特集ドラマ ナイフの行方(前編) 2014.12.22


こちら、熊本の動物園では、カバのモモコがユズをぱくり。
巨大なカボチャをプレゼントされた、ゾウの姫子は。

(緑)ママ。
(香)うん?
(緑)死んでる。
(香)うん?死んでる。
何が?おじさん。
おじさん?いてよそこに。

(拓自)あっ…ごめん。
いえ…。
あ…いいえ。
いやねいつねいつ倒れても不思議がない。
まだ50代だっていっても…。
70だよ71。
(香)お元気で〜す。
緑ちゃん。
びっくりさせちゃったね。
さあごめんなさい。
あ〜ちっとも怒ってないよおじちゃん。
怖くないよちっとも。
緑ちゃん?緑…。
ああ…これは駄目だ。
(香)すいません。
いやいやいや…。
失礼します。
ああご苦労さま。

(時計の時報)緑ちゃん結構今日はしゃいでたね。
はい。
うるさくてやっと眠って。
いやいやうるさいなんて事はない。
全てがかわいい。
不思議なくらいだ。
あと一息で懐くんじゃないかな。
いやいいんだよ。
知らないおうちの知らないおじいさんだ。
せっかく子連れの家政婦がいいと言って下さったのに。
一緒に来てくれるだけでいいんだ。
(香)落語の人が何かの本で言ってました。
ああ噺家が。
はい。
子どもに好かれる男なんてろくなもんじゃないって。
ああ立川談志か。
いいえもっと古い人です。
うん?それは多分負け惜しみだよ。
孫か何かに嫌われたんだ。
いいえ。
私はそれは本当の大人の証拠かもしれないって。
そう言ってくれるのはうれしいけどね。
私が本当の大人な訳がない。
いいえ。
ただただいろんな思いをして…じいさんになってしまった。
聞かせて下さいいろんな事。
ああありがとう。
それがあなたのような仕事の役割の一つかもしれないが…。
役割じゃありません。
昔の事はいいんだ。
…はい。
おかしいかな?いいえ。
女房を亡くした。
子どもはもともといない。
はい。
仕事から完全に離れた。
はい。
なくしたものも多くてね。
はい。
あとは死ぬだけだ。
そんな…。
ところがこれがやっかいでね。
はい?明日死ぬかもしれない。
そんな…。
10年後かもしれない。
はい。
腰が決まらないんだ。
明日って事はないんじゃないですか?そうだね。
明日死ぬかもはじいさんの嫌みだね。
はい。
(笑い声)
(香)すごいね。
何かぜいたく。
きれいだ。
雲の端がきらきらしてる。
緑も「うん」ですって。
ああ「うん」だよね。
うん!「うん」だよ。
笑ってくれたぞ。
うん!
(警笛)
(アナウンス)「駆け込み乗車は危ないですからおやめ下さい」。
(荒い息遣い)キャ〜!あ〜!
(女)ああ〜110番!110番!立て!
(次男)何だよ。
行け!離せよ!何だよ!行け!俺に任せろ!110番はしただろう。
様子を見よう。
こっちを向け。
向け!あんたは私を刺そうとした。
私だからよかった。
私じゃなかったら刺されてた。
その勢いでばあさんも女も刺しただろう!聞こえるよ。

