(承前)外国特派員協会に会員資格停止で出入り禁止6カ月は僕の年齢ではインパクトが強い。最新の電通社友会報を見ると7月から9月の3カ月で60代後半から70代にかけての同僚後輩が5人も鬼籍に入っている。
時間が短いのだ。死神が踵を接してそこまで来ている。6カ月先など分からない。
「今」を友人たちと付き合える場所を奪われてしまうのが一番身に応える。
取敢えず帝国ホテルの「Century 21」が近くに存在するが、3月に閉鎖が決まっている。
5年前に退会した「学士会館」も、神田までは遠いし交通の便が悪い。
しかし贅沢は言っていられないから再入会の手続きをせねばならない。
協会の前GM、N氏の学歴詐称が東京都労働委員会の審理で明らかになったことに触れる。
N氏は横浜国立大学卒で英国ブライトン大学留学と看板を掲げ色んなセミナーで外人記者クラブや外人記者たちをテーマに講演をしている。
講演はどうでも良いが、N氏はF理事の指示のもと従業員のリストラを強行していた。その幾つかが「不当労働行為」にあたるとUPC(協会労組)は主張する。
例えば組合脱退を勧め脱会届けを出した2人に「奨励金」を出したこと、それをF理事が黙認していたことなどを組合は提訴している。
「不当労働行為」だと認識していないN氏の労働基準法の知識を確かめるためにUPCの代理人S弁護士が、自称している学歴を尋ねたのだ。
横浜国立大もブライトン大学も卒業していないと認めたが、これらの大学を卒業したとは一度も言っていないと主張する。しかし講演の議事録にははっきりと学歴をそのように記している。明らかになったのは「明治薬科大学中退」だった。
N氏は定年退職した今現在でも協会嘱託として録を食んでいる。赤字に苦しむ協会としては何て太っ腹のことだろう。
昨晩(9日)はTOHO日本橋劇場で3D試写上映があった。リドリー・スコット監督が撮ると「出エジプト記」はガラリと変わると言う印象を強く持つ。
モーゼを主人公にした映画を振り返ると1998年にドリームワークスアニメ(DWA)の「プリンス・オブ・エジプト」(The Prince of Egypt)がある。70M(84億円)の制作費、218.6M(262億円)の興行収入を挙げた。制作費をルクープしたまずまずの成績だった。
しかし一番印象に残っているのは1956年の「十戒」(The Ten Commandments)だろう。上映時間232分で4時間近い。70ミリで撮影されて、製作・監督はセシル・B・デミル、これが最後の作品となる。旧約聖書を忠実に映像化したこの作品は世界中で大ヒットをした。
出演はモーゼ役にチャールトン・ヘストン、敵役のラムセスにユル・ブリンナー、アン・バクスターなど。
VFXの発達した今ではどうってことが無いが紅海が二つに割れ、その中をモーゼなどヘブライの民が海の中を進むクライマックスシーンはあまりに有名。ユニバーサルスタジオにバスツアーで割れた紅海を進むアトラクションがある。
この作品はアメリカでは今週末12月12日から公開される。クリスチャン映画は興行界不況のアメリカ市場で、唯一教会や信者に支えられそこそこの成績を挙げているがアメリカ以外には通じない。ただ聖書物は広く世界に知られているから別だ。ラッセル・クロウが主演の「ノア 約束の舟」などは大ヒットには行かなかったが制作費はリク―プ出来た。
先週末から海外10か国で先行上映されているFOX配給のこの映画。カトリック国で注目を集め5日-7日の3日間にメキシコで4.7M、スペインで3.8M、そして驚くことに韓国で6.2M(7.4億円)とリドリー・スコット監督作品としては快調な滑り出しだ。韓国ではカトリック信者は多い。このところBO(興行成績)は昨年比17%減の状況をどうのように打破できるか?
