北朝鮮の首脳を暗殺するという筋立てのハリウッド映画をきっかけに、国際的な緊張が高まっている。

 北朝鮮が映画に激しく反発していたなか、先月、米国にある日系の制作会社に対する大規模なサイバー攻撃がおきた。

 さらに映画館などにテロを予告する脅迫文がネットに出た。制作会社は今月に予定していた全米での公開を中止した。

 オバマ米大統領は今回の攻撃を「北朝鮮が国として行った」と名指しで非難。「対抗措置をとる」と明言した。

 サイバー空間は、世界のインフラや通信が頼る重要公共財である。それを悪用して国家が攻撃や脅迫をしたとすれば、戦争行為にも近い暴挙である。国際社会が懸念するのも当然だ。

 北朝鮮は関与を否定しているが、韓国でも昨年春に北朝鮮によるとみられるサイバー攻撃がおきている。当時と手口も似ており、疑いは相当に濃い。

 韓国政府はかねて、北朝鮮が1万人規模のハッカーを養成していると指摘してきた。北朝鮮外務省は「今回の事件は我々に関連がないことを実証する方途がある」というが、そうであれば速やかに証明すべきだ。

 金正恩氏は政権に就いて約3年たつが、国内はまだ盤石の態勢とはいえない。来年の朝鮮労働党創建70年に向けて、対外関係の改善を志向しているとみられるが、今回の事件で、最大の交渉相手である米国との対話の模索は大きくつまずいた。

 オバマ氏は、6年前に解除した北朝鮮のテロ支援国家への再指定を検討している。そうなれば朝鮮半島の緊張は急速に高まりかねない。国際社会での孤立化はさらに強まるだろう。

 米国と対話するためには何が必要なのか。金正恩氏は熟考する必要がある。

 一方、今回の事件を機に、米国がサイバー上の安全策について、中国に協力を求める異例の展開になっている。北朝鮮のネット接続の大半が中国経由という実情があるからだ。

 米国の盗聴疑惑と、中国のハッキング疑惑とで、これまで両国は互いを非難し合ってきた。その米中がサイバー安全保障について真剣な論議を始めるならば、注視に値する。中国は責任ある大国として、米国の呼びかけに応じるべきだ。

 この問題を国連安全保障理事会で取り上げるのも一案だ。多国間で取り組む国際サイバー対策の構築に向けて、機運を高めてもらいたい。もちろん日本にとっても重大な関心事であり、積極関与が求められる。