(サイレン)・
(サイレン)そんな心配する立場か!この顔か!ええ?この顔か!・
(サイレン)誰かれ構わず刺そうとした顔は!殺せよ。
何だと?・
(サイレン)殺していいよ。
誰がそんな事してやるもんか!うあっ!あっあ〜!聞こえるだろう外へ。
ああ〜!
(外科医)心配ない。
単純な骨折だから時が来れば治りますよ。
あっそうですか。
でどのくらい…?まあ1か月かな。
ああ。
こいつ妹の長男で小さな事でカ〜ッとなるやつで。
久しぶりに来たと思ったら…。
ほら。
はい?患者さん待ってるから。
あっはいそうでした。
どうもありがとうございました。
じゃあ行こうか。
うん。
どうもご苦労さまでした。
こっちだ。
私一人だ。
ああ門閉めて。
えっ?ああこっちだ。
上だ。
何だよ2階かよ。
ああ。
あっこの手すりは半年前につけたんだ。
この節建築法で手すりはつけなきゃいけないんだそうだ。
うちは古屋だからな。
去年の暮れにやっとつけた。
思わぬ事で役に立ってよかった。
俺は小さな事でカッとなったん…。
ああ〜危ない危ない。
大丈夫か?ああそんな事つい言った。
いろいろ聞かれると困ると思ったんでな。
余計な心配だったけど。
あああれは架空の妹の長男の話だ。
あんたとは関係ない。
あんたの事は何にも知らない。
架空の妹の長男だなんてよくそんな話ができるよ。
もう1人なんでな。
そういう親戚がいると想像したりするんだ。
さみしいね。
あんたほどじゃない。
よいしょ。
だろう?あんたほどじゃないよ。
よいしょ!配達のピザだ。
作るのは今日はもう疲れた。
ついてきた粉末のスープとで今日は済まそう。
ああお湯はあのポットですぐ沸いてくる。
私は3/3でいい。
だんだん食えなくなってきてる。
これって何なんだ?えっ?ああミックスピザとかいってた。
俺に何させようっていうんだよ。
あの通りでいきなりあんたの目を見てしまった。
誰でもいいから当たり散らしてやってやるという気持ちが突き刺すように来た。
止めなきゃいけない。
止めなきゃこいつの人生は終わりだという思いが込み上げた。
あんた2人の女に向かって走った。
しかし刺さなかった。
それからまた私を見た。
私に突っ込んできた。
意味はねえよ。
とっさだが私は全身であんたがすがりついてきたような気がしたんだ。
まさか。
俺はあんたにナイフを向けてたんだよ。
体が勝手に動いた。
ナイフを取り上げた。
腕をひねった。
走った。
カンフーかよ。
カンフー?太極拳か柔道か鍛えてんの分かったよ。
ああ昔の話だ。
だからかよ。
だから?現役だったら骨折なんかさせなかったろう。
殺してた。
えっ?現役なら殺してたよ。
そ…それってどういう事よ?冗談だ。
何だよ冗談かよ。
あんたが元気なら今すぐでもこんなうちから出ていくだろう。
ああ。
甘えるのが下手なタイプか?そんなやつは自分にも甘くない。
だからせっぱ詰まってしまうんだ。
何だよそれって俺の事かよ。
骨を折っておく事にした。
気軽に言うかよそんな事。
誰かれ構わず人を刺すよりましだろう。
ああねえあの…どうしようっていうの?それを考える時間が欲しかったんだ。
ちょっとねえ行っちゃうの?ねえ。
ピザとスープどうすんの?1人で食べてくれ。
今日は疲れた。
3/3持ってってよ。
下に冷凍のチャーハンがある。
チンして食べるよ。
ああねえ!はあ〜…。
どういうやつよ。
こんなにピザばっか食えっかよ。
食えるかもな。
だって俺腹ぺこぺこだから。
何だよコロンボかよ。
一つ言い忘れた。
ああ。
うちは火曜日と金曜日に手伝いの人を頼んでるから。
明日金曜日だ。
2階から下りないでくれ。
向こうにも2階の掃除はいいと言っておく。
トイレは上にもある。
俺が何をするっつうんだよ。
…とも言えねえか。
(電子レンジの音)はあ…。
フウ〜!え〜ほらほれ。
あっちょっと高かった高かったもう一回もう一回。
いい?取ってよ。
いい?ほ〜ら!・アハハハハッ!よしもう一回いこうもう一回いこう。
今度ねこれでいくから。
取ってよ。
ナイスキャッチ!はいおじさんに戻して。
アハハハハッ後ろ行っちゃった。
こっちこっちこっち。
こっちこっちそこから。
おじさんに戻して。
よし!ほれ〜!はいナイスキャッチ!おじさんに戻して。
おじさんに。
おおっ!いくよそれ!それ!それ!よし!・ナイスキャッチ…あ〜残念。
残念もう一回ねもう一回ね。
ごめんなさい。
ハウスキーパーです。
はい。
駄目。
えっ?喉に悪いんでしょ?しゃべっちゃ駄目なんでしょう?いやでも…。
し〜っ!お昼おうどんでいいですか?ああいいけど…。
し〜っ!痛むんですか?ううん。
し〜っ!お大事に。