旧約聖書の中で一番有名で皆が知っているのが「出エジプト記」(EXODUS)だ。モーゼに率いられたヘブライの民が「約束の土地・カナーン」に向かう旧約聖書に基いた作品。
ユダヤ人が今でも一番大切にしているのは「過ぎ越しの祭り」(PASSOVER)。ユダヤ暦で祝うので西暦では月日は決まっていないが4月の半ば頃。
信仰心が無いユダヤ人でも必ずこの日は祝い休みをとる。
電通アメリカ時代、従業員の9割が宗教心の無いユダヤ人だったが、PASSOVER日はWASPの白人と日本人がパラパラとしか居なかった。
ラムゼスが奴隷にしたヘブライ人(ユダヤ人)を解放しないのを怒ったモーゼがエジプトの赤子を皆殺しにすると脅す。ヘブライ人の門には羊の血を塗っておくと真夜中に剣を持った天使が降りて来て彼らの家を「過ぎ越して」エジプト人の家に侵入し赤子を皆殺しにしたところエジプト王は渋々奴隷を自由にして出国を許した。
「十戒」というか旧約聖書の出エジプト記を基礎知識にこのR・スコット作品を見るとその差異に驚く。因みにスコットはユダヤ人では無い。キリスト教徒だ。だからユダヤ人の聖典・旧約聖書に拘らないのかと思う。
ヘブライ人の赤ん坊として殺される運命にあったモーゼは、小さな笹舟に乗せられてナイル河を漂う時に王妃トゥーヤ(シガニ―・ウィーバー)に拾われ命を救われた話しはカットしてある。その時にモーゼの姉、ミリアム(インディラ・ヴァルマ)も王妃に拾われ、セティ王(ジョン・タートロ)の王子ラムセスの乳母として王宮で長年仕えている。
紀元前1300年。40万人のヘブライ人(ユダヤ人)の奴隷を400年も使役して最強の王国として隣国を怖れさせていたエジプト王家。
そこに養子として迎えられて育ったモーゼ(クリスチャン・ベイル)は、エジプト王子ラムセス(ジョエル・エドガートン)と兄弟のような固い絆で結ばれていた。セティ王はラムセスよりモーゼを信頼していた。民の心を知り善政をひき戦いに強いモーゼこそ王に資質があると。しかしラムセスが王位を引き継ぐ。部下や民から慕われるモーゼに嫉妬心を燃やすラムセスはヘブライ人を監視するピトム総督、ヘゲップ(ベン・メンデルゾーン)からモーゼのヘブライ人としての出自の秘密を聞き王宮を追放する。
砂漠放浪の途中ヘブライ人の部落で出会ったツィボラ(マリア・バルベルデ)を見染め妻として迎え息子も生まれて平和に暮らす。
それから9年、ラムセスのヘブライ人への圧政は益々酷くなる一方。
ラムセスに交渉してヘブライ人を自由にする約束はいつも反故になる。
そこで神の力を借りて奇跡を起こす。
ナイル川が血に染まる。蛙が大量発生する。アブがエジプト人の家にだけ発生する。疫病が流行る。エジプト人に腫れものが出来る。ラムセス王の右頬に腫れものが発症しているのが見える。雹が降り、イナゴの大群で作物が全滅、そしてエジプトで生まれた赤子は死ぬとの予言が実現しラムセスはヘブライ人たちの解放を認めるのだ。これらの奇跡もフラッシュバックのように短いショットで解説を加えない。
だがやはりクライマックスは紅海を割って渡るヘブライ人の大群、と待ち受けると実にあっけない。
「奇跡」では無く引き潮で浅瀬になって渡れるのだ。追って来たエジプト軍は突如起こった嵐と津波で海底に沈む。
ユダヤの神の奇跡などは無い。総て起こりうる天然自然現象だと映画は語っている。
だから現代の観客でも納得性も信憑性もあって神の御業では無いと。
紅海を渡り終えて砂漠に向かうヘブライの民の後ろ姿で映画は終わる。
だからモーゼの十戒もシナイ山も出て来ないのでやや呆気にとられる。
おまけに「密と乳の溢れる約束の土地・カナーン」に着いたらそこの先住民族とどう折り合いをつけるのかと後継者ヨシュア(アーロン・ポール)に質すのは現在の「パレスチナ問題」を予見しているからだ。
「グラディエーター」「プロメテウス」などの巨匠リドリー・スコット。キリスト教徒の醒めた冷静な目でユダヤ人の伝説の聖典を見ているのに気付く。たしかに旧約聖書をそのままなぞってもセシル・B・デミルを越えられない。しかし昔の「十戒」を偲びたかった僕にはやや違和感を覚える。
役者陣は充実している。子役から育ち「ザ・ファイター」などのオスカー俳優クリスチャン・ベール、「華麗なるギャツビー」「ゼロ・ダーク・サーティ」などのジョエル・エドガートンを筆頭に、シガニー・ウィバー、ジョン・タートロ、ベン・キングスレーなどベテラン俳優をズラリと並べている。
デミルの4時間近い「十戒」に較べればスリムな2時間半。
この手のアクションものはリドリー・スコットの弟トニー・スコットが得意だった。
2年前LAで自死したトニーにエンディングで献辞をしている。
1月30日よりTOHOシネマズ日劇他で公開される。
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