堀込泰三 - HOW I WORK,キーパーソン,生産性向上 09:00 PM
ディズニー最新作『ベイマックス』のテクノロジーを統括する男、ハンク・ドリスキルの仕事術
敏腕クリエイターやビジネスマンに学ぶ仕事術「HOW I WORK」シリーズ第83回。伝記作家のウォルター・アイザックソン(Walter Isaacson)氏に続く今回は、ディズニー映画の技術を統括するハンク・ドリスキル(Hank Driskill)氏にインタビュー。
映画は少人数では作れません。特にアニメ映画の場合、すべてをゼロから創りあげるので、より多くのスタッフが必要になります。最近のアニメーションは、ほとんどがテクノロジーと切っても切れない仲。ウォルト・ディズニー・アニメーションの最新作『ベイマックス』は、ストーリーとテクノロジーの共生関係を示す最たる例と言えるでしょう。
この映画「ベイマックス」は、本日12月20日に日本で公開されたばかり。映画館で予告編をご覧になった方も多いでしょう。優しすぎるロボットと少年の絆を描いた心温まる作品。日本的な要素も多いので、身近に感じられるかもしれません。
そのベイマックスの個性的な外見を支える研究開発を監督しているのが、ハンク・ドリスキル氏です。Hyperionなどの新しいレンダリングプロセスを駆使して、日本とサンフランシスコからインスピレーションを得た架空都市「San Fransokyo(サンフランソウキョウ)」を描いています。
高度なテクノロジー開発を導き、ハイブリッドシティSan Fransokyoを生み出したドリスキル氏は、どのように仕事をこなしているのでしょうか。気になる仕事術を聞きました。
氏名:ハンク・ドリスキル(Hank Driskill)
居住地:カリフォルニア州バーバンク
現在の職業:テクニカル・スーパーバイザー
現在のコンピューター:MacBook Pro、Linuxワークステーション
現在のモバイル端末:iPhone、iPad
仕事スタイル:マルチタスク
── テクニカル・スーパーバイザーとは、どんな仕事ですか?
映画における研究開発のすべてを統括しています。テクノロジー集団によるツールやプロセスの強化・開発の調整役として動くこともあれば、映画固有の研究開発を行うテクニカルディレクターを監督することもあります。実際の映像制作が始まると、「チーフ消防士」が仕事になります。アーティストが仕事を継続できるような環境を整えたり、技術的な障害をつぶしたりと、あちこちを飛び回ります。
── Linuxのバージョンは? なぜLinuxを使っているのですか?
ベイマックスはel64で作りました。Linuxを使っている理由はたくさんあります。何よりも、信頼できるOSでありながら、私たちのやっていることすべてに拡張できる点でしょうか。
── 「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?
「Gmail」と「Gtalk」です。仕事のほとんどが、連絡と調整ごとなので。
── 仕事場はどんな感じですか?
コンピュータグラフィックス関連書籍と、オモチャ(フィギュア含む)が半々で、オフィスを占めています。ほかにあるものと言えば......コンピュータ2つとモニター2つ、スタンディングデスク、軽い打ち合わせ用のイスとソファぐらです。
写真をお見せしたいのですが、ちょうどビルの改築中で、すべてのモノが箱にしまわれた状態のため、残念ながらお見せできません。
── お気に入りの時間節約術は何ですか?
朝起きてから夜寝るまで、iPhoneとiPadに頼りっぱなしです。誰かが私を必要としているときに、すぐに手を差し伸べることができるので、本当に助かっています。
── 愛用中のToDoリストマネージャーは何ですか?
メモとToDoには、iPadアプリ「Notability」を使っています。また、Dropboxに同期しています。
── メモアプリがたくさんある中で、なぜNotabilityなのですか?
書き込みエリアが大きいので、ヘタな手書き文字でも、小さくしたときにそれなりに読める。文書管理がしやすい。同期機能のおかげで、あとでデスクトップから取り出しやすい。などの理由があります。
── 携帯電話と PC 以外で「これは必須」のガジェットはありますか?
