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■■■ ワタミフード退職金廃止
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━━━━━━━━━━━━━━ 日本経済新聞 2000.3.26【7面】━
◆首都圏を中心に居酒屋「和民」などを展開するワタミフードサー
ビスは3月末で退職金制度を廃止する。廃止後も従業員の給与体系
は変えない。
◆退職金がなくなる分、社員には不利になるが「現在5社ある子会
社を向こう10年で50社に増やし、その社長などになってもらう
ことで十分、処遇できる」(渡辺美樹社長)と判断した。
◆スミダ電機などがすでに退職金の廃止を表明しているが、退職金
分を加算して前払いするか、年俸制に移行する例が多い。廃止後も
給与体系を変えないケースは珍しい。
◆同社には労働組合がないが、380人程度の従業員に説明し、合
意を得たという。退職金のための積立金総額7千万円は勤続3年以
上の従業員120人程度に3月末に分配する。退職金の積み立てに
回していた資金は今後、労災補償などの福利厚生費用の積み増しな
どに充てる。
◆今後は傘下の子会社を増やし、ワタミフードグループを拡大する
方針。子会社間の転籍や、社員によるフランチャイズ店の独立を支
援するうえで「現在の退職金制度がなじまなくなった」(渡辺氏)
と説明している。
◆99年3月末時点の平均勤続年数が約2.6年と若い企業である
ため、退職金を手にするのはかなり先。現役中に稼げるだけ稼いで
ほしいというのが同社の考えのようだ。
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 経営戦略考コメント ━
●雇用形態が変化し、旧来の制度になじまなくなったということだ
ろう。子会社間での転籍が頻繁になれば、いちいち退職金を支払う
というのもおかしいし、フランチャイズ店の独立を支援する制度が
ありながら、一方で退社・独立の抑止力とも言える退職金制度を温
存するのもおかしい。
●退職金制度は永年勤続をさせるためのインセンティブでもあり、
社員の定年後の生活を支える機能をも持つ。しかし、急成長企業や
ベンチャー企業に入社しようという就職希望者は、企業内で出世し、
ストックオプションの権利を取得することなどを狙っているだろう。
十分な高給と株式売却益があれば、定年後の生活は問題にならない。
入社前から退職金の心配をする就職希望者など、企業の方から願い
下げだ。
●裁判の判例などでは、退職金は給与の一部として労働者に支給が
約束されているものだとしている。そのため、退職金分を通常の給
与に上乗せして支給する企業も現われ始めている。しかしワタミは
退職金という考え方そのものを廃し、今までの積立金は社員に還元
するとしている。
●人間の欲望はきりがないから、給与は多ければ多いほど良い。退
職金制度があると、得した気分にもなるが、大切なのは総額だ。退
職金制度があっても通常の給与水準が低ければ、さほど魅力はない。
退職金制度や福利厚生などの差が気になるのは、給与水準に企業間
格差がほとんどない場合だけだ。
●全国各地に保養所があるなど、福利厚生施設が充実していること
を自慢する企業もある。自費で十分にぜいたくな宿泊旅行ができる
だけの給与を支払っていることこそ、本来、自慢すべきことだろう。
退職金制度にしてもそうだ。退職金を当てにしなければ老後の生活
が不安だということ自体、処遇がお粗末だとも言えるのだ。
●ワタミは社員に子会社などの社長になってもらうことで、退職金
に替わる処遇をしようとしている。定年まで無事勤め上げ、退職金
をもらうという雇用スタイルではない。かと言って、すべての社員
に子会社社長のポストが約束されているわけでもない。要は社員の
実力次第だ。見事、子会社の社長、あるいはそれ以上のポストに上
り詰め、実績を上げれば、十分以上の処遇がされるだろうし、そう
でなければ退職金ももらえずに会社を去ることになる。
●ワタミのサイトの採用に関するページには、「あなた自身の夢や
目標の実現に向けて、その能力を、その人間性を高めていこうと思
うなら、ワタミは最高の会社です。」と明記してある。退職金廃止
も含め、それが同社の人材処遇に関する考え方であり、それに魅力
を感じ、チャレンジする意欲と能力のある人間に入社して欲しいと
考えているのだ。
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■■■ 今日の教訓 ■■■
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あなたの会社は本当に実力のある人間にとって魅力のある処遇をし
ているだろうか。成果を上げても上げなくても、低レベルで格差が
つかない処遇をしていないだろうか。
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