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STAP細胞 再現できず

12月19日 22時35分

稲垣雄也記者

「STAP細胞を再現することはできなかった」
理化学研究所の検証チームは19日に開いた会見の冒頭でこのように述べ、小保方晴子研究員本人が細胞の作製を試みたものの、STAP細胞を作ることはできなかったと正式に明らかにしました。
小保方研究員は今月21日に退職すると公表されましたが、なぜ論文を書いた本人が実験を行っても細胞が出来ないのに、論文が世界的な科学雑誌に掲載されることになったのかなど、多くの疑問が残ったままです。
検証実験はどのように行われたのか。
そして、論文に示されたSTAP細胞はいったい何だったのか。
科学文化部の稲垣雄也記者が解説します。

どんな実験が行われた?

STAP細胞を巡っては、世界的な科学雑誌「ネイチャー」に掲載された論文に、ねつ造と改ざんの不正があったとすでに認定されていて、ことし7月に論文が撤回されています。
この段階ですでに、科学的にはSTAP細胞が存在する根拠はなくなっていますが、小保方研究員は200回以上作製に成功したと話し、その後もSTAP細胞が存在すると主張してきました。

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そのため、小保方研究員本人に実験をしてもらい、STAP細胞が作れるかを確かめたのが今回の実験です。
実験では、論文に書かれたのと同じ方法でSTAP細胞を作ることができるか、2段階に分けて確かめました。
まず、第1段階ではマウスの細胞を弱酸性の溶液に浸して刺激を与え、緑色の蛍光を発する細胞が出来るかどうかを調べました。
そして、出来た緑色の細胞をマウスの受精卵に入れ、全身が緑色に光るようなマウスが生まれるかどうかが第2段階です。
こうしたマウスが生まれれば、緑色の細胞が体のあらゆる組織に変化する、万能性を持つ細胞だと確認できるからです。

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小保方研究員は実験の期限である先月(11月)末まで、48回にわたってマウスの細胞を弱酸性の溶液に浸す実験を繰り返しました。
その結果、緑色に光る細胞はごく僅かに出来たということですが、論文に書かれた緑色の細胞とは別物でした。
ただ単に緑に光っただけで、詳しく調べた結果、万能性を示す蛍光ではないことが分かったからです。
実際、この細胞をマウスの受精卵に入れても、全身の細胞に変化することはありませんでした。
つまり、第1段階、第2段階ともに、実験はうまくいかなかったということです。

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また、小保方研究員とは別に理研のチームがことし4月から行っていた実験でもSTAP細胞は出来ず、来年3月までとしていた期限を待たずに実験を終了することも明らかにされました。
これで理化学研究所が行うSTAP細胞の検証実験はすべて打ち切られることになり、理化学研究所は会見で、「STAP細胞を作ることはできなかった」と結論づけています。 STAP細胞は、今回の実験で事実上、その存在を否定されたのです。
会見では、小保方研究員が退職願いを提出し、理化学研究所が今月21日付けで退職することを認めたことも明らかにされました。
小保方研究員は「今はただ、疲れ切り、このような結果にとどまってしまったことに、たいへん困惑しております。私の未熟さ故に論文発表・撤回に際し、理化学研究所をはじめ、多くのみなさまにご迷惑をおかけしてしまったことの責任を痛感しており、お詫びのことばもありません」などとするコメントを発表しました。

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論文の細胞の正体は・・・

論文を書いた本人が作ることができず、その存在を事実上否定されたSTAP細胞。
ところが論文には、STAP細胞が出来たことを示す膨大なデータが掲載され、弱酸性の溶液に30分ほど細胞を浸すだけで夢のような万能細胞が出来ることが鮮やかに示されています。
万能性を持つ証拠だとされた緑色に光る細胞を覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、これらのデータはいったい何だったのでしょうか。
会見で記者から問われた相澤チームリーダーは、しばらく沈黙したあと「われわれはSTAP細胞の再現実験を請け負っただけなので、その結果再現できなかったとしか話せない。かけ離れたデータが論文に掲載されているのはどういうことによるのか答えることはできない」と述べました。
さらに1人の科学者としての見解を聞かれても「この場では答えを差し控えたい」として、みずからの見解は示しませんでした。

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実は専門家の間では、STAP細胞だと論文で書かれていたものは、実際にはすでに実験の現場で広く使われている万能細胞の1つ「ES細胞」ではないかと指摘が出ていて、それを示唆する実験データも複数出されています。
こうした指摘を受け、理化学研究所はことし9月、新たに外部の専門家による調査委員会を設け、本格的な調査を行っています。
19日の発表によって、STAP細胞の問題は、細胞があるのかどうかという段階から、そもそもなかったものを出来たと論文にして発表したのではないかと疑念が持たれる段階になったと言えます。
論文に書かれた細胞の正体は何なのか、そして、なぜそんな論文が理化学研究所という日本を代表する研究機関から出されたのか、こうした疑念に調査委員会が今後どう答えていくのか注目されます。

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1年近くに及ぶSTAP細胞問題で、日本の科学の信頼は大きく揺らぎ、一部の研究者からは「日本からの論文というだけで信頼性が低いと見られることがある」という声も上がっています。
失った信頼を取り戻すことができるよう、調査委員会にはしっかりとした調査と納得いく説明をしてほしいと思います。


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