【浅草歌舞伎新時代】座頭・尾上松也「時が来た」次世代ヒーロー7人のリーダー
歌舞伎界にとって1月の風物詩となった「新春浅草歌舞伎」が、来年1月2日から26日まで東京・浅草公会堂で上演される。今回の公演が例年と大きく異なるのは、出演者の顔ぶれが大幅に若返ったこと。座頭を勤める尾上松也(29)を筆頭に、主要メンバー7人はすべて20代。次世代のさらに先の時代を担うであろう若武者「ネクスト7」の素顔を紹介する。
20代最後の“大仕事”に、松也はプレッシャーと楽しみを抱いている。「若手の登竜門」ともいわれる浅草歌舞伎への出演は今回が3度目だが、これまでは市川海老蔵(37)、市川猿之助(39)ら、一世代上の頼れる先輩がいた。「ただ演じるだけで良かったのが、公演全体をプロデュースする立場になった。『ようやく、その時が来たか』という気持ちと『どうする、どうなる?』という不安があります」。ただ「自分一人ではない」という心強さを感じている。
「後輩たちからは歌舞伎に対する強い気持ちを感じますし『一緒に相談させてください』と言ってくる。自分は先輩ぶらず、代表としてやっていくつもり。『チーム浅草』ですね」。意見のやり取りに使っているのは無料通信アプリ「LINE」。7人でグループをつくり、メッセージを交換しているのは、若手ならではの知恵といえる。
20歳のときに父の6代目尾上松助が死去。後ろ盾をなくし、役がつかない時期も長かった。そんな時、励みになったのは中村獅童(42)の存在だ。「自分が俳優として模索しているときに、同じように後ろ盾のない獅童さんがさまざまなチャレンジをして大スターになった。それを見て、目標にしようと思いました」
飛躍のきっかけは、12年に出演した舞台「ボクの四谷怪談」。その後、前田敦子(23)との熱愛というプライベートの話題もあって知名度が上がったが、それもある意味プラスと考えている。「役者をやっている以上は、多くの人に知ってもらってナンボ。(熱愛報道を)戸惑いや重荷には感じていませんね」とサラリと話した。
学業優先で歌舞伎から離れていた中学を卒業後、復帰する際は「どうしても歌舞伎をやりたい」という意思は薄かったという。「演劇はやりたいと思っていて『今後のために歌舞伎も覚えておいた方がいいな』くらいの気持ち」。それが歌舞伎へとのめり込んでいくようになった。
「自然と、いつの間にか歌舞伎しか考えられなくなった。今の自分があるのは歌舞伎が育ててくれたからこそ。何があっても揺るがないと思うようになりました。それにつれて、教えていただくのに精いっぱいだったのが、いつか後輩たちに自分が教える立場になることを意識するようになりましたね」。そんな“意識改革”が生まれた中で迎える舞台。
「いい時期に試練を与えていただいたと思います。粗削りでも熱意とエネルギーを出していけるのは、若さの強みですし」と意欲をみなぎらせている。(高柳 哲人)
◆尾上 松也(おのえ・まつや)本名・井上龍一。1985年1月30日、東京都生まれ。29歳。6代目尾上松助の長男。90年5月、歌舞伎座「伽羅先代萩」の鶴千代で2代目松也を名乗り初舞台。今年11月から日テレ系「メレンゲの気持ち」で進行役を担当。来年5~8月にはミュージカル「エリザベート」にルキーニ役で出演。身長178センチ。屋号は音羽屋。
【出演演目】
◆昼の部 「春調娘七種」曽我五郎、「一條大蔵譚」吉岡鬼次郎
◆夜の部 「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「俄獅子」鳶頭