コラム

記者の目:米国から見たWBC=小坂大

801日前

 労組日本プロ野球選手会の不参加決議に端を発した来年3月の野球の国・地域別対抗戦、第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のあり方を米国側から取材した。日本の動向について米メディアの関心は極めて乏しく、大会そのものもほとんど事前報道はない。しかし、主催するWBCI(米大リーグ機構=MLB=とMLB選手会による運営会社)からは、大会を改善しながら発展させていこうという意思は伝わってきた。

 WBCIが大会の意義として強調したのは、国際野球連盟(IBAF)が昨年末にWBCを「世界一決定戦」と公認したことだ。06年の第1回大会からWBCIが参加国・地域を招待する形態は変わらない。しかし、08年北京大会を最後に野球が五輪競技から除外された今、WBCが世界の頂点を争う場として公認を得たことは、大会の格が上がったことを意味する。

◇「収益の大部分は国際普及に投資」

 IBAFが公認した理由にはWBCの拡大がある。第3回大会も決勝こそ引き続き米国で行われるが、従来すべて米国が会場だった第2ラウンドは分散して、半分を日本で開催することになった。批判の多かった米国の集中開催に対する配慮だ。また、参加国・地域も従来の16チームから28チームに増え、予選も実施した。これにより前回の09年第2回大会は不参加だったドイツ、ニュージーランド、イスラエルなどが予選に出場し、北米や日本、韓国、台湾といったアジアに偏った出場国・地域が世界各地に広がった。MLBの国際担当責任者でWBCIのポール・アーチー社長は毎日新聞の取材に、具体的な数字は示さなかったものの「WBCを開催した第一目的は国際的な普及を図ることだった。大会の収益の大部分は普及に投資した」と成果を強調した。

 もちろん、1930年に第1回大会が開かれ、最高峰として確立されている国際サッカー連盟(FIFA)主催のワールドカップ(W杯)には、遠く及ばない。それでも、五輪競技から除外された際、野球の致命的な欠陥の一つと指摘されていた世界的な普及を、WBCの収益を投資して緩やかながらも前進させている点は評価していいと思う。

 日本の選手会が不参加を決議した際、提起した問題に大会の収益配分率があった。WBCIが66%を得ているのに日本が13%は不公平だというわけだ。過去2大会で連覇を達成して、スポンサーの7割が日本企業という貢献度を踏まえれば、感情は理解できる。しかし、旅費や保険の負担など主催者の配分率が高いのは他競技の国際大会でも一般的だ。まして国際的な普及という大義名分がある以上は、アーチー社長が「極めて公正なモデル」と話したことの方に分があった。

 ただ、あらゆる競技において国際的な発信力が決して高くはない日本のスポーツ界で、選手会が声を上げた意義は大きい。日本代表「侍ジャパン」のスポンサー権の確認はその果実だった。北米大陸を除けば、野球が国民的に普及したのは日本や韓国などアジアの一部でしかない。とりわけ日本はWBCのみならず米大リーグにおいても存在感は顕著で、将来像について主導的に語れる立場にいる。

 次回に向けて日本がやるべきことは、委員の資格があるWBCI内で発言して積極的に公開していくことだ。アーチー社長はWBCの将来の課題を「第4回大会を実現すること」と慎重な言い回しをしている。裏を返せば、まだ安定して開催を続ける状況になく、アーチー社長も「改善すべきことは取り組む」と認めている。将来のあり方を描くうえで、日本の積極的な取り組みが求められている。

◇国際野球連盟が積極的に関与を

 せっかく芽生えてきた「世界一決定戦」を続けるために、私はサッカーW杯のモデルを目指すべきだと考えている。WBCIを統括団体のIBAFに発展的に合流させてノウハウと人材を生かしていく。出場する各国・地域、団体が役員を選出して話し合いで大会運営を決めていけば、絶対かつ巨大とはいえ、MLBという一つのリーグが設立した運営会社が取り仕切るより、はるかに公平になる。

 IBAFのフラッカリ会長も毎日新聞の取材に「野球のすべての団体を傘下にして、国際連盟が重要な役割を果たすことが新しい務めと思う」と認識している。米国内では、野球は子どもの競技人口の減少で将来的に危機に直面するとの指摘も出ている。MLBが普及を真剣に考えるのなら、現実的には難問も多いが、それぐらいの度量があっていい。

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