以上のような米国の3大紙の主張にはいくつかの特徴がある。
第1は、最近の論議の核心となる慰安婦の強制連行問題に関して、日本側、あるいは米側の一部でも確認された「日本軍による組織的な強制連行の証拠は皆無」という事実を無視して、一方的に強制連行の事実があったかのように断じている点である。この点の独断専行ぶりは滑稽なほどに子供じみている。
第2には、その核心の強制連行について具体的な証拠をなにも提示できない点である。3紙の主張のいずれもが、その最大の論拠のように指摘するのは、「慰安婦だった女性たちの証言」である。だが女性たちの証言には具体性が乏しいだけでなく、日本軍全体としての組織的な強制連行の有無を判断する客観性が皆無である点も無視されている。
第3は、安倍晋三首相への根拠のない非難である。この非難は「誹謗」と呼んでもよい乱暴な次元にまでエスカレートしている。安倍首相が今回の朝日新聞の誤報訂正を実現させたような記述には、論拠は示されていない。安倍首相が戦争の歴史をすべて修正するために各方面に指令を出したかのように記述されているが、事実の裏づけはない。
第4は、3紙の評論のいずれもが「右翼」「ナショナリスト」「修正主義」など意味の不明なレッテル言葉を過剰に使っている点である。こうした用語は非民主主義、反動、軍国主義、ファッショなどという悪辣で負の印象だけを投射する。慰安婦問題での日本への濡れ衣を事実関係の解明で晴らそうと試みる者はすべて「右翼」「国粋主義者」と一括りにされるのだから、かなわない。
第5には、どの評論も朝日新聞の慰安婦報道での大誤報を軽視、あるいは無視している点である。朝日新聞が虚構の吉田清治証言を事実として報じ、長年にわたり、虚構の上に虚構を重ねてきた歴史の重みは一切無視されているのだ。そしてまったく逆に、朝日新聞の慰安婦報道が真実であったかのように提示するのである。
ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズという3紙の主張をこうして眺めてみると、そこに浮き上がるのは限りなく高圧的で傲慢なスタンスである。日本人の思考や思想は自分たちの指示に従うべきだとさえ響く思想警察ふうの態度だとも言える。占領時代の連合軍総司令部のGHQの機能さえ連想させると言っても過言ではない（ただし、こうした態度がいまの米国全体のそれではないことは強く付記しておくべきだろう）。
慰安婦問題に対して米側は当初はあくまで「日本軍の組織的な強制連行」を糾弾し、日本の国家あるいは政府としての戦時行動の犯罪性を追及していた。だが、いまのこの3大紙の主張は証拠や事実を無視して、問題の焦点をずらし、日本側の事実解明の努力を単に「右翼」というような侮蔑的用語でののしっている。
その種の傲慢な攻撃は、日本の民主主義的な手続きで選出されている首相にまで浴びせられる。「一体、何様のつもりなのか」とはまさにこういうケースを指すのだろう。
(JBPRESS 古森 義久 １２月１７日日 )
朝日新聞を謝罪させ、従軍慰安婦記事の誤りを認めさせれば、世界がこの問題で納得すると考えていた保守層にとってこうした報道キャンペーンは予想外の展開であろうが、古森氏の指摘の如く、アメリカには大昔の日本の戦時下における特殊な状況をここまで居丈高に批判する資格など一体あるのだろうか。
そもそもこの米国マスコミによる慰安婦問題記事は、フィクションが多用され、真実が歪められたものであるが、何よりアメリカと言う国自体が建国以来の戦争で相手国に対して謝罪など皆無の国と言うことを彼らは自覚していない。
特にベトナム戦争では、貧困に喘ぐ多くのベトナム女性を騙して重婚を重ねた挙句、戦災混血児をたくさん誕生させてしまったのは他ならぬアメリカではないか（韓国もリーダーであるアメリカに阿諛追従した）。そのうえ彼らに対していまだ国として謝罪も保障もしていない。
