学生服を着る中学生。
実は女の子の体で生まれましたが幼いころから、男の子として生きたいと訴えてきました。
心の性と体の性が一致しない性同一性障害。
社会での認知度が高まるにつれ今、悩みを訴える子どもたちが増えています。
国は、ことし初めて全国の学校を対象とした実態調査の結果を発表。
性同一性障害と見られる児童や生徒は、少なくとも600人以上いることが分かりました。
周囲の理解が得られず不登校や自傷行為に苦しむ子どもの実態も明らかになってきました。
学校はどう対応するべきか。
研修会を開くなどさまざまな模索が始まっていますが現場では戸惑いも多いといいます。
性別の悩みを抱える子どもたちとどう向き合えばよいのか。
教育現場からの報告です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
体は男性でも、心は女性。
逆に、体は女性でも、心は男性。
心と体の性別が一致しない性同一性障害について社会の理解も進み成人の場合は、体の性を心の性に合わせる手術を受けたり一定の条件を満たせば戸籍の性別を変更することができるようになりました。
体の性別への違和感はいつごろから始まるのか。
物心がついたころから始まる場合が多くおよそ9割が、中学生までに自覚しているという調査結果もあります。
男女別の制服や、トイレ体育の授業など男女のすみ分けが明確な場面が多い学校生活は性別に違和感を持つ子どもにとって苦痛を伴うものとなります。
特に心身が大きく変化する思春期を迎えると体の性の違和感が強まり不登校になったり自殺願望につながるケースもあるということです。
文部科学省は、性同一性障害の児童や生徒に配慮した対応を学校に求める通知を4年前に出していますが個々の子どもに合った学校での配慮や支援はまだまだ進んでいるとはいえない状況です。
制服は、心の性に合わせた着用を認めるのかトイレや更衣室はどうするのか名前は本人の望む通称を認めるのかさらに、同級生や保護者にどのように理解を求めていくのかなど、課題は山積しています。
心も体も発達途上にある子どもたち。
性同一性障害の見極めが難しいといわれる中どうすれば一人一人の子どもが周囲に理解され十分、受け入れられていると感じながら自分を見つめていけるようになるのでしょうか。
初めに、みずからの性別に悩む小学生の実情をご覧ください。
小学3年生のまりあさんです。
男の子として生まれましたが6歳のころから自分は女の子だと訴えてきました。
スカートをはいて学校に行きたいと考えているまりあさん。
しかし不安があり悩み続けています。
まりあさんは幼いころから男の子として育てられることに苦痛を感じていたといいます。
小学校に入ると女の子になりたいという気持ちが日に日に強くなっていきました。
しかし母親はすぐには受け止めることができずその後も学校には、男の子として通うよう促してきました。
持ち物もすべて男の子用です。
思うようにふるまえないもどかしさがまりあさんを苦しめています。
もう嫌やねんもん。
母親は悩んだ末性同一性障害の専門医のもとを訪ねました。
ここでは、まりあさんのような悩みを抱えた子どもが2年ほど前から急増しています。
中には教師や友達から理解されず精神的に追い詰められ、不登校やリストカットなどにつながる子どもも少なくありません。
専門医はふだんの様子を親から聞き取りどう接するとよいかアドバイスしています。
発達過程にある子どもの場合はすぐに診断名を付けるのではなく時間をかけて経過を見守っていきます。
まりあさんに対しても日頃の悩みを受け止め今の自分を肯定できるよう寄り添っています。
この7月まりあさんの母親はスカートなど女の子の服装で通わせたいと学校に伝えました。
しかし、まだ対応は難しいと言われました。
学校側は、NHKの取材に対し職員の共通理解が十分になされておらず体制が整っていない段階では不安のほうが強かったためと回答しています。
話し合いを始めて2か月。
2学期が始まる直前学校から母親に連絡がありました。
女の子の服装で通わせてもいいという内容でした。
その日の夜始業式に着ていく服を選んでいたときのことです。
1日は?2日は?
もう学校、嫌や!
まりあさんは学校に行きたくないと訴え始めました。
嫌なん?行きたくないの?
嫌ーだ。
ああ、もう、学校嫌だ。
怖いの、怖いの。
言われたら怖いの。
自分のことを周りが受け入れてくれるのか。
不安が抑えきれなくなってしまったのです。
3日後。
始業式の朝です。
まりあさんは悩んだ末女の子用のTシャツは着たもののスカートをはくことは諦めました。
友達の反応が怖かったからです。
この日は、母親と一緒に登校。
教室に入ることができず別室で一日を過ごしました。
学校側はその後まりあさんの主治医を招き研修会を実施。
できるかぎり、本人に寄り添った支援をしていきたいとしています。
自分らしく生きたいというまりあさん。
疲れた、ママ…。
しかし、今も友達からからかわれることもあり不安を抱えたまま学校生活を送っています。
今夜は、性同一性障害の専門医で、子どもたちの実態にお詳しい、岡山大学大学院教授の中塚幹也さんをお迎えしています。
自分らしく生きたい、しかし、ありのままに生きることが怖いと泣く小学3年生の、まりあさんの姿、どのように受け止めてらっしゃいますか?