(緑)えい!・おっ!・
(笑い声)それ!えい!わ〜緑すごい!強かったね。
よし。
よしそれ!えい!緑!緑やった!やったね〜!すごいなあよしもう一回いこう。
それ〜よっ!えい!緑すごい!・
(香)すごいねえ。
いいよいいよ緑頑張れ!・もう一回もう一回もう一回!
(時計の時報)何にも言わねえんだよな。
うん?まずいとかうまいとか。
あ…私は時に応じてどこでも何でも食べてきた。
まずいですか?食い物についてはいつも何にも言わないんだ。
はあ〜そりゃ奥さん張り合いなかったろうなあ。
ああすいません。
いや張り合いがなかっただろう。
いやまあそういう人だと思ってもう平気だったと…。
平気ではなかっただろう。
いやどうかな?いや何にしても黙ってる事の方が多かった。
奥さんが?いや私がだ。
女がそんな訳ないだろう。
そうかなあ?死なれてこたえてるよ。
ああ〜でもほらあの〜ほらあの〜あの子かわいいですよね緑ちゃん?どうして名前知ってるんだ?いやママがずっと呼んでたじゃないですか。
それだけか?それだけですよ。
2階にずっとですよ。
昼のうどんもあのママが廊下に置いてくれて。
それでいい。
でも何でですか?何で俺は2階にいなけりゃいけないんですか?何でだと?いや俺何にもしませんよ?昨日誰かれ構わずナイフを振り回したのは誰だ?変わったんだな。
あの2人から引き離そうというのは当然の用心だろう。
いやだから変わりました。
俺もう何にもしませんよ。
ナイフも取られたまんまです。
昨日この世の不幸をこの世の孤独を一人で背負い込んだ目をして殺気立ってたのは誰だ?ああっああ〜!自分でもよく分からないけどことんと…ことんと人が変わったみたいに変わったんですよ。
そんな事が信じられるか。
根本さんのおかげです。
口先で物を言うな。
じゃあほかの誰のおかげなんです?俺からナイフを取り上げて腕をひねり上げて警察から隠してくれたのは根本さんじゃないですか。
すごい経験ですよ。
ああ世の中にはこういう人がいるんだ。
行き場がなくて仕事もなくてもう息苦しくて人も嫌で自分も嫌で大暴れして死んでやろうと思ってたのが早とちりだったってド〜ンと気が付いたんですよ。
そんな簡単に気が付かれてたまるか。
気が付いちゃいけないんですか?早すぎる。
そんなやつはすぐまた変わる。
軽薄ですか?軽薄だ。
そうだろうな。
ず〜っと俺の事考えてくれる人なんていなかったから。
根本さんが一緒に走ってくれてのぼせてるのかもしれない。
私はまだ気を許してはいない。
一緒に飲もうとも言わない。
多分それが正解ですよきっと。

