ここは介護施設ではありません。
罪を犯した人を収容する刑務所です。
今、全国の刑務所で高齢の受刑者が急増しています。
この20年でおよそ5倍。
その大半が、何度も罪を繰り返している再犯者です。
刑務所は、医療や介護など福祉施設さながらの対応を迫られています。
なぜ高齢者は、何度も罪を繰り返してしまうのか。
背景にあるのが、貧困や孤立。
罪を犯していったん服役すると社会復帰は難しく、再び罪を犯す負の連鎖に陥ってしまうのです。
こうした中、司法と福祉が連携して出所した高齢者を支援する新たな動きが始まっています。
急増する高齢者の再犯。
負の連鎖を断ち切ろうと模索する現場からの報告です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
高齢者の犯罪が急増しています。
先月発表されたことしの犯罪白書によりますと去年1年間に検挙された65歳以上の高齢者はおよそ4万6000人。
世代別で最も多くなっています。
検挙者全体の数は減少傾向にあるにもかかわらず高齢者は突出して増えているのです。
こうした中、刑務所に入所する高齢者の数は20年前の5倍に上っています。
高齢者の犯罪には2つの大きな特徴があります。
1つは、万引きや無銭飲食無賃乗車など、被害額が少ない犯罪が多くを占めていること。
もう1つは、繰り返し罪を犯す再犯が多いことです。
満期で出所した65歳以上の高齢者のうち、およそ7割が5年以内に再び刑務所に戻ってしまっています。
背景にあるのが高齢の犯罪者が陥る負の連鎖です。
貧しさから盗みなどの罪を犯してしまいひとたび刑務所に入ると出所しても仕事はなく家族や地域からも見放されて孤立を深め再び犯罪に手を染めてしまう。
軽微な犯罪でも繰り返すうちに刑が重くなって負の連鎖から抜け出せなくなると指摘されています。
高齢者が犯罪を繰り返してしまう負の連鎖。
高齢の受刑者が急増した結果刑務所では、さまざまな対応を余儀なくされています。
全国で最も受刑者の数が多い府中刑務所です。
ここでは、65歳以上の受刑者が急増しています。
現在、高齢の受刑者は400人。
この10年でおよそ2倍になりました。
大半は、万引きなどを繰り返し刑務所を出たり入ったりしている人たちです。
なぜ高齢者は繰り返し罪を犯してしまうのか。
千葉県に住む70代の男性はこれまでに3回刑務所に服役しました。
最初は65歳のとき。
20年近く経営していた会社が倒産したことがきっかけでした。
生活苦から、くず鉄を盗み懲役2年の実刑判決を受けました。
出所後、心を入れ替え仕事を探そうとしましたが前科があると分かるとアルバイトすら断られました。
離婚して家族を失い親兄弟からは二度と顔を出すなと言われ孤立を深めていきました。
男性は生活保護を受けられるということも知りませんでした。
70歳と73歳のとき神社のさい銭に手をつけさらに2回、服役。
比較的軽微な罪でも繰り返してしまうと刑が重くなっていく負の連鎖に陥ったのです。
番号。
1、2、3…
おはようございます。
高齢の受刑者が急増する中刑務所はこれまでにない対応を迫られています。
府中刑務所に設けられた養護工場と呼ばれる特別な作業場。
一般の受刑者と同じ作業を行えない、高齢者などのために作られました。
すでに高齢の受刑者でいっぱいです。
服役中に認知症になった受刑者はこうした簡単な作業さえままならないといいます。
さらに高齢の受刑者のために刑務所が負担する医療費も増え続けています。
なんらかの病気で治療を受けている人はおよそ9割に上り介護が必要な人も少なくありません。
刑務所の職員が体を拭きおむつを交換。
そして、飲み込む力が衰えた受刑者のために特別な食事も用意しています。
病状が悪化して、外部の病院に入院させる機会も増えコストに加え、職員の負担も限界に近づいているといいます。
刑務所の一角にある霊安室です。
府中刑務所で亡くなった受刑者はこの5年間で78人。
引き取り手のない遺骨の供養も刑務所が行っています。