私はいつでもスマホ、タブレット、コンピュータに向かっています。自由時間は、「PS4」と「Apple TV」ですね。最近好きなゲームは、「Destiny」と「Mordor」です。先週末はずっと、「Assassin's Creed: Unity」について調べていました。
── 日常のことで「これは他の人よりうまい」ということは何ですか?
たくさんの技術的な思考を同時に巡らせることが得意です。これまでもずっと、たくさんの思考を同時に巡らせることが得意でした。
── 仕事中、どんな音楽を聴いていますか?
普段は静寂が好きですが、音楽を聴きたい気分のときは、オルタナティブかクラシックを流します。
── 現在、何を読んでいますか?
毎週大量のコミックを読みます。週に30冊以上は読んでいますね。
『Marvel』と『DC』はすべて読んでいます。『Image』やその他のものも、ときどき読みます。Marvel Cosmicの大ファンで、『Guardians of the Galaxy』が特に好きでした。でも、いちばん好きなキャラクターであるRich Riderが死んでしまったので、今は喪に服しています。
── あなたは外向的ですか、内向的ですか?
エネルギーを得るときは内向的です。でも、仕事では外向的にならざるを得ないことが多いですね。
── 睡眠習慣はどのような感じですか?
1日4時間ぐらい寝ます。だいたい、午前0時から午前4時ぐらい。
── 休みの日でも1日4時間睡眠をキープしているのですか?
そうです。我ながらおかしいと思うのですが、週末も0時に寝て4時に起きます。子どもが小さいときはこれが便利でしたね。子どもたちが夜中に目を覚ましても、1階に下りれば私が起きているので、ママの眠りを邪魔しないで済みましたから。
── あなたが受けたものと同じ質問をしてみたい相手はいますか?
MarvelのCCOであるJoe Quesada氏です。
── 仕事上、アートな人たちとテクニカルな人たちの両方にからむと思いますが、相手によってコミュニケーション方法を変えていますか?
ある程度はそうしていると思いますが、中心にある想いに、「テクニカル」や「非テクニカル」は関係ありません。私が目指しているのは、最高の映画を作りたいという想いを持つトップレベルの人々が集まる場所を実現すること。脳の仕組みが違う人たちと仕事をするのが、ここで働く醍醐味でもあります。課題に対するさまざまな視点が得られるので、イノベーションが活性化するのです。
── アニメーション制作におけるクリエイティブな課題と技術的な課題は、どのように異なりますか?
クリエイティブな課題はいつも、ストーリーに集中します。私たちはいつでも、ディズニーの名を冠するにふさわしい映画を作らなければならないという、強いプレッシャーにさらされています(たいていは自ら課したプレッシャーなのですが)。特にその影響を早くから受けるのが、ストーリーおよびビジュアルの開発部隊です。彼らは常に、ストーリーの微妙なポイントを何度も書き直しながら、完ぺきなものに仕上げていきます。それがシネマトグラファー、モデラーをはじめとする下流工程へと手渡され、各担当者がアイデアをフレームに盛り込むべく、ひとつひとつを完ぺきなものへと仕上げていくのです。
技術的な仕事は、たいがいが最適化です。イノベーションのコスト対効果を分析した結果、ときとして、アイデアに「No」と言わざるを得ないこともあります。どこに時間をかければ、スクリーンにもっとも美しい映像を映し出すことができるのか。レンダーファーム使用量やディスク使用量の最適化を行ないつつ、生まれたばかりのアイデアをどのように育てていけるのか。まるで「荷造りひもとガムテープ」を使うような行程がほとんどです。
それでも、両者が衝突することはほとんどありません。どちらも、素晴らしい映画を作りたいという想いは同じすから。
── これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください
新しい仕事を始めたら、まずは重役補佐官と仲良くなるといい。人生がグッと楽になるか、グッと大変になるかのどちらかだから。
── そのほかに読者に伝えたいことがあればどうぞ
私は3万冊以上のコミックを持っています。ベイマックスは、私にとって夢のプロジェクトでした。楽しんでいただけたら嬉しいです!
Andy Orin(原文/訳:堀込泰三)
- ベイマックス (ディズニーアニメ小説版)
- アイリーン・トリンブル偕成社