介護保険サービスの対価として事業者に支払われる介護報酬が来年4月に見直される。3年に1度の改定で、政府は来年度予算編成作業の中で引き下げる方向で調整している。しかし、高齢化が進む一方で、介護職員の人手不足は深刻だ。職員を増やすためには賃金の引き上げが急務になっている。賃上げしながら総額を減らせば、サービスが低下しかねない。このまま引き下げていいだろうか。

 介護報酬は、税と保険料で9割、利用者負担1割でまかなわれている。今年度の総額は10兆円。制度を導入した2000年度に比べると3倍近い水準に達している。引き下げは、急増する介護報酬の抑制が狙いだ。

 しかし、介護報酬は、介護職員の賃金の原資でもある。現在、介護職員の平均賃金は月額22万円弱と全産業平均より10万円安く、賃金水準の低さが職員が離職する要因となっている。

 団塊世代が75歳以上になる2025年には介護職員を今より100万人増やす必要がある、との推計もあり、その意味でも賃上げを迫られている。

 介護サービスでは、人手の多寡がサービスの質に直結するため、総人件費を抑制しようと人を減らせば済むわけでもない。

 社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームには、1施設平均3億円の内部留保がある(財務省資料)。この内部留保をはき出して人件費に充てれば、賃上げとサービスの質の維持との両立ができる、というのが介護報酬引き下げの論拠となっている。厚労省はすでに、建て替え資金などを除いた内部留保は、すべて処遇改善と地域の公益活動にあてることを義務づける法改正も準備している。

 しかし、3億円はあくまで平均値だ。小規模だったり、内部留保が薄かったりする事業者には両立は困難だ。

 実際、事業者からは「人減らしにつながり、丁寧なケアが出来なくなるのではないか」「新たに人を雇う元手が減ったら、人手不足が解消されない」といった声が上がっている。

 政府は、一定の条件を満たした事業者には、報酬上乗せを厚くして、職員の処遇改善を図ろうとしている。改善策は必要でも、引き下げに伴うマイナスを打ち消すのに十分なのか。

 日本の家庭全体に目を向ければ、介護を理由に仕事を離れる人が年間10万人に達している。介護保険の外で生じているコストである。事業者の経営努力は当然としても、政府には日本の介護全体を見渡した政策判断が求められる。