江戸深川の鉄瓶長屋では店子が次々と出ていくという珍事が起きていた。
平四郎はその裏に地主の湊屋が絡んでいるとにらみ幼なじみの隠密同心黒豆こと井英之介を使って湊屋の内情を探らせていた。
その調べの中で鉄瓶長屋の差配人佐吉の母葵は湊屋総右衛門の姪であり総右衛門の寵愛を受けていた事が分かった。
当然総右衛門の妻おふじはその事を快く思わず葵を湊屋から追い出してしまった。
17年前の事である
(烏の鳴き声)
(平四郎)ああ〜!
(鳴き声)玉や〜い。
お子様にサボンはいかが〜?
(弓之助)えい!やあ!
(小平次)おお〜!・玉や〜!え〜え玉や〜!
(蚊の羽音)ほっあ…。
・
(弓之助)えい!あ〜暑いのにご苦労な事だ。
またそのような事を。
薪割りは剣術にもつながると申して自らやっている事です。
さすが姉が夢にまで見て弓之助などと商人の子とは思えぬ名前を付けただけの事はございます。
…うん。
うん?えっ?えっ?弓之助の名前の由来でございます。
ああ那須の与一が弓を引いたら弓之助が生まれたって話か。
少々違います。
よいですか?姉が夢を見たのです。
那須の与一のような弓引きがひょうとばかりに朝日に向かって矢を放ちその矢がお天道様に吸い込まれたかと思うとやがてまばゆいような金色の光に包まれ清らかな白い霧が立ちこめる蒲の穂の茂る川べりにはっしと落ちたそうなのです。
夢の中の姉がその矢を追って蒲の穂の中に分け入るとまあなんという事でしょう。
そこに産着にくるまれた赤子がいたのです。
「あら〜なんてかわいい子」。
…と抱き上げた途端に姉の目が覚めにわかに産気づいて産み落としたのがあの子なのです。
ですから弓之助と名付けたとこの事もう3遍もお話ししております。
そうそうそうそう…そうだったそんな話だったうん。
思い出した。
そんな目で見るな。
俺は物覚えが悪い。
よくお役が務まりますこと。
小平次がいる。
あいつは意外に物覚えがいい。
私が何か?あなたがいるおかげで物覚えの悪い旦那様でも町方の旦那などといわれて外でふんぞり返っている事ができるというお話です。
うへぇ〜。
ハハハハハッ。
なるほどな。
どうかされましたか?いや俺みたいな忘れっぽい男からするとだな何十年も前の恨みをいつまでも引きずるなんて芸当はなまはんかな根性でできる事じゃねえなと思ってさ。
鉄瓶長屋の地主湊屋総右衛門の女房おふじは17年前に幼い佐吉を置いて湊屋から失踪した葵という総右衛門の姪をいまだに恨んでいる節があった
憎らしいとか羨ましいとかいう気持ちは年月で消えたりはしない。
何のお話です?人の悋気には限りがねえって世間話だ。
当たり前でございます。
特におなごは。
(蝉の鳴き声)そうでした冷たい白玉をこしらえたのでした。
弓之助たんと召し上がれ。
あなたも白玉はお好きでございましょう?はい。
だがよう17年前に姿をくらました女をいまだに恨んでるってのがどうにもげせねえ。
葵さんはいまだに姿をくらましてないのかもしれません。
うん?あっいえですから娘のみすずさんも葵さんに似ているらしいですし。
おふじは葵を忘れたくても忘れられねえって事か。
・あなた…あなた!どうした?先ほどはこのようなものありませんでした。
気味の悪い。
黒豆か。
白玉でございます。
いやそうじゃなくて。
これこれこれ。
黒豆。
平四郎殿白玉の馳走にあずかれず残念至極。
フッハハハ。
英之介の手紙によると壺信心の八助一家は川崎弁財天の仲見世で茶店を営み幸せそうであるという。
そうなったいきさつだが鍵はずばり湊屋にあった。
それは八助たちが壺信心のふりをして長屋を出るひとつき前の事だとあった
後の暮らしは全て湊屋が面倒を見ると言っているのです。
こうして八助一家は壺信心に本気ではまった2家族を伴い長屋を出たのであった
やはり叔父上のにらんだとおり湊屋の手引きでしたね。
あ…叔父上?黒豆の調べでも久兵衛を見かけたやつがいる。
おくめが見たのも間違いなく久兵衛だ。
となるとだ…。
(久兵衛)これは井筒様…。
やつは湊屋生え抜きの奉公人だ。