もっともアメリカが補償するとしても第二次大戦中の日系人捕虜収容者に対するそれなどは、その非合法で矯激な実態から見れば些細なものだったようだ。
米ロサンゼルス市ハリウッドに近い住宅街の一角にジョージ・タケイ氏の自宅があった。窓から差し込む陽光が優しい。ダイニングのテーブルには日系人の強制収容所があった場所を示す地図が広がる。「今でも鮮明に覚えています」と言い置いて「あの夜」のことを話し始めた。厳しい表情だった。
米南部アーカンソー州の荒野に設置されたローワー日系人収容所。１９４３年２月ごろのことだ。砂交じりのすきま風が入り込むバラックで、タケイ氏は深夜、灯油ランプの小さな明かりの下で小声で言い合う両親の声で目を覚ました。５歳のタケイ氏はただならぬ気配を感じた。「ママ、泣かないで」「いいから寝なさい」。母はそう言い残し、凍える屋外へ父と一緒に「散歩に行く」と出かけた。しばらくして帰ってきた母の目は泣きはらして真っ赤だった。
「今思えば、母が忠誠質問に『ノー』と答える決断をした時でした」。父は、自由を奪われた収容所の中で、米国籍取得が許されない１世にまで「米国への忠誠」を迫る質問自体に憤慨していた。米国生まれで米国籍を持つ２世の母は、家族が離れ離れにならないよう、父と同じ回答を選んだのだという。
父はロスで不動産業を営んでいたが、４１年１２月７日（米国時間）の日本軍による真珠湾攻撃で一家の生活は暗転した。翌年２月の大統領令で全日系人の強制隔離が決まり、タケイ氏一家はロスから東へ２８００キロ離れたローワー収容所に追い立てられた。そして、４３年夏、今度は西部カリフォルニア州のツールレーク収容所に移された。
全米１０カ所に開設された収容所に強制移住させられたのは西海岸に住む日系人約１２万人にのぼる。忠誠質問で回答を拒否したり、核心的な２問（米軍への奉仕と、米国への忠誠）について１問でもノーと答えたりした日系人とその家族は約１万２０００人。彼らは「不忠誠組」と呼ばれ、１０００人の武装警察が配備されたツールレークに集められた。
収容所には刑務所が併設され、反発する収容者は法的手続きもなく監獄に入れられ、暴力的な尋問が横行した。暴動が起き、２カ月にわたり装甲車が巡回したこともある。「最も過酷な収容所」と呼ばれるゆえんだ。
タケイ氏は「収容所はカオス（混乱）だった」と思い起こす。「知人の日系人が刑務所に連行されそうだと、父が私を連れて抗議デモに行ったことがありました。そうしたら、米兵に銃を向けられてね。父と手を握って逃げました」
一方で、ツールレークでは日本語や教育勅語などの日本式教育が認められた。「不忠誠＝親日」という構図をつくり出し、日本送還への流れをつくる米戦時転住局（ＷＲＡ）の戦略だった。提案したのは、真珠湾攻撃後に１世リーダーが大量逮捕された後、日系社会をまとめていた２世が主導する「日系米国人市民協会」（ＪＡＣＬ）の事務局長、マイク・マサオカ氏（１９１５〜９１年）だった。
マサオカ氏は、日系人だけで編成する戦闘部隊を創設して忠誠を示す機会をつくるよう提案する一方、収容所の安全を脅かす「トラブルメーカー」として「不忠誠組」の隔離をＷＲＡに進言した。また、日本の学校で教育を受けた後に米国に戻った「帰米」と呼ばれた２世を「親日派」に分類し、要注意人物リストをＷＲＡに報告していた。ＪＡＣＬは次第に影響力を持つようになり、同時に「忠誠組」と「不忠誠組」の亀裂は深まった。
日系社会の枠を超えた議論。タケイ氏にとってもそれが舞台の狙いだ。「忠誠質問は米国史の恥部なのです。日系人同士が小さなレベルで論じても何も変わらないでしょう」。力がこもり、声色が変わった。「米憲法が踏みにじられた。米国で起きた米国の歴史なんです」
