ネットで見る限り,ノーベル物理学賞(青色LED)とのタイミングもあって,けっこう話題になっている様子.
ぼく自身,この研究を初めて学会で聞いたとき,可視光で虫が死ぬなんてホンマかいな?!と気になっていました.
↓当該論文はScientific Reports誌でオープンアクセス.
まず気になったところは,どのくらいの光の強さで死ぬのか?
論文を読んでみると,90%以上のショウジョウバエ蛹を殺す青色光の強度(光量子束密度)は,3.0*10^18 photons/m^2/s.
photon数だとわかりにくいので,よく使用されるumol(マイクロモル)に変換してみます.
1 molあたり6.022*10^23 photons(アボガドロ定数)で計算すると,上記強度は,5 umol/m^2/s(=(3.0*10^18)/(6.022*10^23)*10^6).
あれ? 5マイクロモル?!
すごい弱光!
そんな弱い可視光で虫が死ぬのであれば,こりゃ世紀の大発見?!と思いつつ,読み進めていくと,4頁目の右下に,仙台の初夏の日射に含まれる青色光(400-500 nm)は,7.5-9.0*10^18 photons/m^2/sと書いてあり,これもマイクロモルに変換してみると,12-15 umol/m^2/s.
12-15マイクロモル・・・これまた低い値.初夏の日射でそんなに弱いはずはないと,以前,MS720(英弘精機)を用いて自ら測定したデータを見てみたところ,柏の7月の日射に含まれる青色光(400-500 nm)は,508 umol/m^2/s.
著者らの数値と,50倍近く差があります.仙台と柏でそんな差はありえない.どうも,著者らの測定方法あるいは,数値表記に問題がありそうです.
なお,プレスリリースには,ハエを殺す光強度は「直射日光に含まれる青色光の3分の1程度」,カのそれは「直射日光に含まれる青色光の1.5倍程度」と書かれています.
「直射日光に含まれる青色光」の光強度に,ぼくが測定した値(508 umol/m^2/s)を当てはめると,それぞれ,ハエおよびカを殺す光強度は,それぞれ170および762マイクロモル・・・けっこう強光です.
しかも,Methodsセクションの文章を読むと,ハエ(蛹)およびカの試験では,それぞれ7日間および5日間連続照射.ハエ(成虫)は死ぬまで連続照射とのこと.つまり,積算強度にすると,日射よりも強い(量の多い)光を当てたことになります.日射試験との比較も欲しいところです.
その他にも,Fig.1aの多重比較(Steel–Dwass法)の結果(英小文字)が変...
コントロールのDD区(光を当てない処理区)に「abcde」.他の処理区は,abcdeいずれかの英小文字が付いているので,DD区の死亡率は,いずれの処理区のそれとも有意な差がないことになります.これも恐らく誤記でしょう(ただ,732 nmの死亡率がかなり低いのは気になる).
また,アブストラクトの最後の文章(読者がよく読む部分)にも違和感.
「For some animals, such as insects, blue light is more harmful than UV light.」(青色光は紫外線より殺虫効果が高い)
この論文では,一般的に有害なUV-CやUV-Bの殺虫効果を検証していません.UV-Aの結果だけでこの結論に導くのはかなり強引です.UV-CやUV-Bでも線量応答曲線を描き,作用スペクトルを算出したら,青色光よりもはるかに高いピークが出てきそうです.
まとめると,モヤモヤする理由は以下の通りです:
1)光強度の数値に誤記の(本来はかなり強い光を当てていた)可能性
2)多重比較の結果に誤記の可能性
3)UV-CやUV-Bの影響を検証・比較せずに,紫外線よりも青色光の殺虫効果が高いと結論付けている点
注目度の高い論文だけに,その後の動向が気になるところです.