ハートネットTV ブレイクスルー「File.18 見えず聞こえずとも…」 2014.11.17


「よろしく」。
(取材者)好彦さんもいつもやってる何か…。
皆さんこんにちは。
途中で…。
(笑い声)よろしくお願いします。
終わり。
OK。
よろしいですか?あなたは目が見えず耳が聞こえない世界を想像できますか?深い海の底にいるように光もなく音も聞こえない暗闇の世界。
今回の「ブレイクスルー」はお互いの手を触りその動きや形で意思を伝え合って暮らしているある夫婦の物語です。
2人は京都府北部の山あいの集落で暮らしています。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
(取材者)おはようございます。
出迎えてくれたのは夫の梅木好彦さんです。
散らかってますけど。
30年ほど前自給自足の暮らしをするためにこの土地に移り住みました。
妻の久代さんです。
目が見えず耳も聞こえません。
(取材者)じゃあよろしくお願いします。
久代さんの一日は好彦さんに持たせるお弁当作りから始まります。
2歳の時原因不明の高熱で耳が聞こえなくなった久代さん。
30歳を過ぎた頃から目も徐々に見えなくなり40代の終わりには完全に失明しました。
以来手で触れた時の感覚を頼りに生きてきました。
ソーセージの数や形家のどこに何があるのかも手で触ってイメージ。
食事の準備だけでなく家事の一切を久代さんが引き受け好彦さんを支えています。
久代さんに残された感覚は以前にも増して研ぎ澄まされてきました。
料理の火加減は肌で感じる熱の強さで判断します。
家の中の段差もこのとおり。
足の裏で床のきしみやじゅうたんの切れ目を感じ取り自由に動けるようになりました。
「お弁当は晩ごはんの残り物が中心なの」と久代さん。
20分ほどで作り終えました。
おそろいのマグカップを用意していよいよ朝食。
微妙な手触りの違いでどちらが好彦さんのものなのか分かるんだそうです。
久代さん何やらご機嫌斜めのご様子。
はいはい。
「パソコンに夢中になってると聞こえないだろうと思って大きな声を出した」って。
(笑い声)世話焼き女房にタジタジの好彦さん。
時にはけんかもしますが楽しい毎日を過ごしています。
ちゃうちゃうちゃうちゃう。
2人には結婚以来続けている日課があります。
それは朝の「連続テレビ小説」を見る事。
「兄やん…ひょっとして蓮様が今どこにいるのかも知ってるんじゃない?知ってるなら教えて」。
「居場所知ってどうするだ?」。
(テレビ)「会って話がしたいの。
蓮様今どこにいるの?」。
好彦さんは触手話という方法でドラマの内容を伝えます。
手に触れて手話を読み取り意思を通わせるこの方法。
いつもは片手で会話しますがセリフや場面がよく分かるよう両手を使って丁寧に伝えます。
「はな。
俺行くから」。
ふだんは音も光もない暗闇の中で生きている久代さん。
「ありがとう」。
好彦さんの手を通して知らない世界を旅します。
今日はスタジオに梅木好彦さん久代さんにお越し頂きました。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」。
いつごろから「朝ドラ」を見るようになったんですか?「結婚してからずっと14年ぐらい前からずっと見てます。
長いです。
テレビの通訳を受ける時にちょっとテレビの動きが速いとついていけない時があるんです。
ゆっくりの時はいいんですけど楽しい時となかなか分からない時といろいろです」。
そうですよね行動も訳さないといけないんですもんね。
その動き右向きました左向きましたっていう。
「ですからちょっと通訳がついていけない時があるんです」。
そうか。
でもこうやって不満もご主人を通して言うって面白いですよね。
だから一心同体ですよね。
ご主人に対する文句もご主人が自分でしゃべらなきゃいけないっていう事ですね。
「そうですね」。
でも今みたいに文句だったりお二人でけんかをする時もこうやって手を握ってしゃべる訳じゃないですか。
今少しイライラしてるなとか今楽しいんだなっていうのはちょっとした手の動きとかで分かるんですかね?
