サイバー攻撃 北朝鮮政府関与と断定12月20日 11時50分
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)第1書記の暗殺を題材にしたコメディ映画を製作したソニーのアメリカにある映画の子会社がサイバー攻撃を受けた問題で、FBI=連邦捜査局が北朝鮮政府が関与していると断定し、オバマ大統領は今後、対抗措置を取る考えを示しました。
北朝鮮のキム・ジョンウン第1書記の暗殺を題材にしたコメディ映画を製作した「ソニー・ピクチャーズエンタテインメント」は先月下旬、コンピューターシステムがサイバー攻撃を受け、これまでに劇場未公開の新作を含む映画や幹部のメールがインターネット上に流出するなどの被害が出ています。
これについて、FBIは19日、「十分な証拠がある」と発表し、サイバー攻撃に使われたソフトウエアが、かつて北朝鮮で開発されたものと似ているなどとして、アメリカ政府として初めて北朝鮮が関与していると断定しました。
これを受けて、オバマ大統領はホワイトハウスで開いた記者会見で「北朝鮮が攻撃に関与したことを確認した。多くの被害が出ている」と述べました。
そのうえで「適切な時期にわれわれのやり方で北朝鮮に相応の対応をしていく。さまざまな選択肢を検討している」と述べ、今後、対抗措置を取る考えを示しました。
一方、北朝鮮政府は一貫してサイバー攻撃への関与を否定しており、反発を強めるものとみられます。
この映画を巡っては、サイバー攻撃を行ったと主張するグループが映画館にテロ攻撃を予告する脅迫文をインターネット上に掲載したことからソニー・ピクチャーズは今月25日から全米で予定していた劇場公開を取りやめています。
これについて、オバマ大統領は「彼らは間違いを犯した。民間企業としての責任を心配したことには同情するが、最初、私に話してほしかった。私は彼らに『脅しに屈するな』と言っただろう」と述べ、ソニー側の対応は適切でなかったとの認識を示しました。
「われわれは降参したのではない」
オバマ大統領が記者会見のなかで、ソニー側の対応は適切でなかったとの認識を示したことについて「ソニー・ピクチャーズエンタテインメント」のマイケル・リントン会長は、19日、アメリカCNNテレビのインタビューで「われわれは降参したのではない。アメリカ国民にこの映画を見てもらいたいと今も強く思っている」と述べ、反論しました。
国連北朝鮮代表部はコメントせず
北朝鮮のキム・ジョンウン第1書記の暗殺を題材にした映画を製作したアメリカにあるソニーの子会社に対するサイバー攻撃を巡って、アメリカのFBI=連邦捜査局が、北朝鮮政府が関与していると明らかにしたことについて、ニューヨークにある国連の北朝鮮代表部は、一切コメントを出していません。
北朝鮮代表部の近くで、キム・ソン参事官ら関係者は「サイバー攻撃に関わっていたのか」という記者の問いかけに一切応じることなく、無言で立ち去っていきました。
佐々江駐米大使「米の対応の変化を注視」
ソニーのアメリカにある映画の子会社が、サイバー攻撃を受け、アメリカのFBI=連邦捜査局が北朝鮮政府が関与していると断定したことについて、佐々江駐米大使は19日、記者会見で「北朝鮮によるサイバー攻撃は、今後、極めて重要な問題になるだろう」と述べ、アメリカの今後の北朝鮮への対応がどのように変化していくのか、注視していることを明らかにしました。
そのうえで、「北朝鮮のサイバー攻撃など新たな脅威への対応は、来年の世界情勢の課題の1つだ。こうした問題の対応で、日米関係の重要性がさらに増すだろう」と述べ、日米で連携して対応する必要性を強調しました。
サイバー攻撃のこれまでの経緯
ソニー・ピクチャーズへのサイバー攻撃が始まったのは先月24日で、「ガーディアンズ・オブ・ピース」、みずからを「平和の守護神」と名乗るハッカー集団がソニー・ピクチャーズのコンピューターシステムに侵入し社内でメールが使えなくなるなどの被害が出ました。
3日後の先月27日には、劇場未公開の新作を含む5本の映画のコピーがインターネット上に流出し、その後も社員の給与明細や社会保障番号など大量の個人情報のほか、映画の脚本、それにソニーの経営戦略の内容などが次々と流出します。
このなかには、ソニー・ピクチャーズの幹部のメールも含まれ人種差別的な内容があったため批判が集まり、幹部が謝罪を迫られる一幕もありました。
こうした被害の拡大を防ごうとソニー・ピクチャーズは今月14日、弁護士を通じてアメリカのメディアに流出した情報をもとに報道しないよう求める異例の書簡を送りました。
しかし、ハッカーによる攻撃はさらにエスカレートします。
今月16日には映画の先行上映を阻止するため、インターネット上に「世界は恐怖に包まれるだろう。2001年9月11日を思い出せ」と映画館へのテロ攻撃を予告する脅迫文をインターネット上に掲載。
その翌日の17日、複数の大手映画館チェーンが「客の安全が最優先だ」などとして、今月25日に予定していた公開を延期することを相次いで決めたことからソニー・ピクチャーズは全米での公開を取りやめると発表しました。
この判断に対し、アメリカでは客の安全を考えれば当然だとする見方がある一方で、「ソニーはサイバー戦争の初めての敗者になった」と伝えるメディアもあり、大きな関心を集めています。
サイバー部隊は約3000人か
北朝鮮が関わった疑いのあるサイバー攻撃は、ここ数年相次いでいて、韓国の情報機関は、このうち2009年にアメリカ政府と韓国政府のウェブサイトがほぼ同時に大規模な攻撃を受けた事件はその一つだとみています。
また、韓国では去年3月テレビ局や金融機関のパソコンなどコンピューターおよそ5万台近くが一斉に使えなくなった事件が起きました。
さらに、去年6月にも韓国大統領府のウェブサイトに一時、北朝鮮のキム・ジョンウン第1書記を称賛するような文章が表示されるなどという被害が出ています。
この2つの事件の手口は、攻撃対象の重要なファイルを勝手に削除したり、コンピューターが起動しないようにしたりするなど共通しているとして、韓国政府は北朝鮮による攻撃だとみられると発表しています。
韓国政府は、北朝鮮のサイバー攻撃について、およそ3000人のサイバー部隊を抱え、攻撃能力について「世界最高水準だ」と分析し、北朝鮮がサイバー攻撃を核、ミサイルと並ぶ「3大攻撃手段」として重視しているとみています。