８４年に放送されたＮＨＫ大河ドラマ「山河燃ゆ」。昨年９月に８８歳で死去した作家、山崎豊子氏の「二つの祖国」が原作で、戦時中の日系人社会の苦悩がテーマだ。忠誠質問に疑問を抱きながらも米陸軍情報部に入った帰米２世が主人公。弟２人のうち１人は日本軍、もう１人は米軍と敵味方に分かれ、両親は忠誠を拒否してツールレークへ……。
米国での放送が計画されたが、ＪＡＣＬは帰米２世の主人公像に反発し、「日系人の間に誤ったナショナリズムを巻き起こし、反米感情をあおりかねない」と、放送中止を求めた。当時、会長だった日系３世、フロイド・シモムラ氏は来日して会見まで開き「日系米国人に二つの祖国はない。日本への忠誠や義理はない」と日系米国人の「葛藤」を全面否定した。結局、「山河燃ゆ」がこの時期、米国で放送されることはなかった。
あれから３０年−−。「５年後だったら対応は違っただろう」。今もＪＡＣＬ幹部として日系人の人権問題に取り組むシモムラ氏は、放送反対キャンペーンは、当時の特別な事情の中で選んだ戦術だったと明らかにした。
その時期、強制収容所に追いやられた日系米国人への補償の動きが加速し、ドラマが放送された８４年は議会で議論が本格化しつつあった。運動の中心となったＪＡＣＬは米国のために戦った４４２連隊など日系人部隊の功績を前面に出し、米市民としての権利に焦点を当てようとしていた。「二つの祖国」の間で日系人が葛藤したという設定は、日系人の退役軍人団体の反発を招きかねず、日系社会を分裂させる火種になる可能性があった。元収容者に１人２万ドル（約２４０万円）を支払う米政府の補償法が成立したのは８８年。「時期が悪かった。ドラマが補償運動の障害になるかもしれないと思ったんだ」。シモムラ氏はそう振り返った。
ドラマの封印は、忠誠質問を巡る人権侵害を訴える機会も奪う結果となった。ツールレークの元収容者は７４年から定期的に慰霊祭を開いているが、「個人的な経験や心情に踏み込んで語り合うようになったのは、補償の支払いが実際に始まった９０年代になってからだと思います」（実行委員会メンバー）という。
米西部オレゴン州境から南東へ１６０キロ離れたツールレークの湖を目指した。日差しがまぶしかった。車を走らせると、ハイウエーの両側に荒涼とした砂漠が数分続き、ところどころ金網に囲まれたツールレーク収容所の跡地が見えた。雑草の生えた砂地を数百メートル進むと、倉庫のようなコンクリート製の建物が現れた。裁判手続きもなく数百人が連行されたと言われる刑務所だったところだ。
「刑務所では同じ収容所内にいる家族にも会うことができませんでした。ここに入るときは男女関係なく素っ裸にされ、乱暴な取り調べを受けました。つらいなんてもんじゃなかったです」
日系２世のジミー・ヤマイチ氏は刑務所の実態をそう語った。徴兵を拒否したことから、収容所が閉鎖される直前の４６年２月までの約２年間、刑務所に入れられた。今では収容所跡地の復元保存計画に力を注ぎ、「ミスター・ツールレーク」と呼ばれる。そんな彼ですら、刑務所にいた事実を公表したのは９６年になってからだった。
ヤマイチ氏は補償が始まった９１年から自分の裁判記録を探し始めた。徴兵忌避罪で拘束された後、４４年７月に裁判所で審問を受けた後も刑務所暮らしは続き、法的にどう扱われていたのか当時理解できなかった。裁判所決定は「徴兵は、自由な米国人のみに与えられる権利と義務」であり、監禁状態に置かれた収容所の徴兵拒否者は不起訴、となっていた。
「関係資料を見つけて、はっきり自分の主張を言えると思いました。米国人としての自由が奪われた状況で、米軍でまともに扱われるはずがないと訴えた主張は、裁判所で認められていたのです」
