12月14日投開票が行われた衆院選で、政権与党である自民・公明両党の獲得議席が公示前勢力より増えたと報じたメディアと、減ったと報じたメディアがあった。どちらが正しいのか、あるいはどちらも正しいのか。食違いの原因を探ってみた。
産経新聞は12月15日未明の号外で「自公圧勝325議席 選挙前勢力上回る」と見出しをつけ、本文で自民・公明が「選挙前の324議席を1上回る325議席を獲得、圧勝した」と報道(冒頭の写真)。朝日新聞も「自民、公明両党は公示前勢力を上回る326議席を獲得し、大勝した」(15日付朝刊)と報じていた。一方、「与党は公示前勢力を下回った」(北海道新聞15日付朝刊)と伝えたところもあった。
12月2日の公示日以降の全国紙、通信社の記事を調べたところ、読売、朝日、産経の3社が自民の公示前勢力を「293」、自公あわせて「324」とカウント。毎日、共同、時事の3社が自民の公示前勢力を「295」、自公あわせて「326」としていた。公明の公示前勢力はいずれも「31」でそろっていた。
自民の公示前勢力は「293」と「295」、どちらが正しいのか。自民党に取材したところ、「295と認識している」とのことだった。衆議院事務局も「伊吹文明議長(自民党出身だが、議長在位中は無所属)を除き、294」との答えだった。
今回の衆院選では、解散まで自民党議員でありながら無所属で立候補した前職が2人いた。福岡1区の井上貴博氏と新開裕司氏だ。前回衆院選では井上氏が自民公認で小選挙区に立候補、新開氏が比例単独で当選。しかし、今回は公認調整がつかないまま、2人とも選挙区に立候補し、井上氏が当選、新開氏は落選した。
この2人を「自民の公示前勢力」にカウントするかどうかでメディアの対応が分かれたようだ。新聞各社に問い合わせたところ、「293」と記載した朝日新聞は、井上氏と新開氏を公示前勢力にカウントしていないと回答。他方、「295」と記載した毎日新聞からは、2人をカウントしているとの回答がきた。
開票後の自民党の獲得議席も、やや混乱があった。当初多くのメディアが「290」と報じていた。しかし、無所属で立候補していた井上氏を、自民党が開票当日の夜になって13日付で追加公認したと発表。メディアによって井上氏を自民の獲得議席に入れるかどうかで分かれ、続報で「291」に修正したところもあった。
選挙報道では、政党の「公示前勢力」が選挙前後でどう変動したかが必ず焦点となる。ところが、「公示前勢力」の定義、解釈は報道各社に委ねられている。解散から公示までの間に党派が変わった場合は、変動後の党派を基準に数えることが多いようだ。一方、前職議員が引退した場合でも、公示前勢力から差し引くことはしない。
今回の選挙では、井上氏と新開氏は無所属で立候補したのだから、自民の公示前勢力にカウントせず「293」としても間違いではない。しかし、もともと2人は自民党議員であり、無所属になったのは選挙区の特殊な事情にすぎない。選挙前後の政党勢力を正しく比較するという目的に照らせば、2人とも公示前勢力にカウントして「295」とし、獲得議席でも井上氏を入れて「291」とした方がよかったのではないか。その場合、自民党は4議席減、公明党は4議席増だから、自公でプラスマイナス0となる。このように報じたのは、全国紙の中では毎日新聞だけだった(15日付朝刊の見出しは「自民微減291議席 自公3分の2維持」)。
今回はもうひとつ、選挙前後の政党勢力を比較するうえで考慮すべき事情があった。定数是正で「5減」になった点だ。公示前の衆院議員は479人(欠員1)、選挙で当選したのは475人。割合で比較すれば「自公勢力は増えた」という解釈になる。そうした立場で報じたのは読売新聞で、「与党の定数に占める議席の割合は、過去最高となった」(15日付朝刊)と伝えていた。
いずれにせよ、「公示前勢力」に統一した定義はなく、メディアによって違いがあることに留意しておきたい。報道各社は恣意的な判断にならないよう、定義、基準をしっかりもっているだろうか。特に今回のように公示日から報道各社で違いが生じている場合は、自社がどういう基準でカウントしたのか、分かりやすく説明してほしいものだ。
(初稿:2014年12月19日 20:26)
(修正:2014年12月20日 01:00)最後の一文で「報道各社で生じている場合は」は「報道各社で違いが生じている場合は」でしたので、修正しました。