(ヘリコプターの音)
(インターホンのチャイム)
(時計の時報)
(インターホンのチャイム)
(ドアが開く音)はい。
(陽三)ああ…。
何か?お父さんお留守?ああ…いやあの…。
(陽三)いるの?いえ俺息子じゃないんで。
足どうした?あ…どういう用かっていうか。
この6丁目って聞いたんでな。
歩いてみたらあった根本。
ああ…それであのどちら様ですか?日本へ帰ってまだ半年なんだ。
友達ですか?うん?根本さんの知り合いでしょうけど。
無論そうだ。
そうじゃなけりゃあ捜して訪ねたりはしない。
今いませんけど。
そうか。
ああ…お名前伺ってもいいですか?古い知り合いだが友達とは言えない。
ああ…あの友達じゃなくてもいいんです。
お名前聞いといた方がいいかなと思って。
いいんだ。
いいんですか?いなきゃしょうがないだろう。
ああ…多分スーパーへ行っただけです。
俺が買い物に行けないんで。
30年ぶりの変な男が来たと言っといてくれ。
30年ぶりですか!?でかい声出すなよ。
(口笛)何だ?う〜ん…いいんだか悪いんだか分からなくて。
うん?いや30年ぶりっていう人が来たんで。
30…。
中に?ただ帰していいのかなと思って…。
お茶は出してないけど。
そうか。
丹波って人です。
分かってる。
え…まずいですか?いやまずくはないさ。
そんな事いつ言ったよ。
帰ってもらいますか?待たしておいてしばらくして帰ってもらいますよ。
買った物は置いて少し散歩して下さい。
変な先回りするな。
30年ぶりって言ったんだろう。
はい。
30年もたったか…。
…さあ?なあ多少誰だってそんなやつと会うには気持ちの準備がいるだろう。
ああお茶とか余計な心配するなよ。
2階上がってろ。
(ドアが開く音)ただ俺が悪い!ただ俺が悪い!ああ靴!靴!
(鍵が閉まる音)
(時計の時報)カレーうまいじゃないか。
ルーがあれば誰でも同じです。
あっそうだな。
はい。
言ってみただけだ。
はい。
ああ昼間の客は何だったのかと思ってるだろうが…。
立ち入りません。
言いたくない訳ではない。
簡単じゃないんだ。
いいんです。
悪いけど俺やっぱりまだ人の話をちゃんと聞く余裕はないかも。
そうか。
変なんです。
変な事はない。
人の話なんて普通そんなもんだ。
大体どうして俺はお宅に泊めてもらって平気で夕飯を食べているのか。
骨折は私のせいだ。
治るまで責任がある。
あの松葉杖も病院のレンタルだ。
返す前にいなくなっては困る。
分からない。
どうしてそんなふうに親切なのか。
「うちはどこだ」と聞いてないね。
「うちの人に連絡しなくてもいいのか」とも。
一人っきりに決まってると思ったからでしょ。
うんそうだな。
シェアハウスで来月の6日まで払ってあります。
家族はいません。
そんな事も今まで聞かなかった。
どこが親切なんだよ。
パジャマもガウンも借りてます。
そのガウンは返せよ。
気に入ってるんだ。
シャツとパンツも返します。
あれは新品だ。
返します。
返されても困る。
世間のそういうの何か俺ずれてて。
哀れむな。
自分を哀れむやつを見たくない。
強いのが自慢らしいけど自分を哀れむとやっと生きてられる時もあるんですよ。
ママ?ママ〜!はい!おにいさんがいた。

(香)だから言ったでしょう。
おにいさんがいるけどご病気なの。
喉が痛くて声を出しちゃいけないの。
足もケガして動かせないの。
いた。
うんいるけどいないの。
ご病気なの。
痛い痛いなの。
香さん。
すいません。
銀行へ行かなきゃならないんだけど緑ちゃん一緒じゃいけないかな?あ…はい。
どうする?緑。
根本のおじさんと駅の方までお散歩できる?ああ何か買うよ。
甘い物はいけないかな?
(香)控えてはいますけど。
ああ〜庭で1人じゃつまんないだろう。
・公園寄ってもいいよ。
公園。
うん?どうする?うれしいな。
緑ちゃんと2人でお散歩なんて。
おじちゃんすごくうれしいな。
心配?おじちゃんと2人じゃ心配?怖い?じゃあ少しうれしい?じゃあさ少しうれしそうな顔して「うん」って言って。
うん!ありがとう。
ありがとう!ありがとう!うん!ありがとう。