そうですね、なかなか周りに受け入れてもらえないということで、自分自身に自信が持てないだとか、あるいは、何かちょっとしたことをしたときに嫌がられたりということで、嫌悪感を持たれたということで、その嫌悪感が、自分自身がなかなか自信がつけない、自分自身の中に、嫌悪感を内在化してしまってですね、なかなか自信が持てない、あるいはそれの延長で、例えば、うつになってしまったり、あるいは学校に行けない、引きこもってしまうみたいな、そういうのにつながっていくような例も見られます。
まりあさんの場合は、保護者の方も理解をし、そして学校もできるだけ寄り添った対応をすると言っているわけですけれども、小学生の生徒たちで、違和感を持っているのに、ことばに出せないという方々は多いと思われますか?
はい。
小学生の時代には、大体9割ぐらいはことばで言い表すことができないといわれてます。
そういうことによって、周りの人が気が付かないということで、一人だけ苦しんでいるという例も多いです。
そして、今、おっしゃったみたいに、自分への嫌悪感として、自己肯定感が低くなったりしていくわけですか?
そうですね。
そういうことが言い出しやすいような環境がもしあればですね、それがいいほうに回っていくんですけれども、なかなかそれは難しいですね。
周りの対応というのが、すごく大事になってくると思います。
そして不登校になったり、自殺願望につながることもあるということですけれども。
そうですね、われわれのところへ来られた方の、その前の経験を見ていくと、大体6割ぐらいの方が自殺したいと思った経験を持っていたり、あるいは3割ぐらいの方は不登校だとか、あるいは実際に自殺未遂をしたりというような経験を持っています。
それは何歳ぐらいで、そういう気持ちが強くなるんですか?
一番強くなるのは、やはり中学校のころですね。
体が変わってくる、思春期でどんどん、例えば声変わりをするだとか、月経が来てしまうということですね。
それから、制服の問題があって、今までどちらでもよかったのに、どちらかの制服を着ないといけなくなる。
恋愛の問題なんかも全部それが重なってくるので、その時期がすごくつらい時期になってきます。
しかし、性同一性障害かどうかと、この診断が非常に難しい、慎重に行わなければいけないということですよね?
そうですね。
特に子どものころは、なかなか気持ちも、自分は男性だ、女性だというのは、揺れてくるというのもありますし、その時期というのは、言い出せないということもありますので、なかなかわれわれが見ていても、すぐに診断つかない例も見られます。
性同一性障害でないケースもあるわけですか?
ずっと見ていってる間に、例えば最終的には同性愛だったとかですね、あるいはもう、そういうものがだんだん薄らいでいって消えていたというような例も見られるので、特に小学生の時期ですね、二次性徴、体がどんどん変わってくるような時期の前のあたりでは、やはりよく慎重に見ていかないといけないです。
ただ、あまりの違和感から、薬を自分で飲んでしまっているケースがあると聞きますけれども。
そうですね。
どんどん体が変わっていくので、やはりそこで焦ってしまってインターネットなんかで薬を買って、飲んでしまう。
ただそうすると、あまり安全な状態でない、たくさん飲んでしまって副作用が出たりですね、それから、あとでなかなかもとへ戻らないということがあったりするので、すごく慎重に。
体が元に戻らないというのは?
