ユニセフがフッ素の安全性に疑念を表明


                 解説・翻訳   村上 徹


[解説]
ユニセフ(国連国際緊急児童基金)が、1999年12月に飲料水中のフッ素の安全性について、疑念をあらわすレポートを公表した。

同じ国際機関といっても、アメリカのフッ素戦略を追認するしか能のないWHO(歯科保健部)と異なり、国連傘下の諸機関は、以前から、水中フッ素の危険性に関して独自の見解を表明してきた。すなわち、国連人間環境委員会は、1974年2月にナイロビで開催した会議の結果を報告書にまとめ、地球環境監視システムの設置を呼びかけ、地球規模で監視測定すべき危険物質として、水中のフッ素を優先順位第6番目にランクしたのである[1]。ちなみに第7番目にランクされた物は、アスベストとヒ素である。

これは水道フッ素化を正当化するためアメリカ公衆衛生局の官僚や周辺の御用学者から当時しきりに喧伝されていた「フッ素必須栄養素説」に痛烈なカウンターを食らわせる結果となったが、もちろん国際組織の官僚が超大国アメリカ政府にあからさまに喧嘩を売るわけがなく、この報告書のどこを見ても、別に批判めいた言葉があるわけではない。

また、同じ国連傘下のユニセフは、飲料水の確保に困難を極めている極貧地域のために、井戸を掘る事業を展開して住民の生活支援を行ってきた事はよく知られている。しかし、この事業の過程でユニセフが犯した大きな過ち、すなわち、水量の確保に追われて水質検査を無視したため、ユニセフが掘った井戸を使用したインドのある地域の住民を重度のフッ素症に罹患させ、ひどいケースでは部落を壊滅させてしまったというような事があったのは、イギリスのガーディアン紙(1998年7月15日づけ)が報道するまでは殆ど知られる事がなかった。






(フッ素症のため手足が曲がってしまったインドの子供たち。下のレントゲン写真は脛骨と腓骨を示す。T.Chakmaら、Fluoride.Vol.33 No.4, 187-195,2000より)                          

こういった経緯があることを思い合わせると、このユニセフの見解には、自らの組織が過去におかしたあやまちへの手痛い反省が生かされていると見るべきである。

フッ素の慢性中毒に悩む人間の数は、地球規模で膨大な数にのぼる。特に最近では、水道のフッ素化によって先進国の住民の間にも蔓延してきた。うかうかしていると、日本もこの渦の中に巻き込まれかねない。
フッ素化を推進している元凶はアメリカ政府公衆衛生局であり、その背後に軍産複合体がひかえているのは常識である。アメリカが国連の分担金の支払いを渋り、ユニセフの活動に極めて非協力的なのも、こんな所にも理由があるのかもしれない。

                     [解説の引用文献]
[1] United Nations Envilonment Programme:Report of The Intergovernmental Meeting On Monitoring held at Nairobi from 11 to 20 February 1974.



飲料水中のフッ素に関するユニセフの見解  
                              http://www.unicef.org/programme/wes/info/fluor.htm
                                 
世界中の多くの地域で、地下水や石炭に自然に含有されている高濃度のフッ素のために住民の間に非常に深刻な骨の病気、骨フッ素症が起こっている。
我々は日常生活の様々な製品にわざとフッ素を添加しているが、とくに目につくのは歯磨き剤や水道水などである。それというのも、我々はこの数十年、少量のフッ素は虫歯にたいして予防効果があり、健康を損なうような害作用がないと信じてきたからに他ならない。しかし、今では、たとい少量にもせよ、フッ素の利益を疑う科学者の数はますます増加しつつある。この論文では、フッ素問題、特に飲料水の性質と関連する事柄に関して、手短な紹介を行う

フッ素に関する基礎的事実                      

フッ素は地殻の中にひろく存在し、自然に地下水のなかに浸透する。特に山の麓の土壌には、高濃度のフッ素に富む岩床が風化浸食するためにフッ素が多いようである。

1984年に国際保健機構(WHO)によって刊行されたガイドラインによれば、「至適」量のフッ素の摂取は、虫歯を予防するものとして有効だという。しかし、1日あたりの「至適」な量には、各個人の栄養状態が大きく異なり、それが体内に吸収されるフッ素に影響するので、一致した見解がない。例えば、カルシウムが乏しい食事は、体内のフッ素の蓄積を増加させるのである。