長屋の差配人である久兵衛抜きにはこの企ては始まらない。
て事はやつが姿をくらました事自体がはなから決まってたって事だ。
久兵衛さんが長屋を出て佐吉さんが送り込まれてくる。
若い佐吉さんじゃお徳さんたちがいい顔する訳がない。
店子の人たちの間に隙間風が吹き抜けいつしか空き家が増えていく。
だったら俺は…何でここにいるんだろう?しぼんじまった佐吉はしっかり道化者って訳だ。
しかし妙だ。
えっ?おふじと葵の仲が険悪な事を知っていながら何で湊屋は佐吉を送り込んだんだ?湊屋さんは何を考えているのか本当のねらいは何なのか。
そこは謎のままですね。
久兵衛も人が悪いぜ。
こうなったからには八百富の一件も眉に唾しなきゃならねえな。
あれは久兵衛が長屋を出ていく口実としてはめっぽううまく出来てた。
権吉さんの件も調べてみた方がよろしいんじゃないでしょうか。
あれも湊屋が仕掛けてるかもしれねえって事か。
桶職の権吉の娘お律は博打のかたに自分を郭に売ろうとした父親に愛想を尽かし長屋を飛び出していた
だがよあの親子を追い出すためだけに権吉を博打に引きずり込み借金まみれにしてお律を売り飛ばすような格好に持ってくのはいくら何でもひどすぎねえか?あのまま郭から来た男たちに連れ去られてたとしても例の渋い番頭さんが出てきて「お律さんすまなかったね。
実はどうしてもあんたたちに立ち退いてもらいたい事情があって手荒い芝居を打った。
だが心配はいらねえ。
あんたにはいい仕事を世話するしそのうち権吉も長屋を出る事になる。
すぐにまた一緒に暮らせるようにしてやるよ」。
はい。
ああいやおいお前役者になれるぜおい。
なあ?うへぇ〜。
お露と富平親子は確かお徳が猿江町の長屋に住まわせてたんだったよな。
うへぇ近頃じゃ富平さんの加減もいいって話で。
だがあの一件をほじくり返せばお徳が妙に勘ぐるかもしれねえ。
まずは権吉からか。
(佐吉)どこかへお出かけですか?
(権吉)あっちょいと仕事を探しに。
(箕吉)とか何とか博打じゃないのかい?権吉さん。
いじめないでくれよ箕さん。
(笑い声)
(権吉)アハハッハハハハハッ。
(友兵衛)年寄りなら年寄りらしくしょぼくれて歩けってえの。
はあ…。
(お徳)鍋に汗入れないでおくれよ。
分かってるよ。
けど暑いよ。
夏だからさしかたないだろう。
(匂いを嗅ぐ音)あ〜臭いねえこの薬。
お徳おばさんお握りく〜ださい。
あいよ。
ちょいと待ってておくれ。
あと煮物も。
はいはい。
そうだ権吉さんどうしてる?仕事を探しに行くってたった今。
フンッ仕事なんてある訳ないよ。
いいのかい?ほっといて。
博打も酒もやめたって話だよ。
娘を郭に売り飛ばそうとしたんだそのくらい当たり前だよ。
本当に困った事になるまでほっときゃいいのさたまには。
お灸を据えてやらなきゃね。
はい。
そりゃそうかもしれないけどさ。
ああ〜それにしても暑いよ。
煮売り屋は夏が大変だ。
お徳さん何かコツないかねぇ暑さを乗り切るコツってやつ。
コツなんかある訳ないだろ。
そんなもんはね慣れだよ慣れ。
忙しくしてりゃ体がついてくるようになるんだよ。
これだもんね。
私なんかあっちこっちあせもだらけだよ。
・
(おでこ弓之助)・「だるまさんだるまさん」・「にらめっこしましょ笑うと負けよ」・「あっぷっぷ」べえ〜。
うう〜。
(笑い声)ようござんす。
とりあえずその権吉という親父に張り付いてみましょう。
すまねえが権吉がお律という娘と会っているようならついでに娘が今どこで何をしているかも調べてほしいんだ。
権吉が博打に引っ張り込まれた事と娘の家出には陰に黒子がいるという話ですが本当に裏があるなら黒子は権吉ではなく娘を動かしていると旦那は考えてらっしゃる?俺じゃねえ。
弓之助だ。
えっ?あっなるほど坊ちゃんがね。
俺んとこの中間を使えばいいんだが長屋の連中に顔を知られちまってるもんだから張り付く訳にもいかねえ。
…でこっちに足が向いちまった。
そう遠慮なすっちゃいけませんぜ旦那。
俺が遠慮してるように見えるかい?えっ?