刑務所と社会を往復する負の連鎖から抜け出せない高齢者たち。
罪を繰り返すうちに振り込め詐欺グループに取り込まれるケースまで出ています。
去年、だまし取った現金を受け取ったとして逮捕されたのは71歳の男。
さらに5月には、被害者の家に現金を受け取りに来た高齢の男が公開手配されました。
これまでに3回逮捕されたことがある80代の男性です。
出所後、頼る当てもなく生活に困っていたとき簡単な仕事があると誘われたといいます。
男性は指示されるまま携帯電話を何台も入手。
引き換えに現金を受け取りました。
あとになって携帯電話が振り込め詐欺に利用されていたことを知った男性。
ほかにも、自分と同じような高齢者が使われていたといいます。
スタジオには、法務省の職員として、刑務所などに勤務、国内外の再犯防止の取り組みにお詳しい、龍谷大学大学院教授、浜井浩一さんにお越しいただいています。
本当にVTRを見ると、刑務所の今の実態っていうのに驚かされるんですけれども、犯罪を繰り返す高齢者の実態って、本当に深刻ですよね。
そうですね、日本ではいろんな犯罪が今、減っているんですね。
その中で唯一、増えているのが高齢者犯罪です。
高齢者犯罪の場合には、単に被害者となるだけではなくて、加害者となる人もいろいろ増えている。
例えば、今のVTRにもあったようなケースもそうですし、薬物の持ち込みですよね。
その背景にあるのは、やっぱり社会的な孤立、社会的な困難というものですよね。
被害者になる場合にも、加害者になる場合にも、誰か相談できる人、止めてくれる人がいれば、被害者にも加害者にもならないで済むんですけれども、そういう人たちがいない。
結局犯罪に手を染めてしまうというケースが増えている、そのへんが大きな問題だと思います。
先ほどもご紹介をした、いわゆる、その負の連鎖といわれるものですよね。
犯罪を犯してしまう、刑務所から出所しても、結局、また孤立を深めて再び罪を犯して、刑務所に入ってしまう。
これ、どうして止めることができないんでしょうか。
これはですね、やはり日本のいろんな制度が縦割りになってるってところが大きいですよね。
特に日本の刑事司法、刑罰のシステムっていうのは、やはり犯罪者に責任を取ってもらう、罰を与えて罪を償ってもらうというところに力点が置かれているので、どうしても罪を償ったあとに、どうして、どうやって彼らに社会に再び戻ってもらうのかというところの観点が薄いんですよね。
だから刑務所は刑務所で一生懸命仕事をしているし、刑事司法の中でも検察、裁判もそれぞれ一生懸命頑張っています。
ただ、その頑張っているんだけれども、それがなんのために頑張っているのか、最終的に再犯を防止して、更生させるとか、そういう共通の目標を持っていなかったりします。
それから実際に刑務所を出たあとに、福祉へつないでいくことが必要になってくるんですけれども、やはり司法が社会制度の中から孤立している。
結果として刑務所を出た人は、そのまま場合によってはホームレスになって福祉へつながらない。
だから必要なサービス、犯罪を犯すにはさまざまな背景事情があって、犯罪を犯すわけですけれども、その背景事情である社会的孤立とか、社会的な困難ですよね、生活上の困難、それを解決するための手段に、罪を償ったあと、つながっていかないと、縦割りに大きな問題があると思います。
その犯罪を犯すに至る社会的な困難さといったところに、目が向けられていない?
そうですよね。
日本の司法というのは、罪を犯してしまうと、それも、個人の問題として、刑罰を受けてもらって、それで終わってしまうんですね。
私はこれを金さん司法といって、批判しているんです。
刑を犯して一件落着。
罪を犯して、刑罰を受けた人は再び社会に戻っていきます。
その戻ってきたあとに、どうするのか、そこを考えていかないと、問題解決になりません。
この社会の中で、どうするかというところが一つ大きな問題だということなんですけれども、そこをつないでいくのが、つまり先ほどおっしゃった、福祉の役割だということになるんですか?