(かすれた声で)はい。
家政婦です。
お昼のお皿出てないんで。

(物音)
(かすれた声で)すいません。
いいえ。
出したつもりで。
失礼します。
大丈夫ですか?ええ。
喉がおつらいのは分かるけど骨折も大変だけどトイレは行けるんでしょう?ええ。
下りてきてコーヒーでもどうですか?部屋にずっといるんじゃたまらないでしょう。
ええ。
話ができなくてもいいんです。
私がおしゃべりしてもいいし。
少しお庭に出たりしてもいいんじゃないかな。
あ…あ〜2人で出ていきましたね。
ええ。
娘も1人に飽きてたし。
かわいいなあ。
見てました?あ…すいません。
ちっとも。
来ます?えっ?下へ。
あ…どうしようかな。
いけない理由があります?ないけど。
じゃあゆっくり下りてきて。
あっ…。
コーヒーは喉にいけないのかな。
あ〜大丈夫。
紅茶にする?コーヒーで。
かしこまりました。
それが…それが一口食べたらすっごくおいしいの。
あ〜でも普通…。
うん?普通何?いや…メンタイは福岡でしょ?でもタラコが取れるのは北海道でしょ?北海道で取れたタラコを一度中国へ運んでそれから九州へ来るとちょうどおいしくなってるんだって。
どうして…。
うん?どうして中国へ運ぶの?揺れるといいのかな?そんな…。
とにかくだからメンタイは北海道が一番っていうんだから訳分かんないんだけど函館のメンタイはおいしかったの。
ムチャクチャな…。
ムチャクチャ!ハハハハッ!声出るじゃない。
前にもちょっと思ったけど出すと痛むの?ううん。
だったら出しなさいよ普通の声。
うん。
いやつい出した。
痛まなきゃいいでしょ。
まあそうだけど。
言われてる?えっ?声が出ないって言えって言われてる?まさか。
2階から下りてくるな。
…と言われてない?ないよ全然。
何か変。
何か変って思ってた。
自分で下りてこなかっただけだよ。
どうして?え?どうして自分で下りてこなかったの?だからそれは…俺の意思で。
どうして?どうしてって…骨折してるし。
骨折もうそ?うそじゃないよ。
パキッと…パキッとちゃんと立派に折れてるよ。
監禁のにおいがしたの。
監禁って俺が?こんなに普通なのに下りてこないのおかしいでしょう。
あんなにかわいい緑ちゃんに俺なんかが会っちゃいけないと思ったんだよ。
何をしたの?…何にもしてないよ。
何にもしてないのにどうしてそんな事思うの?いやいいだろう。
何にもしてないんだから。
あの人はどういう人?すごい人だよ。
言わされてる?正直な気持ちだよ。
何をしてる人?知らないよ。
何をしてた人?知らないよ。
何も知らないのにどうしてすごいの?どうしてここにいるの?あの人は…根本さんは…。
うん。
信じていい人だと思う。
いいよ。
私も悪い人だとは思わない。
いやだったら…。
ハウスキーパーが立ち入る事はない?ああ悪いけど。
子どもが一緒だから気になるの。
なぜあなたが2階から下りてこないか。
なぜ私たちとしゃべらないのかって。
それは簡単ですよ。
言って。
根本さんは…。
うん。
香さんと緑ちゃんが来てとってもうれしかったんですよ。
緑をね。
小さい子ってこんなにかわいいものかってびっくりしたって。
聞いたわお子さんがいなかったって。
香さんきれいだし。
ついでに。
いやついでじゃないですよ。
いいの。
ありがとう。
私東京じゃないけど男から逃げ回ってるの。
ご主人ですか?別れたのよちゃんと。
以上。
それだけ言っとくね。
はい…。
(香)緑が来て根本さん喜んでくれたのね。
そこへ俺が来たもんだから会わせたくなかったんですよ。
(香)そんな…。
だって緑ちゃんが俺に懐いたら不愉快でしょう?
(香)それは若い方がいいかも。
…で下りてくるな。
骨折して喉痛めてるって言っとくって。
子どもかあいつは。
そういう正直なところ悪くないと思う。
あなたの方が大人じゃない。
でもまだよく分からない。
俺が?2人とも。
心配ないですよ。
ちっとも。
お金いいからやめたくはないけど。
大丈夫ですよ。
うん。