翌日の夕方。
早速知らせが届いた
さあ語ってくんな。
(おでこ)あいあい。
今日の事でござんす。
権吉という親父は鉄瓶長屋から外に出るとまっつぐ永代橋に向かってそれを渡り青物横丁から日本橋を北に抜け内神田瀬戸物町に向かったのでござんす。
迷ったり所番地を尋ねる訳でもなくそれまで何度も通った通い慣れた道のようだったようでござんす。
やがてあるお長屋に入ると鉄瓶長屋の人々よりもずっと愛想よく挨拶を交わしたあとある家の油障子を開けて中に入ったのでござんす。
長屋の人たちの話ではこの春頃から年頃の娘と2人で住んでおり権吉は通いの仕事の関係で夜に出かけて昼間には帰ってくるそうで娘は近くの瀬戸物屋丸藤で働いているとの事でござんす。
娘の名前はお律というそうでかわいらしい顔立ちの娘との事でござんす。
ありがとよおでこ。
これは政五郎への心付けだ。
…でこっちはお前の駄賃だ。
毎度ごひいきに。
けどこういうものも一遍親分に見せないと勝手には使えないんです。
ああ俺の女房殿だ。
ああこいつは岡っ引きの政五郎んとこのおでこ。
おでこさん?あいあい以後お見知りおきを。
では。
うん。
どうした?あの物覚えのよさといったら驚きでございます。
その翌日の事
おい娘さん。
(お律)はい!この小伜がおねしょをしてしょうがないんでおまるを一つ見繕ってほしいんだが。
叔父上〜。
あ〜私を覚えておいででしょうか?お律さん。
少々お伺いしたい事がありますのでお店のご主人からお許しを頂いて少しばかり手前どもとお話をさせて頂けないでしょうか?という事だ。
博打のかたに私を売り飛ばそうとしたお父っつぁんのしらっとした笑いが急に憎らしくなって。
家出をしたところまでは私が自分で考えた事です。
それで?家を出るのは身一つでいいけれどそれまで働いてた茶屋には挨拶に行かなければなりませんからその足で行こうと思ったんです。
そしたら…。
湊屋の使いの渋い男前の番頭さんが現れた。
番頭さんだけれどお店の御用ではなく湊屋のご主人の御用をじかに承るのがお役目だって。
名前は?存じません。
…そうかい。
で?
(お律)番頭さんは湊屋は鉄瓶長屋の店子たちに世間的に追い立てを食らわしているようには見せずに出ていってもらいたいんだって。
お父っつぁんの事もそのために仕掛けたんだってそう言ってそれで今の住まいとここを世話して下さったんです。
でもひとつきたちふたつきたつとお父っつぁんの事が気になってしかたなくて。
それで番頭さんに相談すると一遍連れてきてくれて。
すまねえすまねえお律…。
もう博打なんか金輪際しやしねえ。
だからようだから俺を捨てねえでくれよ〜お律。
お父っつぁん!番頭さんお父っつぁんもここに呼んじゃあいけませんか?そいつはもう少し待ってもらえないかい。
そのかわり権吉さんあんたがここを訪ねてくればいい。
ただし当分の間は…。
という事でお分かりですね?
