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【政治】

<衆院選を終えて>「次善の策」の選択も 東北大院教授・糠塚康江氏

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 世論調査によると、安倍政権が進める主要な政策の人気は必ずしも芳しくありません。原発の再稼働や集団的自衛権の行使容認、アベノミクスにしても、評価しない有権者が五割を超えます。それでも少なくとも投票所に足を運んだ有権者は自民党を選んだのです。

 自民党は歴史的にどの党よりも地域に深く根を張り有権者との「縁」を培ってきました。政策の是非に関係なく「自民党の候補者だから投票する」という一定の支持者がいます。低投票率ゆえに、コアな支持者を持つ強みが大勝を後押ししたことは疑いありません。

 でも、それだけじゃない。有権者が、投票の労に見合うお値打ち商品を選ぶかのような、消費者の感覚で投票先を決める傾向も、大きく影響したといえます。

 自民党は、消費者としての有権者の目には一番、ましな商品に見えたのです。なぜなら政権を維持することが事前に確実と報じられ、死に票になる見込みが少なかったからです。原発や集団的自衛権など個々の政策には疑問があっても、トータルパッケージとしての自民党を選んだ有権者も多かったのではないですか。

 投票率が戦後最低を更新したことも、有権者の消費者感覚の裏返しだといえます。気に入った商品がないのであれば、売り場である投票所には行かない、という選択肢しかありません。

 でも、投票先を選ぶことは普通の買い物とは異なります。国のあるべき姿を長い目で見て原発や集団的自衛権に疑問を感じるのであれば、たとえ当選する見込みがなくても、次善の策としてそれらに反対する候補者に一票を投じるべきだったのではないでしょうか。

 自民党が多数を占める「一強多弱」の議会では民主主義の前提さえ喪失しています。政権の受け皿になり得ない野党は政権与党を十分にけん制できないからです。ブレーキのない車に乗っているようなものです。

 政治的な立場を問われることを過剰に恐れる雰囲気も日本社会を覆いつつあります。ネットの影響からか、特に若い人は「左翼」というレッテルを貼られるのを怖がっているように思います。憲法の話をするといっただけで左翼と見なされますから、驚きです。

 有権者が長期的な視点で投票先を決められるようになるには、政治の当事者としての意識を持たなければなりません。「物言えば唇さむし」の雰囲気も打ち破らなければなりません。

 選挙の時だけ主権者と呼ばれることに甘んじてはいけません。しょせん代議制ですから、自分にぴったりの政党は「自分党」だけです。自分の生き方を左右する問題を政治家に安易に委ねてはなりません。次こそ自分自身を死守するために一票を投じてください。

  (聞き手・林啓太)

 <ぬかつか・やすえ> 東北大大学院教授。憲法学者。主な研究分野は代表民主制論。著書に「現代代表制と民主主義」など。浜松市出身。60歳。

 

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