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子宮頸がんワクチン、専門家の見解は- 合同シンポ報告
日本医師会と日本医学会の合同シンポジウム「子宮頸がんワクチンについて考える」が今月10日、東京都内で開かれた。子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の積極的な勧奨中止から1年半余りが経過。この間、ワクチン接種後の多様な症状について、さまざまな見解が示されてきた。シンポジウムには、この問題をめぐる議論の主要な専門家が一堂に会した。主な演者の発言要旨を報告する。【烏美紀子】
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■子宮頸がん患者は若年化、ワクチンの成果にも目を シンポジウムではまず、日本産科婦人科学会の小西郁生理事長がHPVワクチンの有効性を説明。国内では毎年約1万人が新たに子宮頸がんを発症、約3000人が死亡する▽患者は若年化しており、20−30代の妊娠・出産年齢と重なっている−という現状があり、若い患者で検出率の高いHPV16、18型などの感染を防ぐHPVワクチンと検診を併用することで、子宮頸がんの罹患・死亡を減らせると強調した。
ワクチンの予防効果に関しては、米国やオーストラリア、スコットランドなど、日本に先行して公費接種が行われている国・地域で、若年女性のHPV感染率、前がん病変の発症率が明らかに低下したなどの成果が既に報告されていることを提示。「正しい知識の普及と同時に副反応対策をしっかりし、安心して接種を受けられる体制が必要だ」と述べ、ワクチンのリスクである副反応に比べて軽視されがちな予防効果にも目を向ける必要性を改めて訴えた。
■時間経過につれて症状が重層化
「HPVワクチン関連神経免疫症候群(HANS)」を提唱し、接種後の多様な症状を新たな疾患としてとらえるべきと主張している日本線維筋痛症学会理事長の西岡久寿樹・東京医科大医学総合研究所長は、HANSの病態や診断予備基準などについて説明した。
それによると、症状は接種から平均約9.5か月後に発症。中枢神経症状が見られ、多くのケースでは、時間の経過とともにさまざまな症状が重複してくるという。治療法としては、ステロイドパルス療法や線維筋痛症に使われる「プレガバリン」、認知症薬「メマンチン」なども選択肢となり得ると報告した。
西岡所長は、厚生科学審議会の副反応検討部会が結論付けた「心身の反応(機能性身体症状)」を否定。「ワクチンを打った時点から、すべてが始まっている」という共通項に注目すべきだとして、症状との因果関係とHPVワクチンの有効性を改めて検証するよう主張した。■高次脳機能障害の可能性
厚生労働省の痛み研究班の一つで代表を務める信州大医学部長の池田修一教授は、勧奨中止が決まった前後から患者が多く紹介されてくるようになったと言い、その病態を「未知の領域」と表現。「最初のころ、知識が不十分なために『心因性ではないか』と言って傷つけてしまった。申し訳なかったと思う」と話した。その上で、「身体の痛みが取れても登校できない患者がいる」「記憶障害、計算障害、過睡眠など別の症状が加わっている。遷延性高次脳機能障害だと考えている」として、高次脳機能検査などの結果、前頭葉と関連した処理速度の低下などが確認された症例を報告した。
池田教授は、「(痛みや倦怠感などが現れる)末梢性の自律神経障害の症状が出て、それから時相を置いて高次脳機能障害が出てくるのではないか」との考えを示した。
■動かないだけでも器質的変化は生じる
一方、もう一つの研究班代表、愛知医科大・学際的痛みセンターの牛田享宏教授は、HPVワクチン接種後に多様な症状が現れる点について、慢性痛のメカニズムで説明できる可能性を示唆した。慢性痛の背景には、骨の変形や関節・神経の障害といった器質的な要因と、学校や家庭での目に見えないストレスなどによる機能的な要因があり、多くの場合はこれらが複雑に影響し合っているという。さらに牛田教授は、痛みを理由に身体を動かさない状態が続くと、「それだけでも脳の委縮や運動神経の変化、末梢神経の脱髄など器質的な変化が起こってくる」と述べた。
その上で、「痛みがあっても生活できることを第一目標にしないと(悪循環から)脱却できない」と強調し、学校に行くなどの社会生活を送れるようにサポートすることが治療の面からも重要だとした。運動療法や認知行動療法を利用した治療で、研究班が診たHPVワクチン接種後の症例の約62%は症状が改善しているという。
■現状の改善を目指すという治療アプローチ
同じように認知行動療法的アプローチを提示したのは、筑波大人間系長の宮本信也教授。身体症状が長期化し、そのために苦痛や生活障害が生じている場合、西洋医学的には「身体症状を取り除けば、苦痛や生活障害も改善する」という発想になるが、原因や病態がはっきりしない現状では積極的な治療が難しい。そこで、「原因論はある意味、ちょっと置いておく」「現時点で介入の可能性がある生活障害に対処する、と戦術を変えてみる」(宮本教授)。特に学齢期の患者にとっては、学校生活をできるだけ送れるようにすることが治療的な意味を持ち、有効だという。
また、治療の際に重要としたのは、医療者側と患者・家族側がそれぞれ病状をどうとらえているか、解釈モデルを慎重にすり合わせること。双方のモデルが大きくずれたままだと、患者側に不信感を生むためだ。宮本教授は、「症状が長期化・慢性化した状態がストレスでないはずがない。患者さんがワクチンとの因果関係を心配するのも当たり前。こうした心理状態を理解して診察すべき」「『異常がないから心理的なもの』などと、あまりきちんとした対応がされてこなかったケースが散見される」と、副反応をめぐるこれまでの診療での配慮不足が患者の症状にも悪影響があった点を指摘した。
◇◇◇
HPVワクチンは、接種後に原因不明の痛みが続くなどの症状が報告されたため、昨年6月に積極的な接種勧奨を中止した。厚科審の副反応検討部会(桃井真里子部会長)は今年1月、ワクチン成分との因果関係は否定し、接種をきっかけに引き起こされた「心身の反応」が慢性化したものとする見解をまとめた。この見解に対して「原因は心理的なもの、気のせい」「精神疾患」「詐病」「身体に症状がない」などの誤った印象が広まったため、「機能性身体症状」と言い換える案も検討されているが、勧奨再開の是非はまだ示されていない。
一方、厚労省は各都道府県に1か所以上の「協力医療機関」を設置し、副反応の診療体制を整備しているほか、接種後に生じた症状の報告と追跡調査を強化している。
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