そうですね。
司法と福祉がきちっと連携していく、犯罪の背景にある問題を解決する。
つまり罪を償ったあとに、その罪を犯す原因となったものを、きちっとケアする。
それによって、彼らは普通の市民として、再び社会に戻っていける。
それが再犯を防止する最大の近道だということです。
さあ、この負の連鎖を断ち切って、司法と福祉が連携をして、高齢者が再び罪を犯すことを防ごうという取り組み、始まっています。
長崎市にある支援センターです。
刑務所から出所する身寄りのない高齢者や障害者の生活支援を行っています。
5年前、出所者の再犯を防ぐ国のモデル事業として設立され地元のNPO法人が運営しています。
支援センターは刑務所から社会に戻っても居場所のない高齢者などに受け入れ先の福祉施設を紹介したり、生活保護の申請に付き添ったりして生活が安定するよう支えています。
この日、センターの代表が長崎刑務所を訪ねました。
出所が近づいている受刑者に面会するためです。
無銭飲食を繰り返し、18回目の服役となる70代の男性。
出所後、どんな支援を望んでいるか尋ねました。
前科のことを知られているふるさと以外の場所で再出発したいという要望を受け準備を始めることになりました。
センターの支援で再び罪を犯さず、立ち直った高齢者も少なくありません。
すみませんね。
待ってくれてたんですか。
老人ホームで暮らしている78歳の男性です。
これまで15回、刑務所に服役。
出所後、頼る人もなく生活苦から盗みを繰り返してきました。
お邪魔します。
しかし4年前センターの尽力で受け入れ先が見つかったことでようやく生活も落ち着きました。
どうもありがとうございます。
気をつけて。
男性はお世話になった人たちに感謝の気持ちを示したいと毎朝3時半に起きて新聞を配っています。
刑務所でも、出所する高齢者に再犯をさせないための新たな取り組みが始まっています。
礼。
こんにちは。
集められたのは出所を間近に控えた高齢者たち。
出所後、社会の中で孤立しないためにはどうすればいいのか実践方式で指導します。
この日は、また罪を犯しそうになったときに知り合いに電話する練習を行いました。
1人で抱え込まず、周囲に頼ることの大切さを理解させます。
(拍手)
さらに生活保護や年金など福祉の支援を受けるために必要な知識も教えています。
罪を犯した高齢者をさらに早い段階から福祉につなごうという取り組みも始まっています。
東京地方検察庁では去年全国に先駆けて社会福祉士を職員として採用。
専門の部署も設置しました。
罪を犯した高齢者を刑務所に服役させる前の段階で福祉につなぎ、更生させる道がないのか検討するためです。
社会福祉士は、どのような福祉の支援ができるのか検察官にアドバイスをします。
この日、検察官が相談したのは、60代後半のホームレスが起こした置き引き事件。
身寄りもなく、被害の弁償もできないため、通常なら起訴も考えられる事件です。
社会福祉士は支援をすれば社会の中で立ち直らせる方法もあるとアドバイスしました。
結局、容疑者は起訴猶予となり、福祉事務所から紹介された宿泊所で生活することになりました。
東京地検ではこれまでにおよそ500人を刑務所ではなく福祉施設などにつないでいます。
地域生活定着支援センターの取り組み、それから検察での取り組み、ともに浜井さん、関わってらっしゃるということなんですけれども、こうした取り組みの意義、どんなふうに考えていらっしゃいますか?
