──
STAP細胞について、理研の検証実験の報告が出た。
→ STAP現象の検証結果について | 理化学研究所
ここにはいろいろな資料があるが、特に、次のタイトルの実験報告が重要だ。
「STAP現象の検証結果(スライド資料)」 …… ★
さて。これを読めば、今回の報告の結果は一目瞭然だ。
なのに、これを読みもしないで、てんでに勝手なことばかりを言っているのが、マスコミだ。特に、読売新聞がひどい。
《 徹底した不正防止策 必要 》
日本を代表する研究機関の理化学研究所の責任は重い。日本の科学の信頼回復のために徹底した不正防止策が求められる。……科学界が自ら研究不正に厳しい姿勢で取り組むことが求められる。
( → 読売新聞・夕刊 2014-12-19 )
ここでは「不正があった」と認定した上で「不正をなくせ」と主張している。では、今回の報告で、「不正があった」と結論されたのか? いや、そうではない。読売の記事にも、次の文句が含まれている。
今回の不正が意図的なものだったのかの検証も必要だ。
( → 同上 )
ここでは「意図的なものかどうかはわかっていない」(だから検証すべきだ)という趣旨で記している。そのくせ、「不正」という言葉を使って、「不正である」と認定している。
呆れた。「意図的」でないとしたら、「不正」ではないことになる。だったら、「不正だ」と勝手に決めつけるべきではないのだ。こんなこともわからないで、「不正」という言葉を使って、勝手に「不正」と認定する読売は、頭がどうかしているとしか思えない。
マスコミの報道というのは、これほどにもデタラメなものである。理研の報告書を読めばわかることすら、読みもしないで、勝手に自分の思い込みを書くだけだ。
読売はひどいが、読売以外の他社がまともであるわけではない。どこのマスコミも、何も報じていないに等しい。
そこで、私がきちんと解説しておこう。
──
本項の冒頭にも記したように、理研のページに検証実験の結果(★)がある。その PDF を読めば、検証実験の内容はわかる。
結論だけを言えば、「 STAP細胞の存在性は確認されなかった」となるが、「ではどうして STAP細胞がある という論文が書かれたか」という点については何も言葉で示していない。
しかし、言葉では示していなくとも、図表を見ればわかる。特に、次の二点が重要だ。
・ 自家蛍光との区別
・ 多能性マーカーの発現
この二点について、順に論じよう。
(1) 自家蛍光との区別 (小保方)
自家蛍光との区別は、今回の検証実験で、詳しく調べられた。(小保方研究員の実験)
この図を見ればわかるように、緑色の蛍光のほかに、赤色の蛍光もある。このことから、「緑色の蛍光は、GFP の発光でなく、自家蛍光である」と判定されることになる。
※ 理由は、下記で説明した。
→ Oct4-GFP と自家蛍光の区別
つまり、緑色の発光を GFP の発光だと見なした原論文は、誤認だったことになる。
逆に言えば、今回のような検証をしておけば、原論文では誤認が起こらなかったはずなのに、そのような検証をしていなかったせいで、原論文では誤認が起こったのだ、と判明したことになる。(今回の検証実験によって判明した。)
(2) 多能性マーカーの発現 (丹羽)
多能性マーカーの発現は、今回の検証実験で、詳しく調べられた。(丹羽研究員の実験)
この図(グラフ)を見ればわかるように、多能性マーカーの発現は、皆無ではなくて、いくらかは起こっている。ES 細胞における発現を 1 とした場合に、ゼロ近辺になるとは限らず、 0.1 を上回るような、かなり大きめの数値を取ることもある。それでも、ES細胞と同程度というほどには大きな数値にはならないが、だとしても、無視することはできないほどの大きめの数値を取ることがあるとわかる。特に、 Oct3/4 に限っても、かなり大きめの数値を取ることがあるとわかる。
このことは、実は、以前にも指摘されたことだ。本サイトでも解説済みだ。
→ STAP細胞の真相は Oct4 発現の偽陽性
ここで指摘されたように、Oct4 の数値がかなり大きな数値になることがある。実際には多能性は発現していないのに、多能性マーカーは陽性になることがある。これは「偽陽性」という概念で説明できる。
( ※ 比喩的に言うと、ツベルクリン反応や、インフルエンザの検査で、実際には陰性であるのに、検査では陽性になることがある。それと同様だ。)
ここでは、研究に意図的な不正があったのではなくて、実験そのものが「偽陽性」という形で嘘の結果が出ることになる。要するに、試薬が間違った結果を出しているわけだ。で、試薬が間違った結果を出しているときに、「研究者が不正をしているからだ、捏造をしたからだ」というふうに騒いでいるのが、読売のような無知な人々だ。
──
以上のことから、STAP細胞事件の問題点がどこにあったか、判明したことになる。
(1) 赤と緑の対比をしなかったせいで、ただの自家蛍光を見て、多能性があると誤認した。
(2) 多能性マーカーが偽陽性で発光したのを、多能性があると誤認した。
いずれも、誤認である。これらは、高度な知識のある研究者であるならば、避けられただろう。しかしながら、小保方さんは高度な研究者ではない。だから、このようなミスをして、自分で気づかない、ということもあるのだ。
これに対して、「そんな基本的なこともわからないなんて、とんでもない」というふうに批判する人もいる。
実は、私が蛍光顕微鏡観察で一番最初に「注意すべし」と教えられたのは、「死にかけ細胞による自家蛍光」なんですよね。本来なら、こうした細胞観察の最初に教えられるはずの注意事項なんです。(だから、例の論文の査読者からその指摘があったのは当然なんですよ…)
— 片瀬久美子 (@kumikokatase) 2014, 11月 15
これを読むと、「そんな初歩的なことに気づかないのはけしからん」と思うかもしれない。しかしこのことは、決して初歩的ではない。この分野の専門家ですら、気づかないことがある。前出の「Oct4-GFP と自家蛍光の区別」という項目から孫引きしよう。
Jeanne Loring
Yoshiyuki: autofluorescence has a very broad emission spectrum- look in the red channel and see if you see the same signal as in the green.