(弓之助)湊屋のその番頭さんはどうして店子を追い出さなきゃならないのか話してくれませんでしたか?あの場所に新しい建物を建てたいのだそうです。
どんな?さあ?あんな場所に何を建てるってんだ?しかも今いる店子を追い出してまでだ。
…さあ?まっいいや。
…でお律よ。
はい。
お前湊屋からいくらもらった?そいつもいいか。
とりあえずだ。
お前たち親子に後ろ暗いところはないからこのまま暮らしても差し支えはねえが俺たちが訪ねてきた事ややつらの企てを承知している事を湊屋の番頭にはないしょにしておいてくれよ。
いいな?はい。
しゃべりますねあの人は番頭さんに。
しゃべるだろうなあ。
まあいいじゃねえか。
湊屋がそれを知ってどう動くかひとつ見物と洒落込もうぜ。
じゃあそういう事なんで。
よろしくお願いします。
お世話になりましたどうも。
さあさあさあさあ。
おうおうどうしたどうした?えっ?エヘヘヘ…。
「エヘヘ」じゃなくておい。
えっ何があったんだい?何でもあるじ筋のお店を手伝うとかで豆腐屋さんが家移りする事に。
何だって?まあこればっかりはしかたない事ですから。
(お絹)ちょっとどうしたんだい?ああ豆腐屋が出ていくんだってよ。
あ〜あ何だってこう辛気くせえ話ばっかり続くかねえ!そんな事言ったってしょうがないだろう。
佐吉さんのせいじゃあるまいし。
誰がんな事言ったよ。
口出すなおかめ。
うるさいよひょっとこが。
あっ言ったなこのアマ。
言ったがどうした?唐変木。
お前みてえなのがいるとないっぺんに魚が腐っちまうんだよ!じゃあ出てってやるよ出てって!ああ上等だ。
出てけ出てけこん畜生がバカ野郎。
こら。
そうはいきません。
そうはいきませんよ!俺はこう見えても差配人なんです。
俺の前でけんか別れなんてされたら後味が悪くてしかたがありません。
それに官九郎だって魚の切れ端がもらえなくなるってんで困っちまう。
(烏の鳴き声)
(鳴き声)ほらねっ。
何が「ほらね」だよ。
もうバカバカしい。
(笑い声)よくやってるね佐吉さん。
あんたの言うとおりだ。
よくやってるよあの人は。
えっ?本当のところよく頑張ってると思うよ私ゃ。
だから悪くは言いたくないんだ。
だったら…。
だけどさだけどね…。
(おくめ)何だい?だから何なんだよお徳さん。
久兵衛さんがさ…。
あの元の差配人さんかい?あの久兵衛さんが言ったんだよ。
うん?
(小平次弓之助)あっ。
おくめ。
あら旦那。
どうしたい?ぼんやりしちまって。
あせもがひどくてね。
長命寺の先にあせもによく効く貼り薬出してくれる樹庵ってお医者様がいるって聞いて通ってるんですけどね。
暑いでしょう?行くのもつらくって。
平気ですか?あい。
お前の先の商売じゃあおしろいかぶれがあるからなあ。
小平次。
へいへい。
お前ちょいとおくめの代わりに行って貼り薬もらってきてやれ。
えっ?おくめに話があるからよ。
いいんですか?助かりますよ。
これお代。
うへぇ〜。
行ってこい行ってこい。
なっ。
遠いぞハハハハ。
何ですか?話って旦那。
ところてんでも食おうか。
八百富のお露ってあの?
