「昭和の妖怪」と呼ばれた元首相は、今秋再刊された『岸信介(のぶすけ)の回想』で語っている。「日本人は気が短いとみえて、2年も総理をやると、さあ、お次の番だよということになる」。首相は4年は交代しない方がいい、との持論だ▼泉下の祖父は孫の姿に目を細めていようか。第3次安倍内閣が発足した。今の衆院議員の任期は2018年12月までだから、安倍氏も理屈上あと4年の首相在職がありうる。まっとうすれば戦後3番目の長期政権となる▼首相はきのうも自民党議員を前に強調した。「強い日本を取り戻す」。集団的自衛権をめぐる解釈改憲を受けて法整備を進め、憲法の条文改正も視野に入れていくのかも知れない。一寸先は闇とはいえ、首相が手中にした時間は潤沢だ▼自分の理想を実現するために必要な権力を持ちたいと考えるのは当然――。やはり最近出た『岸信介証言録』で元首相はそう語りつつ、権力欲の危うさも説いた。「ここら辺でもういいのだ、というその限度がなくなることもある」と▼祖父の述懐は首相も銘記しているだろうが、先の選挙で白紙委任を受けたと考えるなら、「限度」はなくなる。自民党こそ政権党と信じる支持層にすら、その点を恐れる向きがある。今回も応援のマイクを握った元宮城県白石市長の川井貞一(ていいち)さんは、本紙宮城版に語った。「安倍政権の暴走を危惧する」▼低投票率だったからこそ、静かなる多数派に丁寧に耳を傾けよ、と川井さん。声なき声を首相は聞くだろうか。
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