(好彦)「そうですね分かりますね。
怒った時はちょっときつくなる。
ニコニコして元気な時は手話が元気になるんで分かります。
機嫌のいい時悪い時いろいろやっぱりそれぞれに合った手話になってくるんです」。
何かね一個ね久代さんの作るお料理で一番好きなものって何ですか?それが知りたい。
私?
(2人)はい。
料理の中で一番好きな料理。
何だろう?昔は炒め物がすごい得意だったけど最近作らないね。
(笑い声)それはひそやかに炒め物が食べたいっていう…。
「油が多すぎると体に悪いと思ってやめました」。
好彦さんの田んぼや畑は集落から更に車で30分ほど離れた山の中。
イノシシと格闘しながらの農作業です。
作物は全て農薬や化学肥料を一切使わずに育てています。
そのこだわりはこれまで歩んできた好彦さんの人生の象徴でもあります。
高校卒業後文豪武者小路実篤が呼びかけた新しき村に参加。
自給自足の集団生活をしながら理想の生き方を追い求めました。
中学校の頃に「人間の幸せって何だろう?」っていう事を考えたんですね。
まあそれは非常に難しい問題でそんな簡単に分かるものではないんですけどだけどどんな人間でも食べなかったら生きていけないと。
食べるっていう事はやっぱり人間が生きていく上で一番大切な仕事じゃないかと思って。
新しい住人の一人宇都宮さんの隣に住む梅木さん。
米や野菜など30種類以上の作物を作って自給自足の独身生活を送っています
30年ほど前集団生活から離れたった一人で今の土地に移り住んだ好彦さん。
みそやしょうゆも自分で造るなど誰にも頼らずに生きる理想の暮らしを手に入れます。
しかし人間の幸せを感じる事はありませんでした。
(好彦)農業だけじゃなくって人間の生活の中にはこういう食べ物とか衣食住の作っていく喜びっていうのとは別に困ってる人を助けるいうかね。
誰かの役に立ちたい。
好彦さんは阪神淡路大震災の直後からボランティアを始めます。
そこで出会ったのが既に音と光を失っていた久代さんでした。
好彦さんは自分の世界に閉じ籠もっていた久代さんの手を取り散歩や買い物に出かけました。
やがてボランティアとして関わり続ける事に限界を感じるようになりました。
障害者の人を助けるっていう事をボランティアとかいいますけど結局そういう人たちってそれが終わったらあとは自分の楽な生活に戻る訳じゃないですか。
ちょっとの間助けるだけならやりましょうっていう感じ。
それってちょっとおかしいんじゃないかっていう気がしてたもんですから。
久代さんを幸せにしたいと思うなら最後までその人生に寄り添い続けるべきだ。
好彦さんは54歳の時久代さんと結婚します。
しかし人間としての幸せを教えてもらったのは好彦さん自身でした。
タンスにこう服を片づけるのもね…
(好彦)あとはやっぱり夫婦って…何をした何をしたっていうんじゃなくって。
ただそばにいてくれるだけでいい。
久代さんとの穏やかな暮らしの中で見つけた小さな幸せを好彦さんはかみしめています。
40歳の頃の好彦さん結構な頑固者にも見えましたね。
(笑い声)そうですね。
お二人とも会う前一人だった時っていうのはどんな世界だったんでしょうか?う〜ん…どう言ったらいいかな?一人の時は一人なりに生活してたんだけども何かがちょっと足りないっていう気持ちね。
何が足りないんかは分からない。
だけども何か足りないなっていうのと…。
やっぱり一人では幸せになれないですかね?そうですね。
幸せっていうのは一人だけのものはないと思うようになりました。
やっぱり夫婦で一緒に暮らしてると夫婦のどちらかが幸せでない非常に苦しんでる時はやっぱりこっちも苦しみが続いてやっぱり一緒に幸せにいかないと一人だけ幸せになるのは難しいと思うね。
久代さんいかがですか?「私は見えなくなったあと10年間ほど暗い世界にさまよい歩きました。
情報もなく見えなく聞こえないんで友達もいなくって母が死んで頼る人もなくなりました。
その10年は長かったです。
主人に出会ったきっかけで明るくなったと思います」。
2人が見るもの触れるものっていうのは2人一緒に触れていくっていうこれが…何て言うんですかね夫婦なのかなと思うところがあり…。