Yoshiyuki
Jeanne: Thank you for your advise.
Unfortunately, because I can detect Red channel, this signal is autofluorescence. I will retry. Thanks
( → www.ipscell.com )
ここからもわかるように、関由行という一流の研究者(今回の事件では有名になった)でさえ、人に言われるまでは、赤色と緑色の対比という区別の仕方を知らなかったのだ。若手の小保方さんが知らなかったとしても、仕方ない。
どちらかと言えば、このような点に気づくべきだったのは、理研の研究者であった、笹井さんと若山さんだっただろう。しかし彼らにとっても、この分野は専門外(ちょっとずれる領域)だったから、知識がなかったのも仕方がない。
どちらかと言えば、最大の問題点は、Nature の査読者にあった。彼らは「自家蛍光との区別」という点を指摘していたようだが、「赤色と緑色の対比」という点については指摘しなかった。これはおそらく、Nature の査読者もこの方法を知らなかったからだろう。
とすれば、最大の責任者は、ミスを看過した Nature の査読者にあることになる。他の科学雑誌では、「ダメだ」と認定して、論文を拒否したのに、 Nature はまともな査読もしないまま、論文を掲載してしまった。ここに最大の責任があった、と見なせるだろう。
一般に、馬鹿や未熟者がミスをするのは、仕方がない。そのような例は、研究の分野では、山のようにたくさんある。大切なのは、馬鹿や未熟者がミスをしても、それを看過しないように、まともな人々がチェックすることだ。今回は、それができなかった。笹井さんと若山さんもできなかったし、Nature の査読者もできなかった。これらの人々こそ、最大の責任があったと言えるだろう。
順序で言えば、次の順で責任がある。(上位ほど責任が大きい。)
・ Nature の査読者
・ 笹井さん
・ 若山さん
・ 小保方さん
だから、批判するのであれば、この順で批判するべきだ。
一方、「小保方さんが不正や捏造をなした」というふうに主張するのは、それ自体が一種の捏造である。(たとえば、片瀬何とかという人がやったような。)
最初は、自家蛍光をGFPの蛍光だと誤認した事から始まったのだろうと思う。どうして引き返せなかったのか…。
— 片瀬久美子 (@kumikokatase) 2014, 12月 18
この人もようやく、「自家蛍光をGFPの蛍光だと誤認した」と認識したようだ。だったら、そういうふうに認識を改めた、と述べて、「悪意ある捏造だ、シェーンと同様だ」というふうに非難したことについて、謝罪するべきだろう。
しかし、謝罪できない。人は自分のなした過ちを素直に認めたがらない。そういうものなのだ。
小保方さんだけでない。この事件で騒いでいる誰もが、自分の説にこだわって、自分のなした過ちを素直に認めたがらないものなのだ。
( ※ 「そういうおまえはどうなんだ?」という質問への回答は → こちら )
──
ともあれ、今回の騒動は「不正」ではなくて「実験ミス」であると認定される。その後、ただの実験ミスを、一流の研究者や、Nature のような科学雑誌が、看過してしまった。そのことから、大騒動が起こった。
「笹井さんや Nature が間違うはずがない! ゆえに、小保方さんがこれらの人々を意図的にだましたのだ! 捏造したのだ!」
というふうな批判が起こった。しかしこのような批判は、「小保方さんは、笹井さんや Nature を手玉に取るような、超絶的に優秀な知性の持主なのだ」ということを意味するから、それ自体の内に矛盾を含む。かくて、論理的に破綻してしまった。
今回の教訓は、「笹井さんや Nature でさえ、間違うことがあるのだ。ミスを看過することがあるのだ」と理解することだ。そして、そう理解すれば、「今後はミスを看過しないように、チェック体制を整備しよう」と思うはずだ。
ひるがえって、「不正を看過しないように」という読売の提言は、まったく見当違いである。不正を看過しない体制をどれほど整備しようと、ミスを看過しないことにはならない。両者は別のことだからだ。
現実にはミスで生じたものを、「不正があった」というふうに曲解すると、対策からして方向違いになってしまうのだ。怒りのような感情に駆られて、人を非難することばかりに熱中すると、真実を見失ってしまうのである。
