シェールガス革命に挑む エネルギー・ポートフォリオの多様化に向けて
21世紀に入って脚光を浴びた、新たな天然ガス資源「シェールガス」。在来型天然ガスを凌駕する埋蔵量を持つ資源として注目されていますが、シェールガスが「革命」と呼ばれるほどの衝撃を与えたのは、埋蔵量や経済的効果だけではありません。生産対象となる地層や採掘技術が在来型天然ガスや石油と大きく異なるシェールガスは、世界のエネルギー安全保障の枠組みを塗り替える可能性を秘めているとされ、既にその変化は国際政治や世界市場のさまざまな局面で顕在化しつつあります。
米国の天然ガスは、長らく安価かつ安定的に供給されてきましたが、1970年代後半に生産が伸び悩んだことで価格が高騰しました。ここで当時の政権が消費者保護政策の一環として発電向け利用に対し10年間の使用中止措置をとったため、価格は逆に低迷し、90年代まで続くことになりました。ところがその反動で2000年を境に価格が再び高騰。政府はエネルギー安全保障の一環として海外からのLNG受入基地を奨励することになりました。
一方、同時期にテキサス州のダラス・フォートワース地区で進められてきたシェールガス開発は当初現実的なものとは見られていませんでしたが、技術革新に伴い事業性の確度が徐々に高まると、この事実に気が付いたDevon社が2002年にこれを買収し、今日の本格開発へとつながっていきました。
地球上の限られた地域で産出される石油や在来型天然ガスと違い、シェールガスは根源岩としての性格上、在来型資源を含む広範囲に埋蔵されています。米国やカナダには、自国消費を補って余りある量が眠り、その量は3,800兆立方フィートといわれています。
シェールガスは在来型天然ガスと比べて高度な採掘技術が必要ですが、コスト的には在来型天然ガスに比肩するレベルになりつつあります。2009年時点でシェールガスを含む米国の非在来型天然ガスの産出量は在来型を既に超え、ロシアを抜いて世界一の天然ガス生産国(20.5兆立方フィート)になりました。
三菱商事は2010年9月にカナダのペン・ウェスト・エナジー・トラストのコルドバ堆積盆地(ブリティッシュ・コロンビア州)におけるシェールガス採掘プロジェクトに対し、360億円を投資して50%の権益を獲得しました。良質なガスの安定供給に資するため、高い出資比率で長期にかかわり、将来的にはオペレーターになることも視野に、知見を獲得することを目指しています。
シェールガスの開発は米国主導で進んでいますが、カナダ領内にはさらに良質で膨大な埋蔵量が眠っています。20~30年という長期的視点でプロジェクトに臨むべく、オペレーターとしての知見や実績を持つペン・ウェスト・エナジー・トラストと合弁事業に取り組むことで合意しました。今回の鉱区は北極圏に近く、ほとんど人が住んでいない地域です。もともと周囲には在来型資源の採掘施設があるため、道路やパイプラインの敷設がそのまま活用できるメリットもあります。
当面の供給先は、カナダ国内を中心にNAFTA圏内に限られる見通しですが、クリーンなエネルギー源である天然ガスへの依存度の高い日本にとっても、海を挟んだ「隣国」であり、政治的にも安定しているカナダが供給源となればその重要性は計り知れません。
シェールガス開発は技術的にチャレンジングなプロジェクトですが、未知の分野に先んじて挑戦していくことが、総合商社としての三菱商事の使命であり、日本の将来に貢献する道だと考えています。
エネルギーの長期安定確保のためには、さまざまな資源をうまく組み合わせ、流動する世界情勢の変化に即応して常に一歩先を読む必要があります。今後ますます重要視されるであろうエネルギー安全保障と、それを実現するために不可欠なエネルギー・ポートフォリオの多様化。シェールガスもまた、そのための重要な選択肢の一つとなります。
カナダのシェールガス・ビジネスへの参入は3つの意味があります。まずは将来的な天然ガス資源の安定確保。次に世界のエネルギー市場の中心である北米(カナダ・米国)で、上流権益の獲得やガスの販売を通じて、グローバルな競争力を獲得すること。そして最後が北米市場で得た知見やビジネスモデルをグローバル展開すること。もちろん、北米のビジネスモデルが他地域でうまくいくとは限りませんが、総合商社だからこそできること、国際石油メジャーや産ガス国ができなかったことを実現するチャンスがあると考えています。
制作協力: 日経ビジネスオンライン SPECIAL/株式会社クロスアーキテクツ