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新聞や専門書の「本を出しませんか」という出版広告を眼にした人は多いことでしょう。広告を見て原稿を送ったら、「素晴らしい企画です。埋もれさせるには惜しい。企画会議にかける」とすぐに連絡があります。ところが後日、出版社を訪れたら販促費や協力金などを求められることが少なくありません。
今回は、昨今の出版業界のトレンドや傾向について、株式会社Clover出版取締役の小田実紀編集長(以下、小田)に聞いてみました。

●商業出版にはコツがある?しかし誰もが出せるわけではない

---最近の出版業を取り巻く環境について教えてください。

小田 ブログやSNSの隆盛で、誰もが伝えたいことを発信しセルフブランディング出来る時代です。出版社もそれに気付き、門戸を開けているため一般の方にも出版のチャンスは拡がりましたが、全国の書店に本が並び、印税までもらえる「商業出版」は出版社にとっては数100万円の投資になります。

投資ですから基準をクリアする高いハードルが存在します。決して簡単ではありません。ですから出版が決まったら、著者が負担するお金があるかないか、それがどの程度か明確にしておくと良いでしょう。出版社は体質が古いところも多く、契約書など不要で口約束で話が進むケースがあるからです。

---基準をクリアする企画とはどのようなものでしょうか。

小田 本を出す人は「著名人、頭脳明快、経験豊富」などと、特別な人と思っているならそれは間違いです。あらゆる方が出版で成功するコンテンツを秘めていると考えています。と同時に、業界とのネットワークや「売れそうな根拠」も編集者は重要視しています。最近では、Facebookで友達が数1000人居ることなどを主張される方がいますが強い根拠にはなりません。出版社にとって関心があるのは何冊売れそうかの元になる根拠の数値です。この根拠が弱いと出版に漕ぎつくことは難しくなります。

●企画を通すための唯一のポイントは

小田 各出版社、各編集者で特性はありますが、ポイントを挙げるとすれば「差別化」だと思います。これは何を意味するかというと、世の中には、既に似たような類書がたくさんあるということです。ご自分の実績が素晴らしくても、類書が多く、差別化が難しければ売上を見込むことは難しくなります。ですから、ご自分の企画で刊行されている類書がないか徹底的に調べる必要性があります。

次に、判断しなければいけないのが、そのジャンルが枯れていないか、時代のニーズに適合しているかの判断をすることです。例えば、2000年初めに「成果主義」の本がヒットしましたが、いま「成果主義制度作成マニュアル」を発刊しても読者にミートすることは難しいでしょう。ニーズがマッチしていないからです。柔軟に、方向性を検討しなくてはいけません。

---時代のニーズとのマッチングは重要なテーマですね?

小田 売れると思わせる企画をつくることは簡単ではありませんが、コツさえ覚えてしまえば難しいことはでありません。抑えておかなければいけないポイントは1つだけです。「自分の強みが活かせられるか」という視点です。売れそうな企画でも、ご自身の方向性とまったくマッチしていないことがあります。

自分の得意な領域だからこそ専門性を発揮することができるわけです。同じスポーツというカテゴリーであっても、野球のイチロー選手にいきなり大相撲の選手をやれといっても成果は出ませんよね(イチロー選手のような天才肌はもしかしたら成果を出すかも知れませんが)。

先日もある税務士の方から本を出したいと相談がありましたが「税務士の夢実現と引き寄せの法則」という専門性と関連性のない内容だったのでお断りしました。いま一度、自分の強みを精査したほうが良い企画がつくれるのではないかと思います。それは自分に正直になるということに近い感覚だと思っています。
 
---有難うございました。

最近は、出版の門戸が開かれた反面、雑多な企画が増えているそうです。また難易度の高い資格を取得し、社会的地位が高い人ほど、我が強くなるため出版が遠のくことが少ないとのこと。是非、自己チェックをしてもらいたいものです。

尾藤克之 経営コンサルタント
Amazonプロフィール
Twitter @k_bito

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