先ほど来申しているように、やはり縦割りの中で、司法と福祉がつながっていかない、だから本来、彼らが抱えている本当に困難な問題性ですよね、そこに対してケアがいかないので、再犯が繰り返されていくという問題がある中で、地域定着支援センターは、そういった刑務所を出て、帰る場所がない人に社会的な居場所を提供する。
要するに司法と福祉をつなげていくということをしているということで、活気的なことですし、検察庁の取り組みというのは、やっぱり、刑事司法の中の縦割りの中でそれぞれの部門は一生懸命仕事をしている。
きちっと悪いことをした人を処分をすると。
刑罰を受けてもらう。
それで終わってたんですね。
そこから先は自分の仕事じゃないからです。
それに対して罪を犯した人たちに処分をする。
そのあと彼らはどうしていくんだろう?ということに、配慮して、社会福祉士さんをつないで、ある意味では、先ほど私が批判したような、金さん司法から脱却して、みんなで、どうやって再犯を防止したらいいのかということを考える取り組みという意味で、非常に大きな意義があると思います。
つまり刑務所に入れる実刑というのではない選択をすることもありうるということなわけですよね。
そうですね。
そうするとですね、罪を犯した以上、適切な刑罰が与えられるべきだという声も、当然あるとは思うんですよね。
ただその一方で、VTRの中で、登場した、あの老人ホームで暮らす男性、あの笑顔を見ると、やっぱりとっても印象的だなというふうにも思いますね。
実際に浜井さんは、さまざまな受刑者の方とも接してらっしゃったということなんですが。
そうですね。
やはり、ああいう姿を多くの人に見てもらうっていうのは大事だと思いますね。
私も刑務所に勤務していたときに、それこそ何百、何千という受刑者の人と会って、面接を繰り返してきました。
そのときにやっぱり私の中に生まれた疑問というのは、この人と私の違いは一体なんだろうということなんですね。
それを繰り返し考えていく中で、私も仕事を失って、もし家族を失うようなことがあれば、もしかしたら同じ立場になってしまうかもしれないというふうに、思うようになりました。
多くの人に、罪を犯した人たちっていうのは、いろんな社会的な背景で困難を抱えていて、罪を犯している。
もともとは私たちと同じ、普通の人間なんだということを理解してもらいたい。
だから罪を犯したということで、全部同じような、自分たちとは違う人間って考えるのではなくて、自分たちだったらどうなんだろうというところ、何をしたんだろう、どうしてそんなことをしたんだろうってところに思いをはせてほしいというふうに思いますね。
罪を繰り返してしまう、そして高齢の方に対する意識を、われわれ自体が変えること?
そうですね、それを自分の問題として考えてもらう。
いつか、私たちも同じような状況になったら、同じことをしてしまうかもしれない。
それは私たちの問題で、罪を犯した人たちは、刑務所にたとえ入ったとしても、いずれ社会に戻ってきます。
戻ってきたときに、どんな隣人として戻ってきてほしいのか、どうなってほしいのか、そこも一緒に、みんなで考えていこうというふうに、思ってもらいたいというふうに思います。
今回の負の連鎖に陥ってしまう高齢者の問題というのは、まさに私たちの社会が取り組むべき課題だということなんですね?
そうですよね。
やっぱりこれまで受刑者を見ていて、刑務所に入る前に、幸せだった人は一人もいません。
いろんな形で、いろんな困難を抱えて、結果として刑務所の中に足を踏み入れてしまったという人たちです。
そういう人たちに、どう対応していくべきなのかですね。
そういう人たちの再犯を防ぐために何ができるのか。
それを自分の問題として、みんなで一緒に考えていくということが必要なんだろうというふうに思います。
ありがとうございました。
2014/12/05(金) 00:15〜00:41
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「犯罪を繰り返す高齢者〜負の連鎖をどう断つか〜」[字][再]
急速な高齢化が進む日本の刑務所。福祉施設さながらの対応を求められ、追い詰められている。高齢者をどのようにサポートすれば、犯罪への道を断つことが出来るのか考える。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】龍谷大学大学院教授…浜井浩一,【キャスター】真下貴
出演者
【ゲスト】龍谷大学大学院教授…浜井浩一,【キャスター】真下貴
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:20379(0x4F9B)