ツールレーク元収容者約４００人がほぼ２年に１回収容所跡地を参拝する３泊４日の合宿で、ヤマイチ氏は毎回、刑務所を案内するようになった。８０年代の補償運動の時には抜け落ちていたツールレークの実態調査が、収容経験者が体験を語り合うという形で始まった。
ツールレーク合宿では、収容所跡地で慰霊祭を営んだ後、毎晩遅くまで参加者が体験を語り合う。今年７月４日の独立記念日前後の連休、私も参加した。元収容者が戦争を知らない世代の若者を前に、なぜ忠誠質問でノーと答えたかを語る「世代間討論会」では、数十人が輪になって座り、語り合っていた。
「ノーと答えた兄のせいでツールレークに入れられ、子供のころは兄を恨んでいた。今は人権侵害に憤った抵抗者として認めてあげたい」と心境変化を語る２世の８３歳男性。「祖父母は何も言わずに他界したので、初めて何があったか学んだ。語ってくれてありがとう」と感謝の言葉を繰り返し、泣き出す女子高校生。「写真は許可なく撮らないで」「発言者の名前は報道しないで」。主催者の厳しい注文に、ツールレーク体験を話すのが重い告白だという緊張感が伝わってきた。
取材を進める中で、「二つの祖国」に引き裂かれた家族が２００８年、このツールレーク合宿で和解を遂げていたことを知った。日系３世のベッツィ・ハセガワ氏の家族だ。
父ハリー氏（１０年に９０歳で死去）は、真珠湾攻撃前に米軍入りし、のちに日系人部隊に移った。一方、ハリー氏の両親と弟３人は忠誠質問で「ノー」と回答し、ツールレーク収容所に入れられた。４４年７月に米国籍放棄の申請が始まると、弟は国籍放棄を申請し、両親とともに日本に渡る手続きを始めた。ハリー氏は思いとどまるよう説得したが、母に「長男なのだから、米軍を除隊して日本に来なさい」といわれケンカになり、互いに「親子の縁を切る」と言って別れた。戦後ほどなく、両親らは日本に旅立った。オサム氏は６０年代に米国籍を回復して米国に戻ったが、親族会で会ってもプライベートな会話はほとんどなかった。
ベッツィ氏はオサム氏がツールレーク元収容者と知り、２人を討論会に招いた。他人のように離れた席でぎこちなく座り、体験談を語る順番を待つ父と叔父を見守った。
先に順番が回ってきたのはオサム氏だった。「米軍にいる兄を残して一家で日本に帰ったことを今でも申し訳なく思っている。母も後悔して日本行きを取り消そうとしたが、手続きが間に合わなかった。我が家の暗い秘密だ」。最後は涙で言葉にならなかった。
ハリー氏は、オサム氏が離れても自分を思っていてくれたことを初めて知った。「ツールレークが特別に過酷な所だと知らなかった。国籍放棄に追い込まれた弟たちの苦労を理解できず、本当に申し訳ない」。ハリー氏も心を開いてわびた。引き裂かれていた日系人家族が６０年余の歳月を経て和解した瞬間だった。
ハリー氏は娘のベッツィ氏に「弟のことは忘れたつもりだった。でも本当は気にしていたんだ。和解できた後、それが分かった」と話したという。
「間違った質問に正しい答えはない。過酷な条件で選択を迫られ、イエスを選んだ人もノーを選んだ人も傷ついた」。和解を見守ったベッツィ氏は今、戦争を知らない世代にそう伝えたいと語る。
私が参加した合宿の討論会で参加者が何度も口にしていた「痛みを語ってくれてありがとう」という言葉の意味が、ハセガワ家の取材を通じて心に染みた。私もベッツィ氏に同じ言葉を繰り返していた。「経験を共有してくれてありがとう」
（毎日新聞 １２月１７日）
こうしたアメリカ日系人の艱難辛苦を後世に述べ伝えつつ、日本を攻撃するアメリカのフィクション慰安婦問題や危険な感情論だけの反捕鯨行動に対する対米外交カードとして用いていくことが今後重要ではないだろうか。それ戦略的互恵主義である。
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