飲料水はフッ素の主要な摂取源である。1984年のWHOのガイドラインは、気温が温暖な地域では、飲料水中の至適なWHO濃度は1 ミリグラム/リッター(1ppm)以下であるべきだが、寒冷地域では1.2 ミリグラム/リッターに増加するとしている。この違いは暑い地域では発汗が多く水を飲むのも多くなるという事実による。飲料水中のフッ素のガイドライン値(許容値の上限)は1.5ミリグラム/リッターであり、この閾値は、虫歯にたいする抵抗性という利益とともに斑状歯の危険おさえるのを配慮して決められた。(このWHOガイドライン値は世界的なものではない。たとえばインドでは、この上限値の1.5ppmは、1998年に1.0ppmに下げられた。)

多くの国々で歯科衛生のために、水道や歯磨き剤その他の製品にフッ素が加えられてきた。しかし、フッ素は、また食品や空気中(その大部分は燐酸肥料工場やフッ素を含有している燃料をもやすことによる)にもある事は忘れてはならないので、人間が実際に摂取しているフッ素の量は、そのため想像されているものより多いのである。

過剰なフッ素の摂取が深刻な毒性を及ぼすということについては、以前から知られてきた事である。しかし、今では、フッ素に一体利益があるのかどうかが論争されているのである。

フッ素は健康によいのか悪いのか

フッ素が虫歯予防に最初に使用されたのは1940年代であるが、その有効性には2つの基盤があった。

フッ素は歯のエナメル質を溶かす酸をつくる細菌の酵素を抑制する。この観察は妥当なものであったが、今ではある科学者らは、他の有用な酵素を障害する害の方が、虫歯予防の有益な作用よりはるかに大であると確信している。フッ素イオンはカルシウムイオンと結合し、子供の時に歯のエナメル質を強化する。しかし、多くの研究者は、過去10〜15年にかけてインドやその他の国で行われたこれと矛盾する証拠から、これは事実というより仮定にすぎないと考えている。そればかりか、過剰のフッ素の摂取は歯のマトリックスからカルシウムを奪い、一生を通じると虫歯を良くするよりは却って悪化させ、斑状歯をもひき起こす。そして深刻な慢性的蓄積性的なフッ素の曝露は、救い難い佝僂性の骨フッ素症をも惹起するのである。

フッ素症の症状

歯牙フッ素症(斑状歯)は、変色したり、黒ずんだり、まだらや白墨のように白くなってているのが特徴であるが、これは歯が発育している子供の時に過剰なフッ素に曝露された明らかな兆候である。これらの作用は、フッ素の被曝が歯が完全に発育してから後に起こった場合では明らかではない。従って、大人に斑状歯がないからといっても、その大人のフッ素の摂取量が安全限界内にあるということはできない。

過剰フッ素を慢性的に摂取すると、非常に重症で永続的な、骨や関節が変形する骨フッ素症となる。その初期症状は、突発的な痛みや関節の硬直で、胃痛や筋肉の弱化なども警告的な症状である。次の段階になると、骨硬化症(骨の硬化や石灰化)が起こり、最後には脊椎や主要な関節や神経組織などがダメージを受ける。

いずれにしろ、歯牙フッ素症や骨フッ素症は不可逆的な病変であり、治療方法は存在しない。できる唯一のことは予防であり、それはフッ素の摂取を安全限界内にとどめておくことだけである。

フッ素症は世界的にひろがっている              

最新の情報によれば、フッ素症は地球規模で起こっており、少なくとも25か国で流行している(地図を参照)。この病気にかかっている人間の総数は明らかではないが、控えめに見積もっても何千万という数であろう。1993年に、インドでは32州のうちの15の州でフッ素症が流行しているのが判明した[2]。メキシコでは5百万人(全人口の約6%)が、地下水によるフッ素症に罹患している[3]。中国の中央部や西部のある地域ではフッ素症は珍しいものではなく、地下水中のフッ素を飲む事によって起こるだけではなく、フッ素を含んだ石炭を燃やすことによる空中のフッ素を吸い込むことでも起こっている[4]。このようなものは世界的には、産業フッ素症として起こっているものである。



