「アベノミクスをさらに強く、大胆に実施していく」。安倍首相はこう強調する。

 好調な企業収益を、働く人の賃金増につなげる。社会保障制度を安定させ、安心して消費できる環境を整える。規制・制度の見直しなど「成長戦略」の加速を含め、課題は山積みだ。

 ただ、それらの前提となる課題がある。財政再建への取り組みだ。先進国の中で最悪のわが国財政への疑念が膨らみ、国債相場の急落に伴う「悪い金利上昇」が生じれば、あらゆる努力が吹き飛びかねない。

 消費税の10%への再増税を先送りしたことを受けて、日本国債は格下げされた。財政再建の重要性を直視すべきだ。

 リーマン・ショックのような経済混乱がない限り、景気の変動に左右されず17年4月に消費税率を10%に上げる。消費増税を定めた法律の、いわゆる「景気条項」は削除する。首相はこう明言したが、まずは確実に実行しなければならない。

 さらに、基礎的財政収支の20年度までの黒字化という政府目標がある。首相は来年夏までに具体的な計画を作ると語ったが、その中身が問われる。

 過去に発行した国債の元利払いのための国債発行は認めるが、毎年度の社会保障や公共事業などの政策費用は基本的にその年度の税収でまかなう。これが基礎的収支の黒字化である。

 状況は厳しい。国・地方の14年度の収支は25兆円の赤字。内閣府の試算では、今後「実質2%、名目3%」という、アベノミクスでも未達成の高い成長に基づいて税収を見込んでも、今の調子で予算を組めば、20年度になお11兆円の赤字が残る。

 この差を埋める方法は、三つしかない。経済成長に伴う税収の自然増、歳出の抑制・削減、そして税制改革による増税だ。

 政府の経済財政諮問会議では、民間議員が足もとの潜在的な成長率を0・6%程度としたうえで、これを前提に財政再建を目指すよう提案した。手堅い姿勢として評価できる。

 一方、安倍首相は、基礎的収支の黒字化という目標だけでは経済成長に伴う国内総生産(GDP)の伸びが考慮されないという問題を提起した。

 さまざまなデータで財政再建の進み具合をチェックするのは結構だが、国際的にも約束してきた基礎的収支の黒字化を骨抜きにすれば、国債市場からしっぺ返しを食らいかねない。

 足もとの政策課題に対応しつつ、財政再建を進めるのは、困難を伴う「狭い道」だ。しかし、両立しか道はない。