住んでいる市町村とは別の自治体への寄付を優遇する「ふるさと納税」。安倍政権は地方創生策の目玉として制度を拡充する方針だ。

 が、それでいいのか。応援したい自治体にお金を回すという本来の趣旨が薄れ、寄付先の自治体からもらえる特産品などの「お得」度ばかりが注目される現状を見れば、原点に返るための見直しが先ではないか。

 ふるさと納税をすると、一定の上限まで、寄付額から2千円を引いた金額が確定申告で納税額から戻ってくる。加えて、寄付先の自治体から「お返し」があることが多い。ネット上にはもらえる商品に関するランキングまであり、まるでお得な通信販売の様相だ。

 東海地方のある市は、寄付のお礼として市内の施設への入場券を贈っていたが、今月から黒毛和牛すき焼き肉などから選べるようにした。すると、最初の2日間だけで昨年1年間の6倍を超す寄付が集まった。

 近畿地方の別の市は、寄付額に応じてカタログから謝礼品を選べる仕組みに改めた。15万円相当というカニのセットを筆頭に、3万円近いという革製かばんなどが並ぶ。

 お返しを厚くする自治体の事情も、わからなくはない。高齢化が進み、人口は減るばかり。もらった寄付金を使っても、地元の業者が潤い、全国にPRできれば、それでいい……。

 しかし、ある自治体が始めると、近くの自治体があわてて乗り出す例も目立つ。現状は、寄付を「お返し」で引き寄せる行きすぎた競争に陥っていると言わざるをえない。

 このまま放置すれば、NPO法人など寄付が頼みの民間団体が割を食い、寄付文化の健全な発展を妨げかねない。

 総務省のまとめによると、東日本大震災があった2011年は、ふるさと納税制度に基づく寄付額が前年の10倍近い650億円に、寄付者も22倍の74万人余に急増した。その多くは被災地向けだったと見られる。こんな使われ方なら誰もが納得するだろう。

 政権内でふるさと納税に熱心なのは菅官房長官だ。先の総選挙でも出身地の秋田県での演説で、総務相を務めていた時に制度を作ったことを紹介しつつ、こう語った。

 「東京に出て、働いて税金を納めるとなると東京だ。育ててくれたふるさとに寄付する仕組みがあったらいいと思った」

 それこそが出発点のはずだ。納税者の本来の思いを引き出すよう、制度を改めるべきだ。