政府の中には、このようなフッ素症の問題が住民に如何に害を与えているかについて、十分に認識していない所もある。そのような訳で、この問題についてさらなる研究の支持が求められているだけではなく、政府による系統的な政策を推進することが求められているのである。の

飲料水中のフッ素

地殻の上部にあるフッ素化合物は大変水に溶けやすく、このためフッ素は表流水にも地下水にも含有されている。しかし、新鮮な表流水中のフッ素濃度は、0.01ppmから0.3ppmと低いのがふつうである。

地下水の場合、天然フッ素の濃度は帯水層の地学的、化学的、物理学的特徴や、土壌や岩石の多孔性や酸度、温度、他の化学元素の作用、井戸の深さなどによって異なってくる。このように関係する変数が多いために、地下水中のフッ素濃度は、1ppm以下から35ppm以上まで非常にまちまちである。ケニヤや南アフリカでは25ppmを越える所もある[5]。インドでは38.5ppmの濃度まで報告されている[6]。

フッ素中毒の予防

フッ素中毒は水源を変えることや、飲料水中の過剰フッ素を除去し、リスクにさらされている住民の栄養状態を改善することで、予防し最小限に押さえることが可能である。

水源の変更
これには表流水、雨水、フッ素濃度の低い地下水などが含まれる。
表流水・これを採用するためには特に注意が必要である。なぜならば表流水は生物学的、化学的に高度に汚染されていることが非常に多いからである。表流水は処理や消毒することなしには飲料水として使用してはならない。水質処理の技術は様々な方法が入手可能であるが、最も有効な方法は高価かつ複雑であって、貧困な国家には応用できないのが普通である。砂礫で濾過することや、紫外線や塩素による消毒のような簡単かつ低価格な方法が適当な場合が多いが、すべてではない。よい結果をえるためにどのような技術を利用するかは、結局そのコミュニティの能力が不可欠である。家庭レベルで塩素消毒することは緊急な場合においてのみ広く用いられている。

雨水・雨水はふつう水源としては清浄であり、解決方法としては低コストである。しかし、コミュニティや家庭で雨水をどのようにして溜めておくかが問題になり、熱帯や亜熱帯では、年間の降雨量が極端にかたよっているので大規模な貯留施設が必要になる。このような施設は高価であり広い空間を必要とする。

フッ素濃度の低い地下水・ある地域ではフッ素濃度は、滞水層の地質構造や深さによって井戸ごとに非常に異なっている。井戸を深く堀り直すことや別な場所に新しく井戸を掘ることが問題の解決になることもあろう。フッ素の地下水における水平的垂直的分布が一様でないことは、フッ素症の流行地帯では、井戸ごとに個別に水質検査しなければならないということを意味している。広い地域において、あるサンプルを検査してそこから推定することからは、決して正確な像は描けない。

飲料水の脱フッ素化・給水場でフッ素を除去するには、基本的に2つの方法、沈殿法と吸収方がある。

沈殿法
・このナロガンダ法(先駆的に適用されたインドの村にちなんでこう呼ばれる)は、この原理を採用したものである。水処理の凝固剤として一般的に使用されるミョウバン(水酸化アルミニウム)は、水中のフッ素イオンを凝集させる。この現象はアルカリ性のもとでよく進行するので石灰が添加され、さらに消毒のために漂白剤が加えられる。これを攪拌すると化学物質は凝塊となり、これは水より重いため貯水槽の底に沈殿する。この方法は大規模でも小規模でも適しており、コミュニテイでも家庭でも応用できる。ある家庭用のものでは20リッターのバケツ2杯の水を2時間以内に処理ができる。凝集が完了した水は最初のバケツの底から5センチ(これがヘドロの上の安全限界である)のあたりで蛇口に導か れ、2杯目のバケツに溜めておき使用するのである。

