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高橋洋一の俗論を撃つ!

全く退屈しないデータ満載の歴史書
ピケティの『21世紀の資本』を読む

高橋洋一 [嘉悦大学教授]
【第109回】 2014年12月25日
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 トマ・ピケティの『21世紀の資本』が好評である。分厚い学術書であるが、ものすごく売れている。kindleの英訳版を読んでいたところ、訳者山形浩生さんから、みすず書房が出版した日本語訳をいただいたので、それも読んでみた。

 タイトルからマルクスの資本論の再来を彷彿させるが、ピケティ自身がいうとおり本書はマルクス経済学ではなく、標準的な成長理論を使った、ごくふつうの経済学である。

歴史書感覚で読める

 700ページを超える本で字も小さいが、経済学の専門書にしばしば登場し読者を遠ざける数式の羅列もなく、歴史書の感覚で読める。ただし、日本の歴史書と異なり、ストーリーはデータに基づくモノだ。筆者は歴史が好きなのだが、従来の歴史書はストーリーがまずありきでデータがほとんどないのが不満だったが、こうしたデータ満載の歴史書ならいくらでも読みたいものだ。

 ちなみに、紙ではないkindle版のいいところは、図表について資料リンクが張られていることだ。そこには、きれいな図表がすべてある。本稿のようなコラムでは、それを引用できるので、かなり便利だ。

 筆者は図表マニアなので、本文を読むより先に図表を見て、その本文を推測するのが好きだ。資料リンクの図は250枚以上もあり、それらを見ているだけで、わくわくしてしまう。この資料リンクのおかげで、本文を読むスピードが速まったのはいうまでもない。この資料リンク(日本語版もある)とともに、本文を読むと一層理解が深まるだろう。

 本書は、大量の歴史データの他にも、いたるところで哲学、文学などの引用があり、理想の政治からの政策提言もある。ケインズによれば、経済学者・エコノミストは(ある程度)数学者、政治家、歴史家、哲学者でなければならないというが、数学専攻の後で経済学に転じたピケティ氏が、歴史、哲学を本書で論じ、将来は政治家になって、格差是正のために奔走している姿を想像したくなる。

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高橋洋一[嘉悦大学教授]

1955年、東京都に生まれる。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官などを歴任したあと、2006年から内閣参事官(官邸・総理補佐官補)。2008年退官。金融庁顧問。2009年政策工房を設立し会長。2010年嘉悦大学教授。主要著書に『財投改革の経済学』(東洋経済新報社)、『さらば財務省』(講談社)など。

 


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