八百富の娘お露は病気の父親を殺そうとした兄の太助を殺めたとお徳に告白。
それを知った久兵衛が自分が買った恨みのせいだとして失踪していた
お徳は何か言ってないか?別に何にも。
第一あの人余計な事は一切しゃべらないもの。
口は悪いけど本人のいない所じゃ陰口きかないしうわさ話だって好きじゃない。
お徳が一人で出かける…なんて事はないか?ないない全然。
私がお徳さんならもう暮らしぶりに心配がなくなったと思ったらもうお露ちゃんには近づかない。
何でだ?だってさお徳さんがいつまでも親切に構ってたらお露ちゃんとしちゃあその度にその…人殺しの事思い出さなきゃならないじゃないか。
ああ…。
ねえ?お徳さんはバカじゃない。
はなっからそんな事は承知の助だよ。
だからさきっともうお露ちゃんって子とは会ってない。
なるほど。
お前もお徳も賢いな。
俺が一番のアホだ。
うん。
うん?それは旦那が男だからですよ。
女の賢いのと男の賢いのとは道が違うからさ。
なるほど。
「なるほど」って嫌ですよ坊ちゃん。
子どものくせに。
やっと少しは元気になったようだな。
本当に元気がないのはお徳さんさ。
何かあったのですか?余計な事をしゃべらないお徳さんがねついさっき珍しく私にしゃべった事があるんですよ。
何を?佐吉さんの事ですよ。
佐吉さんの事をね褒めたんですよお徳さん。
「よくやってる頑張ってる」って。
お徳が?けどそう言いたいんだけどできないんだって。
だから「何でだよ?」って聞いたんですよ。
そしたらさ久兵衛さんが愚痴を言ってたらしいんだってさ佐吉さんの事で。
久兵衛が?え〜?佐吉って男は旦那の身内なんだけど事情があって湊屋の跡目にはできないんだ。
私ももう年だからね。
旦那はここの差配人として佐吉を押し込もうって腹積もりでいなさるようだ。
そんな。
ただね…佐吉は差配人にするには若すぎる。
それに人柄もよくない。
差配人てのはいろいろとうまみのある仕事だ。
けど怠けようと思ったら楽に怠けられる。
とどのつまり務める人の人柄さ。
いくら湊屋の身内でも佐吉をこの長屋に入れるのだけは勘弁だ。
あれは…ろくでもない男なんだよ。
佐吉…。
何べんも何べんも言われたらしいよその事。
ところてんお代わり!
(店員)へ…へい。
それはつまりあれですか?人殺しが起こる前の事ですよね?だったら何で久兵衛さんはお徳さんにそのような事を言ったんでしょう?分かりませんよ私にはそんな事。
けどねお徳さん久兵衛さんのあとに佐吉さんが来た時「あっこいつだ」って思ったんだってさ。
私ゃ近頃じゃ分かんなくなってきちまってんだよ。
佐吉さんはよくやってるよ。
それなりに立派な差配人だ。
だけどさ私ゃ認めたくないんだよ。
だってさそんな事したら久兵衛さんに悪いじゃないか。
(おくめ)久兵衛さんからあんな話聞かされたばっかりに意地になっちゃって義理立てしちゃってさ。
旦那薬。
ああああ。
悪かったねえ。
さてとあんまり遅くなるとどこで油売ってたんだってお徳さんに叱られるから私ゃもう帰りますね。
ごちそうさまでした。
おう。
あっ旦那に聞かれた事はないしょにしときますよ。
その方がいいでしょ?頼まぁ。
じゃあ。
あ〜くっさ!小平次。
お待ち遠さまで。
ご苦労だったな食え。
へい!面白くねえなあ。
えっ?久兵衛はこれから何が起こるかを全て知っていてお徳を操ったって事だ。
ええ。
お徳さんを利用して佐吉さんが差配人として働きにくくなるようにしたんです。
店子たちがそれぞれ家移りしていくのもあそこは若い場違いの差配人が来てあのお徳とうまくいってない。
だから長屋が廃れたってしかたがない。
てな具合に外からは見える。
けどな…けど…。
佐吉はやつなりに懸命に頑張った。
お徳はそんな佐吉の働きを見てたんだ。
そして…こん中で苦しんでた。
その事を考えなかったのか久兵衛の野郎はよう。
面白くねえ。
実に面白くねえ。
あっえ…。
ちょっ…旦那!ちょっ…叔父上!
(小平次)旦那!
(小平次)旦那〜!久兵衛〜!よ〜く聞け。
俺はお店者のやる事はよく分からねえ。
だがな鬼ごっこは必ず終わる!いいか?必ずだ!平気ですか?死ぬかと思ったよ。
お律の所に井筒様が現れたそうです。
何?
