今年の全国学力調査で、学校の教科の平均正答率を市区町村が公表した割合は、2%にとどまった。全校の成績を公表した都道府県もなかった。文部科学省の調査でわかった。

 学校別の数値の公表は各校の序列化につながりかねない。教委の慎重な姿勢を支持したい。

 文科省は今年から、学校の成績を、都道府県教委や市区町村教委が公表できるようにした。ルールを変えたのは、「税金を使う以上、保護者や住民は結果を知る権利がある」といった主張が、一部の自治体の長から相次いだためだ。

 行政が説明責任を果たすことは、もちろん欠かせない。情報公開の点からも重要だ。

 だが、この調査の目的は、住民が各校の成績を知ることではない。文科省や教委、学校が学力の実態をつかみ、その向上に役立てることである。

 文科省は、学校ごとの数値を一覧で公表することを認めていない。ただ、全校の正答率を公表すれば、並び替えてランキングにすることは可能になる。

 自治体の学力調査では、学校の点数を気にした先生が試験の最中、間違えた子の問題を指さして回ったことがあった。そんな不正を招いてはならない。

 そもそも学校の成績が、教員の指導力を直接反映しているとは言い難い。保護者の年収や学歴、塾に通う子の割合などに左右されることは多くの研究で明らかだ。結果を読む側はそこを踏まえておくべきだろう。

 「学力向上に家庭や地域の協力を得るため、説明が必要だ」というなら、何も正答率にこだわる必要はない。順位づけを避けながら、各校の結果を伝える方法はないものか。

 注目すべきは、平均正答率をそのまま明らかにせずに、学校の状況を伝える公表方法を考えた自治体だ。正答率を「数と計算」「図形」といった領域別のグラフに加工したり、成果や課題を文章で述べたり……。

 どんな方法をとれば数値が独り歩きせず、しかも学校や保護者、住民に役立つか。自治体は知恵を絞ってほしい。文科省はよい例を集め、各教委が共有できるようにしてもらいたい。

 公表は、行政にとって終着点ではない。成績が振るわない学校について、原因を分析し、教職員や予算を増やすなどの手当てをする。成果を上げた学校は、その取り組みを他校に紹介する。すべきことは多い。

 この調査の狙いの一つは、教育行政が自らの施策を検証することだ。そのことを肝に銘じてほしい。