モンテディオ山形をJ1に導いた石崎信弘監督の"感動"を生みだすフィジテク

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モンテディオ山形をJ1に導いた石崎信弘監督の"感動"を生みだすフィジテク

藤江直人  [2014/12/20]

4シーズンぶりにモンテディオ山形をJ1の舞台へと復帰させた石崎信弘監督の練習方法に迫る

リーグ戦6位からの下克上で4シーズンぶりとなるJ1復帰を決め、天皇杯でも準優勝したモンテディオ山形。シーズン終盤に巻き起こした大旋風を導いたのは、16年ぶりに復帰した石崎信弘監督が「理不尽! 」の名のもとに課した独特かつ過酷な練習だった。

ロッカールーム内で発生した異変

山形県天童市内にあるモンテディオのクラブハウス内の一角。選手たちのロッカールームに掲げられたホワイトボードにちょっとした"異変"が起こったのは、2014年シーズンが始動してからだった。

それまでは午前中だけだった練習が、午後もぎっしりと埋まっている。しかも、25歳以下の選手を対象とした午後の部の目的にはこんな言葉が綴(つづ)られていた。

「理不尽! 」。

JFLを戦っていた1998年以来、実に16年ぶりにモンテディオの指揮官へ復帰した石崎監督が、今シーズン当初の記憶を蘇らせながら苦笑いする。

「『それくらい過酷なメニューを課すよ』という意味で書きました。『止める』『蹴る』といった基本を含めた部分ではレベルが高いチームでしたけど、『走る』『頑張る』『ディフェンスをする』という部分では、自分が今まで見てきたチームよりも劣るかなと思ったので」。

午後の部への参加は任意。中堅やベテランにも門戸を開いたが、グラウンドへ集まった選手は残念ながら多くなかった。

「体が動けば気持ちも強くなり、相手より戦える」

石崎監督の練習は「フィジテク」と呼ばれる。ボールをたっぷり使いながら、気がついたときには膨大な量を走っている。ゲーム形式練習の楽しさで、フィジカルトレーニングのつらさを相殺するのが特徴だ。

そこには、20年間で8チームを指揮し、そのうち柏レイソルとコンサドーレ札幌をJ1へ昇格させた指導者人生で貫かれてきた信念が脈打っている。広島県出身で、自らを「わし」と呼ぶ56歳の石崎監督が「フィジテク」の意図を明かす。

「わしは昔の人間で、どうしても気持ちの話ばかりになってしまうけど、気持ちが強くないとどれだけいい技術を持っていても意味がないとずっと考えてきた。体が動けば気持ちも強くなって、相手よりも戦えるようになる。いま以上になるために、わしの練習が必要なんだと理解してほしかったんだけどね」。

そうした状況下で、FW川西翔太はすすんで午後の部へ参加していた。ガンバ大阪から期限付き移籍で加入した25歳は、出場機会を得られなかった前半戦から変貌を遂げる。泥臭い守備も厭(いと)わないスタイルを身につけたシーズン後半では、必要不可欠な存在となった。

必然に導かれたJ1昇格と天皇杯の快進撃

川西に刺激されるように、午後の部へ足を運ぶ選手が増えてきた。「試合のほうが楽だ」という選手の声を聞くたびに、石崎監督は確かな手応えを感じていた。

「シーズンの終盤になるほど、フィジテクの効果が出てくる。ウチの選手たちをJ1の舞台に出せば技術と戦術の部分で劣るかもしれないけど、戦う部分に関してはどのチームよりも強くなった」。

2桁順位をさまよっていたリーグ戦で急上昇し、天皇杯4回戦ではサガン鳥栖を延長戦の末に振り切った。J1でも屈指のハードワークを誇るサガンから奪った勝利で、指揮官の指導に対する信頼がさらに増した。

「延長戦に入っても、走る部分では鳥栖さんに負けなかった。ハードな練習を受け入れられる選手がちょっとずつ増えていったことで、チームがひとつの方向を向くようになりましたよね」。

ジュビロ磐田とジェフ千葉を連破し、6位からの下克上で頂点に立ったJ1昇格プレーオフ。東北勢として81年ぶりに決勝戦に進んだ天皇杯。いずれも必然に導かれたものだった。

三冠ガンバ大阪に突きつけられたJ1との差

迎えた12月13日。日産スタジアムで行われた天皇杯決勝で、モンテディオはガンバに1対3で屈した。

来シーズンからJ1に復帰するモンテディオにとって、J1とナビスコカップを制した王者との対戦は格好の腕試しの場でもあった。しかし、開始4分でFW宇佐美貴史に先制点を許すと、同22分にも宇佐美のドリブル突破からFWパトリックに追加点を決められた。

後半に1点を返し、その後も惜しい場面も作った。しかし、90分間を通して痛感させられたのはJ1勢との決定的な違い。隙を見逃さない集中力と、数少ないチャンスをゴールに結びつける「個」の力だった。

特に3失点目は足をつらせた選手が続出し、10人となった時間帯に奪われた。悔しさを胸に刻みながら、石崎監督は「フィジテク」のレベルをさらに上げる決意を固めている。

「全体的にまだ鍛え方が足りないかな。来年からは、選手たちにもっと覚悟をもって練習に出てきてもらう必要がありますね」。

目に焼き付けた、天皇杯の賜杯

運動量ではガンバを上回っていたが、その「質」で後塵(こうじん)を拝した。現実と真正面から向き合いながら、石崎監督はJ1で戦うための設計図を描く。

「走りの質はもちろん、自分たちのレベルでは量もさらに増やしていけないといけない。偉そうなことを言うようだけど、サッカーの素晴らしさは頑張る、戦うといった部分で見ている人を感動させられる点にあるとわしは思う。守るだけではJ1ではもちろん勝てないので、攻撃の部分を頑張っていかないと」。

試合後の表彰式。三冠目となる天皇杯を掲げるガンバの姿を、モンテディオの選手たちは並んで目に焼き付けた。呼びかけたのは夏場に浦和レッズから加入し、ジュビロとのJ1昇格プレーオフ準決勝で奇跡の決勝ヘッドを決めたGK山岸範宏だった。

「悔しさを絶対に忘れないためにも、みんなで並んで見たかったんです」。

3年目で不動のボランチに成長した宮阪政樹は、「練習は裏切らない」と「フィジテク」でさらに自己を磨くことを決意。松本山雅FCからの移籍オファーに断りを入れた。

敗戦を告げるホイッスルが鳴った瞬間から始まった新たな戦いの幕は短いオフを経た後、来月18日から千葉・館山で行われる1次キャンプにて再び、切って落とされる。

写真と本文は関係ありません

筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。
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