プロフェッショナル 仕事の流儀「バスケットボール部監督・井上眞一」 2014.11.28


その男が最初に受け持ったバスケットボール部は100点差で負ける弱小チーム。
だが3年で名古屋の王者となった。
続いて率いたのも無名の公立中学校。
全国大会6連覇の偉業を達成した。
(掛け声)そしてこの夏も率いる高校は全国4,000校の頂点に立った。
毎年選手が入れ代わる中全国優勝実に56回。
その素顔は50歳年下の選手に慕われるおじいちゃん。
(一同)イエーイ!
(一同)イエーイ!ありがとう!生徒の心をつかみ育てるプロフェッショナル。
その手腕は本場アメリカNBAのヘッドコーチすらもうならせる。
井上はこの日の朝も自宅の机に向かっていた。
もともとは中学校の教師。
だがその腕を買われ今は愛知・桜花学園でバスケットボールを専門に教えている。
午後までずっと続く戦術研究の息抜きは専ら映画鑑賞。
特にラブロマンスが好きだという。
練習が始まる。
ここは住宅街のため朝の練習は行えない。
これからの3時間で全てを教え込む。
この学校のバスケットボール部は総勢24人。
高校日本一を夢みて全国から集まってきた精鋭ぞろいだ。
ライバルたちがどんな作戦を打ってきても選手を勝利に導くのが井上の仕事。
変幻自在な戦術で頂点を守り続ける井上だがその指導の特徴は徹底して基本をたたき込むところにある。
ゴール下でボールを受ける練習が始まった。
あぁ!相手に当たり負けしないための腰の位置。
指摘はとことん細かい。
本気んなってぶっ倒せよ。
試合と同じ緊張感で練習する事で勝負どころで動じない選手を育てていく。
選手の集中力が落ちないよう前の日と同じ練習はしない。
その場で課題を見つけ新たなメニューを作る。
ディナイされてるまんまパスしたの誰だ?ゲーム中にディナイされてもパスするのか?しなきゃいいだろうが!はい。
コートでの井上はとにかく厳しい。
容赦ないどなり声が響き続ける。
一見すると選手が萎縮するのではないかと思う迫力。
だが真実はそうではない。
練習が終わった。
体育館の隣にある寮に戻ると選手と井上の関係は一変する。
井上は終始笑顔。
ここに井上が大切にする信念がある。
食べろよ。
コートを離れた井上は普通のおじいちゃん。
選手とからかい合う間柄だ。
選手も井上の考えをよく分かっている。
この日みんなで井上の優しさにつけ込んだ。
(一同)イエーイ!
(一同)イエーイ!
(一同)ありがとうございま〜す。
それにしてもコートであれほどどなりながらなぜ選手との距離は遠くならないのか。
その陰には井上さんならではの技が隠されている。
あんな勝手なスリーポイントあるか!バカ野郎。
チーム作ってないのに。
井上さんは厳しい言葉を言っている時も本当は冷静なのだという。
そして井上さんは自分と選手の間だけではなく選手同士の信頼関係にも気を配る。
学年の違う選手を相部屋にし先輩と後輩の垣根を壊す。
むやみな上下関係や厳しい規律を求める声にはそれが体罰につながると断固反対する。
井上のチームの部員数は毎年20名を超える程度。
他の強豪チームと比べれば少ない人数だ。
それは井上が一人一人と向き合い信頼関係を構築するにはこの人数が限界だと考えるからだ。
この日一人の1年生を叱責した。
このチームは井上がスカウトして集めた選手が多い中平田は自分から志願し入部した選手だ。
だが高度な練習についていけずチーム内での試合にもなかなか出られずにいる。
井上はその練習態度から平田の気持ちの弱さを見抜いていた。
キャッチができないのにどうやってバスケットやるんだお前。
何としても試合に出るという気持ちに欠けている。
叱責した2日後。
井上は突然試合形式の練習に平田を抜てきした。
平田は必死でボールに食らいついた。
シュートを2本決めた。
その夜食堂で井上が平田に声をかけた。
「萎縮しなければいいシュートが打てるじゃないか」。
そう励ました。
勝利に導く指導力が語られる事が多い井上。
だが井上が最も心を砕いてきたのはその事ではない。
バスケットボールが好きで上達したいとやって来た選手を1人たりとも脱落させない事。
事実井上が監督に就任して以来29年ホームシックなど特殊な事情を除けば退部した生徒は出ていない。
この日井上は一人の選手に歩み寄った。
足を捻挫し練習ができないカディ。
まだまだリハビリの努力が足りない事を伝えた。
カディは5年前父親と2人でアフリカ・マリからやって来た。
中学校でバスケットボールを始めどうしても井上のチームに入りたいと志願してきた。
当初はさみしくて泣いてばかりいたカディ。
以来井上は父親のように接してきた。
夜体育館で一人練習するカディの姿があった。
井上からかけられたある言葉を励みにしていた。
せ〜の…。
・「HappyBirthdayToYou」・「HappyBirthdayToYou」・「HappyBirthdayDear先生」・「HappyBirthdayToYou」
(拍手と歓声)
(拍手)井上さんは3年前に奥さんを亡くした。
以来一人暮らし。
パートナーはこの3匹のワンちゃんだ。