(房吉)こちらの企てにどうやら感づいたらしくてはい。
・
(政五郎)それであっしらはそのお露という娘に張り付けばよろしいんですね?けどこの娘はやっかいだ。
事件の要を知ってるはずなんだ。
実際兄貴の太助が殺される場に居合わせてるんだからな。
そのおっしゃりようだと太助を殺したのはお露ではないと考えておられるんで。
…ああ。
(政五郎)ですがお露はお徳さんにその事をこっそり打ち明けたんでござんしょ?そのとおりだ。
(お露)お父っつぁんはもう死んでるようなもんだからって。
お父っつぁんだってそれを望んでるんだって兄さんそう言って聞かなくて。
お父っつぁんを殺させる訳にはいかない…。
だから…だから私…。
いいよもう。
もういいから分かったから。
もう分かったからね。
それを俺も聞いていた。
つまり旦那はこの件でもお徳さんは操られているとお考えだ。
恥ずかしいがこの俺もだよ。
…へい。
俺はともかくお徳はなあ鉄瓶長屋のまとめ役であ〜何て言ったらいいか。
(風鈴の音)そう…心だ。
長屋の心のような女なんだ。
心?そうだ心だ。
はい毎度あり!ありがとよ。
人の幸せを願い人の不幸を悲しむ事ができる女なんだ。
人にとって一番大事なものを持ってる長屋の心のような女なんだ。
久兵衛といざこざがあった正次郎がやって来て太助を殺しちまった。
いつまた現れるか分からないから久兵衛は姿をくらます。
これだけじゃ話の座りが悪いが実は太助を殺したのはお露でそこにはやむにやまれぬ事情があり久兵衛はその真相を知りつつ正次郎の逆恨みなんていう話をでっちあげて長屋を出ていった。
それを聞かされたのはあるいはにおわされたのがお徳だ。
長屋の心ですね。
心を押さえちまえばあとはどうとでもなる。
お徳は率先してこの作り話を広げていった。
俺もころりとやられた。
久兵衛がいなくなる前まではお露を引っ張って事情を聞こうと思っていたんだが腰砕けさ。
旦那はお優しいんですよ。
そいつはうれしくねえぜ。
お徳はな長患いの亭主をみとってる。
ならお徳さんにはお露さんの作り話は効いたでしょうね。
太助さん…富平さんを楽にしようって言ったのかい?そんな事しちゃいけないって言ったんです私。
そんな罰当たりな事しちゃいけないって…。
(政五郎)哀れな娘ですね。
うん?ですから哀れな娘ですよお露さんは。
お徳じゃなくかい?
(政五郎)お徳さんは哀れだと思いません。
哀れなのはうそをついてるに違いねえお露さんです。
お徳をだましたから。
(政五郎)それもござんす。
あっしが言いたいのはお露さんが言ってるのが作り話だとしても太助は本当に殺されてます。
つまり太助には殺されなければならない訳がちゃんとあったって事です。
そうだ。
そのとおりだ。
湊屋さんは店子を追い出すのに金をばらまいてはいるものの乱暴な事は決してしてやしません。
だが太助はそうじゃない。
命を取られちまってる。
扱いが違う。
どういう事だ?こいつはひょっとすると湊屋さんがなんとかして長屋を無人にしたい訳とどっか絡んでんじゃござんせんかね。
でなけりゃ命まで取られる訳がねえ。
ああ。
とにもかくにもあっしらはそのお露を見張ります。
とことん細かい事まで調べて旦那にお知らせ致しやす。
恩に着る。
恩になんぞ着ねえで下さい2014/11/27(木) 20:00〜20:43
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 ぼんくら(7)「仕組まれた出奔(しゅっぽん)」[解][字]
宮部みゆきの傑作時代劇人情ミステリーをドラマ化。江戸深川の鉄瓶長屋から次々と店子が姿を消してゆく。この不可解な事件を、“ぼんくら”同心・井筒平四郎が暴いてゆく。
詳細情報
番組内容
平四郎は、鉄瓶長屋での一連の出来事が、店子をそれとなく追い立てようとした湊屋の企てであることまでは探り当てたが、その裏に何が隠され、なぜそうしているのかは謎のままだった。失踪した元差配人の久兵衛(志賀廣太郎)が“長屋の心”であるお徳(松坂慶子)に対して佐吉(風間俊介)を嫌うように仕向けていたことを知った平四郎は、他人を操ろうとする総右衛門に怒り心頭、岡っ引きの政五郎(大杉漣)を仲間に引き入れる。
出演者
【出演】岸谷五朗,奥貫薫,風間俊介,加部亜門,秋野太作,志賀廣太郎,松坂慶子,六平直政,須藤理彩,大杉漣,音尾琢真,鶴見辰吾,佐藤江梨子,【語り】寺田農
原作・脚本
【原作】宮部みゆき,【脚本】尾西兼一
音楽
【音楽】沢田完
ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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