そのこともまた、今回の騒動の教訓となるだろう。
──
最後にオマケふうに述べておこう。
今回、小保方さんと理研が検証実験をしたことは、良いことだった。おかげで、上記の (1)(2) のようなことが判明した。つまり、どういう形で実験ミス(誤認)が起こったかが、判明したことになる。
一方、「検証実験をするな」とか、「小保方さんを検証実験から排除せよ」とか、そういう反対論もあった。
→ STAP:分子生物学会の謎
しかし、このようは反対論に従わず、検証実験をしたことは、良かった。今回のような事実を明らかにしたからだ。なお、この点については、下記項目でも論じたことがある。
→ なぜ再現実験が必要か?(STAP)
[ 付記1 ]
読売には、次の記事もある。
神戸市の理研センターのある研究者は……と話す。「今回の問題の一因は、研究全体をコントロールする人がいなかったことにある」
( → 読売新聞 2014-12-19 )
これは的確な指摘だ。本項でも同趣旨の話を述べたことがある。
今回の問題が起こったのは、誰かが意図的に捏造をしたからではない。「研究全体の統括者と、実験の遂行者とが、別々の人物である」ということがあった。そのことから、ミス実験が正常実験だと勘違いされてしまったのだ。
とすれば、すべての根源は、「研究全体の統括者と、実験の遂行者とが、別々の人物である」ということだったのだ。
これは一種のヒューマンエラーである。組織の統括者が誰であるかよくわからないほど無責任な体制だった。かくて、責任の所在がはっきりとしないまま、デタラメがまかり通る。……こういうことは、よくあることだ。
結論としては、STAP細胞の事件は、「船頭多くして舟陸に上がる」という形で理解できる。船頭が一人で統括していれば、何事も起こらなかっただろう。ところが、船頭が二人いて、責任体制もはっきりしないまま、それぞれが勝手な思い込みで、ずさんな行動を取った。そのあげく、舟は陸に上がってしまったのだ。
こうして、今回の事件は、「船頭多くして舟陸に上がる」という形で、本質を理解できる。
( → STAP細胞事件の真犯人 )
[ 付記2 ]
事件の本質については、「ただのミス」ではなくて、「意図的なミス」というふうに理解できる。つまり、こうだ。
冒頭の報告からは、STAP細胞が ES細胞のコンタミではないことを証明する実験が、意図的になされたことがわかる。ただし、その意図を有していたのは、小保方さんではなくて、笹井さんである。
・ 笹井さんが「正解」を勝手に示した。
・ 小保方さんが「正解」に合うようにミス実験をした。
( → STAP細胞事件の真犯人 )
「意図的なミス」という言葉を聞くと、「そんなことはあり得ない」と思うだろう。しかし、意図した人とミスをした人が別々であれば、「意図的なミス」ということは起こりうるのだ。
そして、それをもたらしたのは、「意図した人とミスをした人が別々である」ということ、つまり、「船頭が多い」ということなのだ。
かくて今回の事件では、「船頭多くして舟陸に上がる」という形で、事件が起こってしまった。
この本質を理解するといいだろう。
( ※ すぐ上では、簡単な説明しかしていないので、詳しくはリンク先を読んでほしい。とにかく、ここに本質がある。)
[ 余談 ]
今回の騒動は、何をもたらしたか? ただのドタバタ騒ぎか? いや、あまりにも大きな傷跡を残した。
第1に、理研神戸は、規模を大幅縮小された。人員も予算も、ほぼ半減である。( → 読売・夕刊 2014-12-19 )これによって日本の再生医療の研究は、大幅に後退することになった。
第2に、笹井さんを失った。これ何中の意味で痛手である。一つは、世界最高レベルの研究者を失ったこと。もう一つは、神戸における再生医療の研究のボス(リーダー)を失ったこと。これによって巨大な組織全体が迷走することになった。
今回の騒動がもたらした傷跡は、あまりにも大きく、深い。そして、そういうものをもたらした張本人は、小保方さんではなくて、彼女を非難して騒いだ愚かな人々なのである。彼らは、小保方さんを攻撃するつもりで、日本の再生医療の研究全体を傷つけてしまったのだ。さらには、笹井さんの命を奪ってしまったのだ。……これほどの愚行は、そう滅多に起こるものではない。歴史に残る愚行の記念碑と言える。
これらは正しい実験手順ではないですが、かといって不正な手段でもありません。
むしろ、判明している実験条件内では再現性がえられやすくなるだけで、発明には至りませんね。