今選手の心をつかむ名指導者として広くスポーツ界に知られる井上さん。
だがかつては生徒に疎まれ指導方法を見失った日々があった。
井上さんがバスケットボールに出会ったのは中学生の時。
一気にその虜になったがその後進んだ大学で壮絶なしごきを体験した。
練習前上級生の命令で2時間走らされ練習中は球拾いしかさせてもらえない。
そしてわざと観覧席に投げ込まれるボールを毎日100本連続で取りに行かされた。
結局選手の道を諦め退部。
中学校の教員となった。
バスケットボール部の顧問になった井上さんは張り切った。
当時そのチームは驚くほど弱かった。
試合をすれば100点差をつけられて負けるほど。
絶対に勝たせてやろうと基本を厳しく教え反復練習を徹底させた。
ところが熱血指導をしても選手は萎縮するばかり。
当時中学2年生だった中村佳子さん。
強烈な怖さを忘れられないという。
教えても教えても生徒はうまくならない。
一体どうすればいいのか。
それは冬になり日が短くなった頃の事だった。
練習後車で選手をそれぞれの家まで送っていかねばならなくなった。
毎日送るうちたわいのない話を少しずつ交わすようになった。
クラスの中での好きな子の話。
よく見るテレビ。
そして井上さん自身に彼女がいるかどうか。
しばらくすると井上さんはある変化に気付いた。
厳しい練習を課してもなぜか生徒たちが前向きに取り組んでいた。
そして1年後100点差で負けていたチームはなんと名古屋市で優勝。
選手も井上さん自身も驚きの勝利だった。
あれから38年。
井上さんはアメリカにも渡りプロコーチの指導法や最新のバスケットボール理論を研究してきた。
でも今も一番大切なものが何かは揺らぐ事がない。
だから今日も笑顔で選手を見つめている。
9月。
秋の国体がひと月後に迫っていた。
夏のインターハイでは強豪の千葉代表を接戦で破り優勝した。
だが井上はこのチームはまだまだ発展途上だと感じていた。
今年のチームは個々のテクニックは高いが闘争心に欠けている。
苦しい局面をはね返せるチームにするため何をすべきか。
闘いは佳境を迎えようとしていた。
チームをたくましくする鍵は2人の選手にあると井上はにらんでいた。
1人はチームのキャプテンである…高辻は攻撃の司令塔。
小学校中学校でも全国制覇を経験している。
瞬時に多彩なパスを繰り出すその能力は全国屈指だ。
だがリーダーとしては優しすぎると井上は感じていた。
他の選手に自分の意図を伝え強引に引っ張る事がなかなかできない。
シュート力はチーム随一。
一気に3点を狙うロングシュートを決める力もあるがあまり積極的ではない。
チームを変える上でもう一人の鍵は1年生のステファニー。
ガーナ人の両親を持ち極めて高い運動能力を持つ選手だ。
だがステファニーはある弱点を抱えていた。
疲れるとすぐにさぼりだす。
もっと跳べる!高くジャンプしてシュートするこの練習でも自分を追い込めない。
上がってない膝が。
もっと!
(井上)あぁ〜!相手を振り切るフェイクの動きを練習させるがなかなかものにならない。
この日井上が動いた。
ステファニーを特訓するためある練習を指示した。
井上はステファニーがどんなに苦しい表情を浮かべても試合を続けた。
先輩のアドバイスを受けたステファニー。
ついに6点取り練習が終わった。
国体まで残り5日。
井上は出場する選手一人一人に向け手紙を書いていた。
キャプテンの高辻。
「声を出し思い切ってスリーポイントシュートを打て」。
そしてステファニー。
「疲れても絶対に諦めるな」。
指導者として井上を支えてきた思いがある。
長崎で国体が開幕した。
1・2・3ゴー!白いユニフォームの井上たち愛知は順調に準決勝に勝ち進んだ。
(拍手)
(拍手)だがキャプテンの高辻。
なかなか調子が上がらない。
仲間を引っ張る声がまだまだ小さい。
(拍手)
(終了ブザー)それでも井上たちは決勝へと駒を進めた。
その日の夜。
戦術を確認するミーティングのあと井上が不思議な事を言いだした。
おとなしい選手たちにあえて「『オレに任せろ』と言え」と言う。
(笑い声と拍手)
(笑い声)
(笑い声)
(一同)はい。
「楽しんで勝て」。
そう言って井上は送り出した。
決勝戦の日を迎えた。
相手はインターハイ決勝で大接戦を演じた千葉。
高校生で唯一日本代表にも選抜されている強力な選手を擁している。
(掛け声)
(会場実況)スリーポイントシュート決まった。
(拍手)序盤リードしたものの千葉のエースが反撃。
追い上げムードになった。
11番のステファニーが懸命にふんばる。
相手のディフェンスに諦めずシュート。
緊迫した展開の中4番キャプテンの高辻。
渾身のスリーポイントシュート。
(会場実況)4番スリーポイント!決まった!見事に決めた。
再び流れが愛知に戻った。
そして再びキャプテン高辻。
(会場実況)スリーポイント!
(歓声)
(会場実況)スリーポイント!
(歓声)
(会場実況)ブザービーター!4番!チームトップの20点をあげる大爆発。
一人一人これまでの自分を超えていけ。
選手たちは井上の思いに応えた。

