすべての人がネットを通して、アレキサンドリア図書館を自分なりに作っちゃうことができる、そういう時代なんです。
だから、それはもう要するに、ここにネットっていうか、スマホが1つあれば、もうすでに、そういう時代に入ってるんですね。
だから、それを通してどういう利用をするか、これでものすごく違うんじゃないですか。
しかも今の閲覧するスピードが、ものすごく速くなっているんですね。
若い人たちは。
1秒間で判断できるという。
でも、それはそうでしょ。
例えば、本を広げて、あるいは新聞広げて、この記事をちゃんと読むか、あるいはさっと目を通すだけにするか、その判断っていうのは、恐らく1秒以下っていうかね、それぐらいでやってるはずなんですよ、日常生活において。
ただそのこと自体はそんな驚くべきことじゃなくて、だから、そういうものを語るときにこれまでインプットとアウトプット、その2つでしか、ものを考えていなかったけれども、今はスループットということばがあって、だから情報が頭を通過する、そのスピード、その内容、そちらを問題にする。
スループットがものすごい勢いで、どんどんどんどん増えてるっていうのが、現代の一番の特徴なんですよね。
だから、スループットがいやおうなしに増えてきますから、その中で、その人がどういう情報を拾い上げて、その人の自分自身の脳を作り上げていくか、さらにね。
そこが大事だという、そういう感じに今、なってるんじゃないかしら。
多岐にわたる分野で、研究をされたり、そして書物を書いたりされていますけれども、ご自身では、ネットだけで足りるというふうに思われますか、その情報収集のしかたとしては。
そうは思いません。
現実にそうじゃないし、それはやっぱりね、ネットだけだと、やっぱりどうしても掘り方が浅くなるんですよ。
もうちょっと深い情報を得たいと思ったら、本なり、あるいはその他もろもろ、ほかの手段がいろいろありますから、それを通して、より深い情報を得るってことが必ず必要なステージに行くんですね。
今、とにかく情報を得ようと思ったら、簡単に見つけられる、そうなっていくと、大事なのは思考力や、あるいは、その発想力ということもいわれていますけれども、立花さんはご自身の今の思考力を培っていくうえで、若いとき、どういうことをやったことが役に立っている、有用だったというふうに思われますか。
どんな経験が?
それは、圧倒的に本を読む経験ですよね。
だから、本っていうのは、じゃあ、なんなのかということになりますけれども、それは僕は、ひとまとまりの知識だと思ってるんです。
つまり本を1冊読むと、そん中にまとまって封じ込められてる知識みたいなものがあって、それが自分に獲得できる、そういうメディアなんですよね。
それで、ただ、そういうふうに言うと、そん中に込められている知的な部分だけみたいな感じになりますけど、そうじゃなくて、僕は本ってのは、総合メディアだと思ってるんですよ。
総合メディア?
つまり、人間の脳ってのは、基本的に知と情と意と、知情意が総合された。
知が知識?情は感情の情?
情です。
いは?
いは意欲の意、意思の意ですね。
それが全部あるのが、この脳なんですね。
それで、本を語るときに、わりとしばしば、人がやりがちなのは、もっぱら知のメディアとして考えちゃうんですね。
本というのはそうじゃないんです。
情の部分がものすごく大きくあって、意の部分がものすごくあって。
意の部分というのは?
意の部分っていうのは、例えば、例えばですね、ビジネスの世界でもいいし、あるいは戦国時代の話でもいいけれども、いろんな人物の行動を通して、人間の意思の世界っていうかね、それにどれほど人間が突き動かされて、その中で、どういう判断をするかが重要なのかっていうそういうことを学習することが、その人の人生にとって、ものすごく重要でしょ。
そういうのがその本で、そういうことについて、そういうことを物語化して書いたエピソードの集積によって、その人は学習するんですね。
つまりいろんな人の意を決する場面、そういうものが、どういう結果をもたらしたかみたいなね。
それは本を通して、疑似体験を自分の中に入れることによって、それが学習できるわけですね。
その中で感情も揺さぶられると?
だから、情の部分がそうですよね。
なるほど。
だから、その全部を合わせた体験を与えてくれるのが本というメディアだから、だから本は常に、総合メディアとして考えなきゃいけない。
この単発に、知識だけ、文章を書くとき、いい論文が書けたかみたいな、そんな話をすると、本っていうものの世界をわい小化することになっちゃうと思うんですよね。
一番思考力を鍛えていくうえで、本を読んだ、読むプロセスの中で、何をすべきなんですか?一番頭を鍛えるうえで、思考力。
学生時代、なんか脂汗が出たっておっしゃってるんですけど、どういう体験ですか。
それはね、読むだけじゃなくて、その次のステージとして、アウトプット、つまりなんかをまとめて書くっていうね、その体験に行かないと、なんていうか、より読書が深められない。
そういう知識を深める、なんていうか、知的な内容のものを深めるだけじゃなくて、その全体をまとめるためには、やっぱり書くっていうことが必要なんですね。
そういう中で、2014/12/10(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「広がる“読書ゼロ”〜日本人に何が〜」[字]

1か月に1冊も本を読まない人が47.5%にのぼることが文化庁の調査で分かった。一方スマホの普及で大量の情報にさらされている現代人。本やネットとの良い付き合い方は

詳細情報
番組内容
【ゲスト】ジャーナリスト…立花隆,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】ジャーナリスト…立花隆,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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