(堀田)今空いてるんで締めて上から切り落とす。
ありがとう。
何ですか?老いた。
(堀田)いいえ。
私は老いたよ。
(堀田)どうなさいました?う…うん。
気迫に負けたよ。
そんな事はないな。
別の事を思ってらした?ああ。
お待たせ致しました。
ああ。
本当改めてお久しぶりです。
何かありましたか?うん。
教えを請いたい。
何の事です?ご存じのように私は日本の外にいる事が長かった。
それだけです。
うん?どこにいらっしゃるのか。
いつ日本に戻っておいでか。
大体どんなお仕事かも存じません。
うん。
今日のように不意にいらしてうちの連中相手に遊んで下さって。
遊んでやしない。
もちろんです。
ただ張り合いのない事だろうと。
驚いたよ。
若いのが立派に育ってる。
20代の根本さんのようなすごみは誰にもありません。
嫌われたからね。
いえ恐れたんです。
いやつきあいが狭くてまたお邪魔してしまった。
どうぞ。
3年に1回ぐらいじゃありませんか。
(笑い声)ああ〜わたしゃね小人数の仕事が長くてね。
はい。
2人だけの事も1人だけの時も。
外国で…ですね。
そう。
そんなふうには感じてました。
しかし…。
はい。
(小声で)スパイじゃないよ。
そう思ってます。
(小声で)国の仕事でもない。
よしましょう。
今までおっしゃらなかったんです。
伺うとよそに言いそうです。
うん。
(笑い声)私に何かお教えするような事があるとも思えませんが。
いや思わぬ事で20代の青年と知り合う事になってね。
はい。
いやこれが分からない。
何人もですか?1人。
はい。
訳あってすぐに縁を切る訳にはいかない。
ああはい。
絶望してたかと思うとけろりとしてる。
そううつですか?そううつ?はしゃいでいたかと思うとどっと落ち込んでしまうそううつ病。
あっ病気か。
この節はそんなのも。
病気じゃつまらんね。
つ…つまりませんか?薬をのめば治るんじゃつまらないだろう。
…はい。
この世に絶望した青年を老いた私が叱咤して希望を持たせるように接触したのに薬をのめば治るじゃ世話ない。
その青年が病気かどうかは分かりません。
そう分からない。
はい。
いや分からないのは私だ。
はい?私ごときがどうやって青年を叱りつけてこの世はすばらしい。
生きるに値すると励ませるというんだよ!もう少し声を…。
失礼。
失礼。
いやはっきり自分の仕事に差し支えると思って子どもは持たなかった。
はい。
しかし結婚はしてしまった。
しかし妻には寂しい思いをさせた。
寂しいまま死なせてしまった。
分かりませんが。
先行きもない希望もない今の私が青年を励まそうなんて偽善もいいところなんだ。
その青年はそんなに落ち込んでいるんですか?ん…ああだから今明るいんだ。
明るいんですか?そんなはずはないと思うのは私の勝手だが…。
明るいなら…。
明るいならいいよね。
うん。
さあ。
私がごたごた言う事はない。
明るけりゃいいよね。
ああ…はい。
よしいいぞ。
いくよ。
うん。
あ〜!取れなかったな。
よしじゃあもう一回やるか。
ほい。
よ〜し。
うわっ!緑ちゃん助けて。
よいしょ。
(香)お庭一緒に遊んでやって下さい。
いいんだ私は。
どうしてですか?子ども相手は疲れる。
あいつがいるなら私が出ていく事はない。
ひがんでます?何を言うか。
(香)どんどん出ていってどけどけって私が相手だって…つぐおさんでしたっけ?次男君だ。
次男さんはじき飛ばしちゃえばいいんですよ。
そんな事をするつもりはない。
緑と遊ぶの飽きました?まだいくらもたってやしない。
だったらお庭へ行って下さい。
あいつを下へ下ろしたのはあんただろう。
声が出るなら片足で下りてこられるならとおっしゃいました。
だからいいじゃないかもう。
面白がって私をいじらないでくれ。
お出かけですか?まだやるの?もっとやるの?ほい。
よいしょ。
よし!いいよ。
うわっ。
無理だよ無理無理。
うわっわ〜取れないよ。
よいしょ。
よしじゃあもう一回やろうか。

