複数の原発が同時に事故を起こせば、国の存続さえ揺るがしかねない。

 福島第一原発事故で直面した現実である。ところが、電力会社も原子力規制委員会も、同時多発事故のリスクをあえて直視していないように見える。

 関西電力高浜原発(福井県)の3、4号機について、規制委が新規制基準に適合するとの審査書案をまとめた。事実上、九州電力川内(せんだい)原発に次いで、再稼働に向けた最初の大きなハードルを越えたことになる。

 だが、川内原発とは違い、高浜原発の近隣には多くの原発がある。

 高浜原発には今回の3、4号機のほかに1、2号機があり、計4基の原子炉がある。直線距離で約15キロ離れた関電大飯原発の4基と合わせると、計8基になる。約50キロ離れた関電美浜原発の3基、日本原子力発電の敦賀原発2基まで含めると、13基にものぼる。

 この中で廃炉が決まった原発はない。関電は大飯原発3、4号機の審査を申請しており、高浜原発1、2号機についても申請する構えを見せている。

 田中俊一規制委委員長は「集中立地は検討課題で、新設の際には十分考慮されるべきかも知れない」という。だが、既存原発に対する現在の審査は、原子炉ごとに別々に事故対応できるかにとどまっている。高浜原発3、4号機と大飯原発3、4号機のリスクを総合的に見ることはしていない。

 現在の審査のままなら、個別に対応できる限り既存原子炉は何基再稼働してもいいことになる。従って、原発の集中再稼働がなし崩し的に進みかねない。

 規制委自ら認めるように、新規制基準に適合しても事故リスクはゼロではない。

 大地震などで、狭い地域で多数の原子炉が同時に事故を起こした場合、他の原発からの放射性物質飛散が事故対応に影響を及ぼし、制御は著しく困難になる。単独事故とはまるで異なる対応に迫られるはずだ。本社や社会の能力も問われよう。

 日本ほど原発が集中立地している国は世界でもほとんど例がない。ならば、集中立地していることを踏まえて審査すべきだろう。狭い地域へのリスク集積がどこまで許されるのか、議論する。動かすというのなら、納得いく説明がほしい。

 集中立地のリスクをどう考えるのか。

 電力会社や規制委にゆだねるには重すぎるテーマだと言うのなら、政府全体で正面から議論すべきである。