吸収法
・上記以外の方法は強力な吸収剤を詰めこんだ円筒に水を流下させて濾過するもので、この吸収剤には活性アルミナ(Al2O3)、活性炭、イオン交換樹脂などがある。この方法もコミュニティでも家庭でも応用できる。吸収剤がフッ素で飽和した時にはこれを清掃するために、弱酸かアルカリを逆流させて再生させる必要がある。この逆流水はフッ素が沢山蓄積しているので、付近の地下水を再汚染させないように注意深く廃棄しなければならない。脱フッ素をコミュニテイレベルでやるか各家庭で行うかについては、それぞれ賛否両論がある。コミュニテイの手押しポンプに取り付けた脱フッ素装置はスケールメリットからいって理論上一人当たり安価であるが、公共施設のメインテナンスには問題が起こりがちで、良好なコミュニテイの形成が不可欠となる。家庭用のものは飲用に使う少量の水を濾過すればよいので、この点はなはだ便利であり手入れもゆき届くが、適宜な時期にフィルターを交換再生させるための能率的なシステムが必要となる。だが、技術は部分的な問題にしかすぎない。さらに重要で困難な問題は、請負人を含めて地元の能力をいかにして作り出すかということである。

良好な栄養
臨床的データは、フッ素症に罹患するリスクが適量のカルシウムを摂取することで減ることを立証している。また、ビタミンCがこのリスクにたいして保護的に働くことのかも知れない。かくして、フッ素症に罹患している住民の、特に子供たちの栄養状態を改善することが、上記で議論した技術的サポートに次いで効果的なものとなろう。

フッ素除去とユニセフ

ユニセフはこれまで何年もの間、全国の多くの地下水に過剰フッ素があるインドで、政府その他の団体と親密に共同してその除去化にとりくんできた。1980年代には、ユニセフはフッ素問題にとりくむ政府の計画を支援し、その結果、政府は、フッ素症発生地域にフッ素に汚染されていない安全な飲料水を提供するための計画を発足させ、それは今なお進行中である。

過去5年間のユニセフのインドにおける活動の焦点は、水質を監視するシステムの強化、家庭での水処理の促進、そして必要ある時には、他に水源を求める事を提唱する事などにあてられてきた。この戦略のためには、家庭および自治体の両者にたいする教育こそが何よりに肝要である。そしてフッ素症罹患地域で多くの展示用のプロジェクトが立ち上げられ、現在では家庭用のフッ素除去装置の導入が強調されてきているのである。また、ユニセフは飲料水からフッ素を除去するための活性アルミナの利用の研究開発にたいして資金援助を行ってきている。

フッ素の問題は今や地球規模での重要問題とみなされるべきであり、インドでの経験は、ユニセフやその共同団体が、この問題の根本的な解決のために下記の4タイプの支援を提供するのを手助けしよう。。

1)この問題の理解を深め、フッ素の特に子供に対する障害の認識を促進するこ2)関係する政府や公衆に詳細にフッ素の問題について認識させ、水質を監視する重要性を認識させること。
3)パイロット計画をつうじて低価格のフッ素除去技術の有効性を示説する。4)自治体や政府に対して、水質監視や健康状態の監視の両者からなるリスク評価のための信頼性あるシステムを含め、フッ素症には予防する余地があることを強調すること


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Notes:

[1]Fluorine and fluorides', Environmental Health Criteria 36, IPCS International  Programme on Chemical Safety, WHO, 1984. The WHO guideline values for fluoride in drinking water were reevaluated in 1996, without change, and the issue is currently under further review.
[2]Prevention and control of fluorosis in India, Rajiv Gandhi National Drinking Water Mission, 1993.
[3]Endemic fluorosis in Mexico', Fluoride, vol. 30, no. 4, 1997.
[4]Data from a national research project under the eighth Five-Year Economic and Social Development Plan, 1995.
[5]Fluorine and fluorides', see note 1 above.
[6]Information supplied by UNICEF India.

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過剰なフッ素が深刻な毒性を及ぼすことは、以前から知られてきたが、今では、フッ素に利益があるのかどうかが論争されているのである。