どうにもこうにも、こんなニュースが話題になってた。
ここで扱われている「熱情ペイ」とは日本で言う「やりがい搾取」のことだ。
熱情は情熱、ペイは支払いのPayで「情熱があればお金なんていらないだろう?」と労働力を買い叩く企業を皮肉った言葉である。またIKEA世代と言う言葉もまた韓国の若者が使い捨ての粗雑な家具を「長く使う気がない人が安価に買い叩かれる若者」と引っかけて生まれたそうだ。
日本にもやりがいばかりを売りにして、給料や労働者の権利をないがしろにする会社や経営者を批判する「やりがい搾取」と言う言葉が昔からあった。
でも、マスコミの関心が恐ろしく低くネットを使わない人からは知られていない。
ネットと社会学者の間では「やりがい搾取」という言葉は知られてる。
言葉自体は本田由紀さんとれっきとした社会学者が提唱した概念であり、ネットスラングではないため、一般紙で扱っても全く恥ずかしくないはずだ。
ところが、ネットで検索してみると驚くほど扱いが酷い。
日本の場合はWikipediaの記事すらなく、マスコミでも取り上げられないから検索してもイケダハヤトさんのブログやはてなキーワードがトップに来る。
ビジネス系ニュースサイトは少し出てくるが、大手マスメディアが出てこない!
ほとんどの記事のブロガーで少しだけウェブに明るいライターが書いてるが…4大新聞の関連記事もなければ、日経も地方紙出ない。リンク元の記事だって「日経」だが、日本にも同じ言葉が存在することに対して触れてない。
ここにやりがい搾取という価値観がネット以外で浸透しない理由があるのでは?
やりがい搾取の解説かねがね書いてみよう。
やりがい搾取が起こる国には大きな格差と脆弱な社会保障
結論だけ言えば「富裕層・お金のある世代がてめーの都合で若者を好きなようにできる環境」がやりがい搾取を生じさせる。
具体的には社会保障の脆さ・法令遵守がなされない(教えられない)環境・高い奨学金や学費のせいで若者は嫌でも働かないといけない…など、とにかく今・将来にまでお金のことで追い回されるような社会制度・慣習がまかり通る国で起こる。
また、日韓以外にも酷い「やりがい搾取」が存在する国はある。
アメリカでもマイケル・ムーアが「やりがい搾取」の現場の話を映画で撮っていて、それを議会に陳情する職業人の発言が冷たい目で見られてる話が出てくる。
この3カ国は政治も経済も、更には社会規範にまで企業が食い込んでいて「企業が国家を運営してるような国」だ。
まず、年令に関係なく過酷な労働や不当な賃金・雇用が許され、社会保障が脆いため将来に不安を抱えて働くように仕向けられる。
そして、若者の問題としては学費が高いのに、大学に行かないと就職できない職業が多く存在し過ぎてることにある。特に日米の学費は高い。
その学費の高い大学を出た時点で「働かないといけない」「しかも景気も良くないから選べない」という二重苦に若者は苦しめられる事が「やりがい搾取・世代間格差」を大きくしている。
ちなみに、この3カ国は有給消化率でもワースト3の国だ。
やりがいを搾取されてるのは給与面だけではなく、「生活を犠牲にしてまで働く」という1つの文化や美徳にまでなっている。
ここまでは、日米韓3カ国共通。でも、ここからが違う。
日本では企業やおっさんが搾取してる自覚がない
大きく違う所は「そういった社会のあり方に批判的な意見が飛び交うのが米韓、マスコミでは核心を突かずネットのみで共有されるのが日本」というのが大きな違いだ。
韓国では貧富の差を大きくするような政治的決定には大きなデモ・むしろ暴動に近い攻防が飛び交うし、酷い決定をしては大統領が必ず犠牲になる。(韓国の歴代大統領は毎回毎回逮捕される)
また、アメリカではマイケル・ムーア以外にも社会批判・企業批判をする映画が沢山あり批判が飛び交ったり、色んな事を言う自由もある。
でも、日本の場合はメディアだとトーンが小さくなる。
「報道しない」までは言わないけど、一部の弱者・ブラック企業の悪行として扱うことが多くて、社会システムがやりがい搾取を許していることがきちっと説明されない。
先ほども述べたが、やりがい搾取が起きる条件は「社会制度が脆弱で将来の不安がいくらでも挙がる環境」であり、加えて若者の場合「大学を出た時点ですでに借金をしている・新卒ならともかく中途半端な勤務期間で会社を抜け出せばとても再就職も返済も難しくなる」という若さゆえの事情もあるからブラック企業だろうが、やりがいで搾取する仕事だろうが嫌々勤めてる・勤めて病んだ人がいっぱいいる。
でも、社会の問題じゃなくて「ブラック企業が悪い」とか「こんな若者がいる」という報道の仕方しかしない。それが大きな問題なのに…。
日本のマスコミは殴る相手にはとことん殴るくせに、絶対に殴らない・予定調和のプロレスのように弱々しくしか叩かない相手が多く存在する。
例えば、テレビをもっともよく見るバブル~団塊の世代。基本的に彼らの悪口は出ない。
例えば、今成功している企業。特に日経スペシャルの番組がそうだが、「こんなの」と思うものも褒め称えるような取り上げ方をする。
例えば、支持率が高い政権。解散総選挙が行われるまではアベノミクスの批判は殆ど出ず、かつての小泉政権もまた政権当時は絶賛され政権から降りてから批判された。
何が言いたいかというと「搾取している年代・搾取で栄えてる企業には搾取の構造に加担してること・その企業が採用する制度のせいで辛い人が出ることを追求しない」んだ…。本当に良くない文化だと思うけど、その企業が非正規雇用で儲けていようが、やりがいを盾にして不当労働をさせていようが、「勝っていれば正義」という空気をメディアは作っている。
別に大それた陰謀なんかないだろう。むしろ、「儲かる・クレームが来ない・ウケることを書く」ということに特化した結果としてこうなってるだけだろう…。
メディアを悪く言う気はないが、ブログやTwitterで話しているノリが特殊であることを把握してないと話が合わなくなる。
何しろ報道されてなく、検索しても見慣れないブログしか出てこないからとっつきにくい話になりがちなのだ。
結果として、若い時に通ってきた常識を年老いて自分の後輩に会社や一個人として押し付け続ける。他のやり方も知らなければ、昔のやり方に問題があることも知らないから。
それを「そんなことも知らんのか」とキレるのではなく、粘り強く説明する・自分が偉くなった時に合理的に変えていく・読みやすいソースを見つけて少しづつ普及していかないと、年配者に価値観が浸透しない。
社会システムに追い回されてるのが最大の問題ではある。だから、政治や報道が変わってくれれば一番いいのだが、その政治や報道は年配者に配慮して報道してくれない。
だから、昔通った「やりがい」という言い回しが搾取だとも思わない人がずっと「やりがい・やりがい」と言い続けるし、その人に批判が届かない。
やりがい搾取以外でも「若者の話題や社会認識が親世代・会社と噛み合わない」と言う時はこうした要因が大きいのではないだろうか…。
テレビの人間でもないし、政治にも関わりがないからなんともできないけど、こうした空気は変わってほしいものだ。
年配者がGunosyやヤフー個人で知ったブログを読むようになってくれるのが一番の解決だと思うけど…なかなか進まないんだよなぁ…。
やりがい搾取が初めて出てきた本だそうです。
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