社会の動きは非常に複雑だ。そんなに簡単に「次の時代」を読むことなどできない。何が時代を変えるのか、その取っ掛かりすらもつかめないのが普通だ。

しかし、「次の時代を読む」ためのシンプルな考え方があると、科学史家トーマス・クーンは言った。

どうするのか。

人間の行動や考え方、社会の動き、世界の動きは、複雑なようにできていて、実は「たった1つ」の動きを見るだけで分かるとトーマス・クーンは主張する。

個人の行動も、社会の動きも、世界の動きも、すべての大局的な行動は、「たった1つの行動」によって行われている。このシンプルな行動様式とは何か。それは、以下のものだ。

「豊富にあるモノが大量消費を促す」
「それが次の時代の潮流になる」

個人も、社会も、世界も、ありとあらゆるものは、この法則に支配されていることをトーマス・クーンは発見した。ここで重要なのは、「大量消費」の部分である。


現在は「情報」が満ち溢れている時代


たとえば、現在は「情報」が満ち溢れている時代だ。つまり、「情報」は現代社会では「豊富にあるモノ」に当てはまる。そうすると、どうなるのか。

「情報」を徹底的に大量消費する商品・サービス・ビジネスが最前線になる。

現代社会を特徴づけているインターネットという存在は、それ自体が「情報」を大量消費させるものである。

検索エンジンも、クラウドも、それが時代の最前線になっているのは、まさに満ち溢れている情報を大量消費させるビジネスだからである。

「豊富にあるモノを大量消費する」というのが、次の時代の巨大な潮流だ。

かつて、「情報」は常に不足しているものだったということを忘れてしまった現代人は多い。企業の財務情報も、GDPも、鉱工業生産指数も、各種統計も、昔はそんなに簡単に手に入るものではなかった。

手に入れようと思えば、図書館から役所から企業窓口まで、実際に足を動かして捜し回らないとならなかった。

しかし、今では、地球の裏側の国で活動している企業の財務諸表ですらもインターネットで簡単に手に入る。情報が大量消費されているのだ。

インターネット社会に入ったら一転して情報は誰にでも無尽蔵に手に入るものになった。

今でも手に入らない情報もたくさんあるが、それよりも手に入る情報の方が多くなった。


インターネットを使うフィリピンの女性。現代社会を特徴づけているインターネットという存在は、それ自体が「情報」を大量消費させるものである。

溢れるようになったものは「大量消費」される


情報が満ち溢れるようになった結果、どうなったのか。情報に関して大きな思考転換が生まれた。今度は、情報を「大量消費」するライフスタイルが最前線になったのだ。

現在、ほとんどすべてのサービスは情報を消費させるものになっているが、その理由はここにある。

情報はありあまるほど豊富になったので、それを「大量消費」させることがビジネスの基本になったのである。

現代の巨大なパラダイムシフトは「情報」の世界で起きているが、一昔前の巨大なパラダイムシフトは「モノ」の世界で起きていた。

戦前はモノが不足していた時代が長かったから、モノを大切に使うという価値感は万人が納得するものだった。

しかし、戦後の工業化社会に入ると、大量生産が可能になって、モノは一転して「誰でも無尽蔵に」手に入れることができるようになった。

そうなると、モノに対して大きな思考転換が生まれるようになった。モノを「大量消費」し、使い捨てにするサービス、ビジネスが隆盛を迎えるようになったのである。

音楽についてもそうだ。デジタル機器がない時代、音楽というのは聞きたくとも聞けない貴重品であり、宗教儀式に使われる呪術の一種でもあった。

楽譜で記録できても、それを再現してくれる人や場所が必要だったので、ひとつのメロディーがとても大切に扱われた。

しかし、レコード、CD、インターネットと時代が進めば進むほど音楽も無尽蔵に供給されるモノのひとつになっていった。そうすると、ここでも思考転換が生まれた。音楽を「大量消費」し、使い捨てにするのが人々の最先端になった。

だから今の時代は、大量にある音楽を大量消費させる商品やサービスやビジネスが隆盛を迎えている。


CDから、シリコンへ。シリコンからクラウドへ。音楽は大量消費できるものになった。だから、音楽を大量消費させるモノ、サービスが時代を作り上げた。

人間は「大量消費」が快感になっている


豊富にあるものは、意識的にも、無意識的にも、自然と「大量消費」される。

なぜなのか。それは、人間は「大量消費」が快感になっているからだ。たくさんあるものを一気に「大量消費」させてくれる快感に惹かれて離れられない。

だから、「大量消費」させる商品・サービス・ビジネスが次の時代の最前線になる。

たとえば、高額宝くじが当たった人は、その瞬間に金に対して巨大なパラダイムシフトが起きる。急に金が豊富になると、どうなるのか。間違いなく「大量消費」に向かって行く。

豊富にあるものは、それを蕩尽することがその人の中では快楽となる。その消費行動が、まさにその人の最先端になる。

次の時代に何が流行するのか。何が大きな社会的変革を起こすのか。何が時代の潮流になるのか。それは、何年も、何十年も、大勢の人間が大量消費してもなくならない「無尽蔵にあるモノ」である。

・石油は人類にパラダイムシフトを起こしたモノだった。
・電気は人類にパラダイムシフトを起こしたモノだった。
・情報は人類にパラダイムシフトを起こしたモノだった。

こういった巨大なパラダイムシフトもあれば、もっと小さなパラダイムシフトもある。そういったものが人類の歴史を作り上げている。

このすべてに共通しているのは、それが無尽蔵に供給できるモノであることだ。

次の時代には、何を豊富に大量消費できるのか。それに気が付いたとき、次の時代が読めるとトーマス・クーンは説く。


科学史家トーマス・クーン。「豊富にあるモノが大量消費を促し、それが次の時代の潮流になる」と言った。

〓 関連記事