(主題歌)
(終了ブザー)夏に接戦だった相手に完勝した。
選手たちの夢日本一。
その思いに応えるために井上の闘いの日々は続いていく。
自分自身の限界を決めないでチャレンジをし続ける。
そしてそれを楽しめる人ではないでしょうか。

(一同)イエーイ!2014/11/28(金) 00:40〜01:30
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「バスケットボール部監督・井上眞一」[解][字][再]

選手が替わり常勝が難しい高校スポーツ界。その常識を覆す女子バスケ部監督・井上眞一。体罰も、学年間の上下関係も、門限以外規則も一切無しという型破りな人育ての極意!

詳細情報
番組内容
選手が入れかわり、浮き沈みが激しいのが常識の高校スポーツ界。だが愛知・桜花学園女子バスケットボール部監督・井上眞一は違う。29年で主要三大大会に56回もの優勝を遂げた。選手を育てる秘密はその人間力だ。指導は厳しい。だがコートを離れると“ただのおじいちゃん”と化す。体罰も、学年間の上下関係も、寮の規則も門限以外一切無し。「いい人間である前に、いい選手であれ」と言い切る男の、型破りな人育ての極意とは!
出演者
【出演】桜花学園バスケットボール部監督…井上眞一,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
スポーツ – その他の球技

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日本語
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日本語(解説)
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