そうですね、いったん、ひげが生えてきてしまって、そうすると戻らない、あるいは、例えば体が男性の方に女性ホルモンを投与してしまうと、精子が動かなくなってしまって、子どもを将来、欲しいっていったときに、子どもができないとかですね。
そうすると、本当にきちっと専門医に診断を受けて、そして、慎重に見極めたほうがいいということですね。
そうですね。
性同一性障害の子どもたちですけれども、どうやって向き合っていけばいいのか、各地の教育現場で、今、取り組みが始まっています。
性同一性障害や同性愛などについて授業でどう教えるべきか。
奈良県では今、教材を作る取り組みが始まっています。
およそ6000人の教師を対象にした調査では性同一性障害について学んだことがあるのは僅か8.1%。
教師の中にもある誤解や偏見をなくして子どもたちにどのように教えるのか。
専門家と議論を重ねながら教材を作り各地の学校に配布する計画です。
性同一性障害の子どもをどう受け入れていくとよいのか。
具体的な取り組みを始めている学校もあります。
中学2年生の幸洋さんです。
女の子として生まれましたが去年、性同一性障害と診断を受けました。
この4月から男子の学生服を着て、登校。
名前も、幸洋という通称名に変えて過ごしています。
幼いころから男の子の服装で過ごしていた幸洋さん。
思春期を迎えると周りの視線に耐えられず学校に通えなくなりました。
男の子として学校に通いたい。
幸洋さんの希望をかなえるため母親は、学校側と話し合いを重ねてきました。
転機となったのは幸洋さんの気持ちを尊重しながら対応策を決めたことです。
学校はどんな配慮をするといいのか幸洋さんに一つ一つ確認。
話し合いの結果トイレは、多目的トイレを利用。
体育は男子と一緒に行い着替えは別室を用意することなど具体的な対応を決めました。
そして、この情報を教師全員で共有したのです。
こうして幸洋さんはことしの4月から心の性別である男子として学校に通い始めました。
とはいえ、幸洋さんの姿に戸惑う同級生もいました。
女の子としての過去を知っているためどう接していいのか迷っていたのです。
そこで、担任の先生はクラスで話し合いの時間を持つことにしました。
男か女かと考えるより幸洋さんという一人の人間を見て関係を築いていってはどうか。
先生の語りかけを、真剣に聞いていたという子どもたち。
これを機に、クラスの雰囲気が変わったといいます。
先月、幸洋さんにとってうれしい出来事がありました。
クラスメートから誘いを受けてサッカー部に入部したのです。
一人の仲間として受け入れられ幸洋さんはようやく、学校生活を楽しめるようになったといいます。
学校の積極的な取り組みもあって、幸洋さんは男の子として通えるようになったわけですけれども、こうした取り組みが行われている学校というのは、全体としては、どれぐらいあると考えたらよろしいんでしょうか。
そうですね、だいぶ増えてきてるんですけれども、学校単位で見ると、すごくやっている所とそうでない所と、さまざまですね。
学校の中でも先生も温度差がすごくあるというような状況です。
こうした取り組みが進む鍵となるのは、なんでしょうか?
やはり正しい理解というところが、一番大きくて、基礎的な知識を持っていただく、あるいは社会的にどういうふうな状況なのかを知っていただくというのが、一人でも多く、学校の中でいろんな子ども、あるいは学校の先生方、場合によっては保護者の方にそういうことを伝えていっていただくというのが、すごく大事になると思います。
今の幸洋さんの場合は、クラスで非常にオープンな議論をされていましたけれども、こうした取り組みは大事でしょうか?
そうですね。
これは担任の先生がこのクラスだったら、受け止められるってことで、ああいうふうな取り組みでうまくいった例だと思いますけれど、ただ、環境が整わないうちに、カミングアウトだけしてしまう、ああいうふうにしてしまうということになると、投げかけられた生徒もそれを受け止められないということも出てくるので、ですからやはりそれは環境を整えて、あるいはよく見て、やっていくという、個別の対応ということが、必要になってくると思います。
状況を見て、個別に?
なかなか画一的にはいかないということですね。
今の幸洋さんも、本当に伸び伸びと学校生活を送っていたのが、印象的なんですけれども、こうやって学校でも受け入れられる。
そして自分のありのままになれるということができるようになることで、多くの方の治療にも当たってらっしゃいますけれども、子どもたちは変わっていきますか?
そうですよね。
診察室に入ってくるときの顔が、全然変わってきますし、自信が持てるしそれからいろんなことに、やってみようかということで、チャレンジすることが出てきますよね。
そういった中で、性同一性障害に対する社会的な認知が高まりましたけれども、こうやって見ますと、本人が違和感を感じ始めるのが、幼いころということになると、本当に学校での早い段階での取り組みが大事だということになりますね。
ちっちゃい子どもには、ちっちゃい子どもに分かるようなこと、そういうことばで教えてあげるということであれば、もう本当に学校、あるいは幼稚園でもそういうことは理解できるようになりますので、ですから、そういうふうなことをやっていく中で、まだ先入観を持たない早いうちに人って、いろんな生き方があるんだよってことを、これは性のことに限らずですけれども、そういうことを受け止められる、子どもたちが増えていくといいなというふうに思います。
固定観念がない、幼いころからいろんな人がいるんだ、いろんな生き方があるんだってことを学び、そうやって育っていく人たちが増えていくと、この社会も変わっていくでしょうね。
そうですね、これが10年、20年と続いていく中で、そういう社会になっていってくれればいいなと思います。
ありがとうございました。
今夜は、中塚幹也さんと共にお伝えしてまいりました。
太平洋の楽園と言われるハワイ。
今から70年以上前この島は大きな悲劇に見舞われました。
2014/12/10(水) 00:15〜00:41
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「子どもの性同一性障害〜揺れる教育現場〜」[字][再]
「性同一性障害」と見られる子どもは全国に600人以上。制服や更衣室、部活動の選択などでどう配慮し、周囲の理解を得ていくのか。対応に揺れる教育現場の模索を伝える。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】岡山大学大学院教授…中塚幹也,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】岡山大学大学院教授…中塚幹也,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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