第3次安倍内閣がきのう発足した。政治資金問題を抱える江渡前防衛相が交代したほかは、選挙前と変わらぬ顔ぶれだ。

 衆院を解散した首相が総選挙をへて引き続き政権を担うのは、2005年の小泉首相(当時)以来のことだ。

 安倍政権は衆院で3分の2、参院で過半数の勢力を確保。自民党内に強力なライバルが見あたらない状況を考えると、長期政権を予感させる船出である。

 であればこそ、安倍氏は数の力におごることなく、少数意見にも耳を傾ける丁寧な政権運営を心がけるべきだ。

 忘れてはならないのは衆院選で示された民意のありようだ。

 投票率は戦後最低の52・66%に終わった。自民党の小選挙区での得票率は、そのうちの48・10%。小選挙区で4分の3の議席を得たのは、「民意の集約」を重視した選挙制度の特性によるところが大きい。

 選挙後の朝日新聞の世論調査では、自民、公明の与党が定数の3分の2超の議席を得たことには59%が「多すぎる」と評価。自民勝利の理由については、72%が「野党に魅力がなかったから」と答えた。

 これらを考えあわせると、与党が勝ったというよりも、野党が負けた選挙だったと見るのが妥当だろう。

 首相は選挙後、最大の論点だったのは、日本経済や国民生活をどのように豊かにしていくのかという経済政策のかじ取りだったと語った。

 世論調査でも、首相に一番力を入れてほしい政策として30%以上の有権者が「社会保障」や「景気・雇用」と答えている。

 首相が何よりもこれらの政策に全力を注ぎ、国民の期待に応えるべきなのは明らかだ。

 一方で、首相は集団的自衛権の行使容認に伴う法整備を進め、憲法改正にも努力していきたいという。政権公約に示された政策は「進めていく責任がある」というが、選挙戦であまり論じられなかったこれらの課題もまとめて認められたと解釈するには無理がある。

 自民党は、沖縄県の普天間飛行場の名護市辺野古への移設推進を公約に掲げた。だが、沖縄県内の4小選挙区すべてで移設反対派が議席を占めた。

 首相がいうように「普天間の固定化はあってはならない」としても、このまま何事もなかったかのように移設を進めるのではあまりに強引だ。

 首相が数に頼らず、丁寧に民意をくみ上げる政治を進めていくのかどうか。移設問題への取り組みはその試金石となる。