お二人に難しいというか意地悪な質問なのかもしれないんですけど。
「いいですよ」。
結婚って何ですかね?「結婚って何ですか?」って。
「難しいですねそれは」。
結婚して困る事とか嫌な事とか苦しい事とかもいっぱい出てくる。
それも全部ひっくるめてそれが自分の成長に役立っていく。
自分の人生が広がっていく。
広がるっていう事はいい事ばっかりではない。
嫌な事も広がっていく。
けどもその中で本当の幸せっていうのが見つけられたら一番いいと思う。
「そうか」。
この日好彦さんたちは慌ただしい朝を迎えていました。
集まってきたのは目や耳が不自由な人たちとボランティア。
かつての自分のように独りぼっちでいる人たちを外の世界とつなげてあげたい。
久代さんは結婚してすぐに同じ障害がある人たちの会を立ち上げ定期的に交流の場を作ってきました。
表情がさえない久代さん。
なかなか食事が始まらない事にいらだっていました。
久代さんをなだめながら交流会を切り盛りする好彦さん。
山あり谷ありの会ですが当初数人だった会員の数は50人にまで増えました。
この会で目や耳が不自由な人が思い切り楽しんでくれる事。
それが久代さんと好彦さんにとっての何よりの喜びです。
やはり同じように目が見えなくて耳が聞こえない人たちと交流する事っていうのはとても大事な事ですか?「私大阪生まれなんですけど京都府に引っ越しました。
京都には盲ろう者の団体がなかったので私盲ろう者として友達が欲しいと思った。
…で盲ろう者が集まって交流をしたいなと思って活動を始めたんです」。
何だろう?社会的な活動なんだけどみんなで話すのが好きだから集まってるっていう感じがすごいすてきだなって僕は思うんですけども。
「そうですそうです」。
お二人に聞きたいんですけどお互いの好きなところを教えてもらっていいですか?
(好彦)「好きなところというと主人は顔が小さくてかわいい。
…でまあ農業をやっててたくましい。
ちょっと機嫌悪い時にはガミガミするんだけどもよく冗談で脅かす時があります。
戸を開けて戸の隙間から急にびっくりさせるんで…」。
好彦さんは久代さんのどこが好きですか?まあ本当は全部が好きなんですけれども。
非常にきっちりしてる。
何でも最後までやるっていうところがねすばらしいと思う。
まあ子ども心を持ってる。
ず〜っとかわいいっていうところ。
「子どもです。
まだまだ子どもです」。
(笑い声)本当に月並みですけど理想の夫婦というか。
それも何かこう…これは必要だから手を触り合っているけれども怒ってても触れてる訳じゃないですか。
何か人に触れたくなりました。
手をつないだりとか…。
結婚14年を迎えてこれから2人はどうやって生きていきたいですか?「2人ともお互いに忙しくって話す時間がちょっと短いんでだんだん70とか年取ってきたらゆっくりのんびりと2人で暮らしたい。
ゆっくり暮らしたいと思ってます」。
2014/11/17(月) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV ブレイクスルー「File.18 見えず聞こえずとも…」[解][字][再]

目が見えず耳も聞こえない妻と夫の物語。ふたりは互いの手を握り、手話を読み取って意思を通わせ合う。50歳を過ぎて結ばれたふたりの穏やかな日常を見つめる。

詳細情報
番組内容
京都の山里で自給自足に近い暮らしを続ける60代の夫婦の物語。梅木久代さんは、目が見えず耳も聞こえない。普段は夫・好彦さんの手を握り、手話を読み取ることで、意思を通わせている。けんかしているときも手を取り合っている二人は、その穏やかな表情からは想像できないほど壮絶な半生を歩んできた。夫婦とは何なのか、結婚と何なのか、二人の人生とその言葉に考えさせられる。【出演】風間俊介(俳優)・安藤桃子(映画監督)
出演者
【出演】風間俊介,安藤桃子,梅木好彦,梅木久代,【語り】Chiko

ジャンル :
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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