(サイレン)
(アナウンス)「救急車右に曲がります。
救急車右に曲がります」。
(サイレン)
(足音)織江さんだ。
(織江)どうして分かるん?永原織江さんだから。
36年ぶりよ。
計算が速いね。
しばらくです。
ああとても。
駅前で擦れ違ってはっとしたの。
ぼんやりしていた。
確信が持てなくて人違いかなって思いながら足が追いかけてた。
(織江)あなたは一度も振り返らなかった。
どうして私だと分かった?誰だか分からなかった。
もうね。
うん?日本に戻って8年になるんだ。
尾行された事など一度もなかった。
無駄な能力だよ。
警察は辞めたんでしょ?うんとっくにね。
ふ〜ん尾行されたりしたんだ。
男ってバカねって言われるような尾行もしたりされたり。
私は「バカね」なんて言わない。
あっそうだ。
そうだったね。
ほかの人と混ざってる?いや〜混ざってない。
もういい年だからね。
ああ?だんだんにくっきりとよみがえってきてる。
いい思い出はどうかみ〜んな私との事にしちゃって下さい。
そうするよ。
信じられる?何を?70と60よ。
71だ。
ちゃんと絵になってるんじゃない?人に言うなよ。
フフフフッ。
思い出してるよ。
織江は明るくて少しうるさいやつだった。
(織江)だって10歳若いのよ。
11だよ。
亭主とは51の時別れちゃった。
51にもなって別れるか。
別れるのよこのごろは。
は〜。
まあいいだろう。
そうまあいいだろう。
人の事はどうでもいい人だもんな。
いやいやそんな事はないよ。
18歳の時知り合って24歳までとびとびにつきあって一緒に暮らす事はなかった。
ああ。
あなたの女の一人だった。
いやそれは違うよ。
あの間は織江さん一筋だった。
あ〜いいですよ。
こんなに飲んで食べたのに。
根本拓自さんは冷静ですね〜。
随分回ってるよ。
自分の事は話さない。
ああ独り暮らしだ。
人に話すような事は何もない。
昔の話をしたらいいでしょう?だから仕事の話はできない。
しないという事でずっとやってきたんだ。
忘れてるとやだからわざと触れなかったけど。
うん。
初めて会った夜の事覚えてる?うん。
そっちが忘れてるんじゃないかと思ってた。
忘れる訳ないでしょ。
18歳よ!あ〜渋谷のデパートの上の劇場。
ミュージカル!「ヘアー」。
そう「ヘアー」。
終わって外へ出るといつの間にか並んで歩いてた。
ううんあなたが口ずさんでたの。
・「LetthesunshineLetthesunshinein」・「Thesunshinein」「レッツ・サンシャイン」。
そう。
私もメロディーだけはしっかり入ってた。
ああ。
歩きながらいつの間にか2人でハミングしてた。
ちょっとロック踊った。
あ〜踊ったな。
あのころの若いもん荒っぽかった。
2人なら恥ずかしくなかった。
長髪のアメリカの青年たちが戦争に行かないと言って徴兵カードを焼き捨てる話だった。
あのあと何度もレコードかけて覚えた。
俺も覚えたよ。
うそ。
うん。
うん?
(歌声)嫌だ一緒に歌った事なかった!会う時はもっといい事で忙しかった。
もう!もうバカ者〜!
(歌声)ハハハハ。
うわ〜!う〜ん。
フフフフ。
ウフフフフフフフ。

(拓自の鼻歌)
(ノック)入るぞ。
どうした?一度も下りてこないな。
寒いじゃないか。
エアコンどうしてつけない?えっ?どこだリモコン。
ここ?
(電子音)つけりゃいいじゃないか。
足が痛むか?いえ。
下へ来ないか?朝飯まだだろう?だるくて。
え?どこが?腰か?足か?気持ちが。
気持ちが?だるくて…。
ハハハッそんな時は動きゃいいんだ。
下へ下りて何か食べりゃ気持ちは後からついてくるよ。
元気ですね。
普通だよ。
何かあったんですか?何もないよ。
あんたこそあの子と随分はしゃいでたじゃないか。
ああそれで疲れたんだ。
片足で跳ね回りゃ疲れるさ。
おい。
えっ?ゆうべ私は遅くなったがあのあとあの親子と何かあったのか?どうして?どうしてだと?私があの2人が来る日は2階にいろと言ったのはどうしてだと思ってるんだ。
ナイフを振り回したやつだからだ。
いつもこうだ。
何がいつもだ。
人のせいにするな。
あの2人にナイフの事なんか言えないだろう?母親が2階からあんたが下りてこないのはおかしいと言いだした。
そりゃそうだ。
あんたを信じて下りてこさせた。
あの子も私よりあんたの方が喜んだ。
大丈夫だと思った。
何があった?何があったんだ?5時半に2人を見送りましたよ。
バイバイって。
それから?それだけですよ。
だったらその薄笑いは何だ?意味ありげな薄笑いは何だ?確かめたくなるんですよ。
何を?怒らせると本心が出るから。
私の本心が?こんないい部屋でこんなベッドでこんないい毛布でこれって本当かって不安になるんですよ。
私が大丈夫だと言えばいいのか?いいんです。
いい事があった時のいつもの不安です。
あのかわいい女の子ときれいなお母さんとも楽しかったんで。
後遺症です。
おかしなやつだ。
そこが面白くもあり心配でもある。
着替えて下へ下りてこい。
根本さん。
うん?俺の事…少し聞いてもらえますか?ああ。
3歳の時母親が出ていってしまいました。
親父は町の不動産屋の社員でした。
7歳の時朝起きたら…。
死んでました。
もともと心臓が悪かった。
親戚も余裕がなくて…。
余裕がないというので結局こども園という施設の…。
ああ。
世話になって中学出るまでは。
そうか。
そのあとは小さな鉄工所に勤めて…不器用で使いものにならないと言われて殴られてそこの後継ぎぶん殴って…。
あとはあっちこっち切れ切れで…。
どこで聞いてもきっと俺の事は「ああそんなやついたかな」っていうぐらいの影の薄さで…。
もういい。
しゃべり過ぎるな。
別のしゃべり方があるかもしれない。
いくらしゃべっても誰かれ構わず刺そうとした気持ちなんか私には届かない。
ただあん時のあんたの目にしゃべったって人には通じないわめいたって人には分からない。
そういう気持ちが膨らんで切れそうになっているのを感じたんだ。
それは私の…これは全く違う事情だがかつての…いや今でもいくらか私の気持ちだった。
勝手だね。
いえ。
大丈夫だ。
俺に任せろなんて事は言えない。
ええ。
人の人生そんな事は言えない。
骨がつながるまでゆっくりするといい。
あとの事も相談に乗るよ。
ありがとうございます。

(鼻歌)それじゃあれかよ。
あの駅で会ったのかよ。
うん改札出た所で向こうから来たのよ。
偶然かよ。
偶然よ。
私はあの人のうちへ行くつもりで降りたんだもん。
そういう事ってあるかね。
何言ってんの。
私はあんたが行ってくれ頭から追い出すような事はやめてくれってそう言うからとりなすつもりで行ったんでしょう?昔の男に会いたくもなったんだろう?こ〜んなとこで言わないでよ。
誰も聞いてねえよ。
あの人の駅で会ったらいかにもあの人に会いたくて行ったみたいでしょ?会いに行ったんだろうが。
あんたの事で行ったんでしょう!「あっ根本さん」。
言えばいい事だろう。
恥ずかしくなったの。
何言ってんだ。
あんたといる事なんて言いたくなくなったの。
それで新宿かよ。
そう。
どうしようかな?どう話そうかなと思いながら尾行してたら見つかっちゃったの。
昔からそういうのを自慢するやつだった。
よそうか?何を?あんたとはこれっきりにしようか?そんな事表で言いだすか?誰も聞いてないでしょ?俺はな人生振り返ってあいつが俺の気持ちを分かってないのが一番悔しいんだ。
あんたもいい人よ。
だったら一緒にそう言ってくれよ。
この年になってあいつに女取られたくねえよ。
女なんて言わないでよ。
女だろう。
立派な女じゃねえか。
聞こえるように言ってよ。
はいどいてどいて。
よし!あっ!根本さん。
根本さん!どうして家政婦さんを替えたんですか?根本さんの方で言ってきたって言ってますよ。
そうだ。
何だそれ?何だよそれ!悪いがあんたはまだ情緒不安定だ。
楽しみにしてたのに!とっても楽しみにしてたのに。
だからのめり込みそうで怖くなった。
あの2人に何かあるのは困る。
ああ〜!何だよ〜!見ろ。
だから心配になったんだ。
あの2人に何かする訳ねえだろ!分からないだろう人間は。
わあ〜!2014/12/22(月) 22:00〜23:15
NHK総合1・神戸
特集ドラマ ナイフの行方(前編)[解][字]

拓自(松本幸四郎)は自暴自棄になった青年(今井翼)が無差別に人を刺そうとしているのを組み伏せるが、警察に突き出すのをためらい、次男の足を折って自宅に連れ帰る。

詳細情報
番組内容
拓自(松本幸四郎)は一人暮らしの寂しさを紛らわそうと子連れの家政婦・香(相武紗季)を週二回雇っているが香の娘はなかなかなついてくれない。そんな折、拓自は自暴自棄になった青年・次男(今井翼)が通りで無差別に人を刺そうとしているのを目撃し組み伏せる。だが、次男の目を見た拓自は警察に突き出すことをためらい、その足を折って自宅に連れ帰る。自分のことは話さず、相手のことも聞かない奇妙な同居生活が始まった…。
出演者
【出演】松本幸四郎,今井翼,相武紗季,石橋凌,松坂慶子,津川雅彦
原作・脚本
【作】山田太一
音楽
【音楽】住友紀人

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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