14日、第47回衆議院選挙が投開票された。その結果、自民・公明両党が公示前を上回る326議席を獲得。それとは対照的に、民主党は海江田代表が落選、73議席にとどまった。
大勢が判明した深夜、ジャーナリストと上杉隆と著述家の古谷経衡がTOKYO FMの特別番組に出演。福島や沖縄の街の声を聞きながら、今回の選挙について独自の視点で振り返った。
上杉隆 ―ジャーナリスト― (以下 上杉)
古谷経衡 ―著述家― (以下 古谷)
今井広海 ―番組アナウンサー― (以下 今井)
@ TOKYO FM「TIME LINE」 (2014/12/15)
今井:
この選挙を経て、来年やその先、私たちはどのような視点を持って日本という国で生きていけば良いのでしょうか? ここで、「若者は本当に右傾化しているのか」 「欲望のすすめ」 などの著書があります、著述家の古谷経衡さんにスタジオにお越しいただきました。古谷さん、よろしくお願いします。
古谷:
はい。よろしくお願いします。
上杉:
お願いします。選挙結果がだいぶ出てきたんですが、古谷さんが考える今回の選挙そして選挙結果の意味・意義はどんなものでしょうか?
古谷:
この番組のテーマが「”ありのまま”で良いのか」ということですけれども、多くの日本人が”ありのまま”ではいけないと思っているとは思うんですが、この選挙の結果を見る限りにおいては、結論を言うと、”ありのまま”を選択せざるを得なかったんじゃないかなっていうような意味があると思いますね。
”ありのまま”を選択せざるを得なかった
上杉:
実際にそういう選挙結果ではありますよね。先ほど、”ありのまま”である側の安倍政権の幹部である稲田政調会長に話を伺ったんですが 。今回、そうは言いながらも、争点というものがなかなかはっきりしなかった。安倍政権が抱える憲法とか北朝鮮とか靖国とかに全然触れなかったですね、消したんですか、と伺ったんですよ。古谷さんからすると、今回の争点はどの辺りにあったと思いますか?
古谷:
いま上杉さんがおっしゃった通り、争点が希薄化していて、安倍政権はいわゆる清和会的なタカ派路線を封じているのかなという視点が私にはあったんですけれども。
もともと4年間の任期があった中でその半分で解散総選挙になってしまったわけで、有権者からすれば最低でもあと1年半ぐらいはやっていただかないと判断のしようがないじゃないかっていうのがあったので、争点と有権者にズレがあったのかっていう話ですけど、そもそもゼロだったんじゃないかなっていう。無風というか、争点すらできなかったんじゃないかなっていう気がしますね。
そもそも争点はゼロで無風だった
今井:
その辺りなんですが、各地の街でそれぞれの争点であったり安倍総理に言いたいことなどを聞いてきました。まずは東京の声です。「今の日本、”ありのまま”で良いんですか?」
男性:
“このまま”っていうのは、結局、僕たちが生まれた頃からずっと不況で、そのままで良いかって言われたらそうじゃなくて、上向いている時の日本っていうのも体感してみたいですし、上り調子の日本になっていくべきだと思います。
女性:
やっぱり戦争とかそういうほうに走らないようにしていただきたいですね。いま安倍総理がやろうとしていることは、ちょっと私は納得いっていないと言うか。強硬的に色々な政策を進めていらっしゃる。
男性:
景気が良くなって、株価とかも上がって、良くなっているのかなっていうところはあるんですけども、それで手取り額も変わんないんで、生活面で見て良くなったかっていうのと特に変わらないですけど。
男性:
明るい見通しはあるのかなっていうふうには思うんですよね。ただ一方で、それっていうのは長く続いてきた不況が終わりを迎えて、強いリーダーシップを持った人が現れてこういう状況を変えるっていうのを望んでいて、今その通りになったから、暫定的にちょっと明るい兆しが見えてるだけかなっていう気がしていて。
上杉:
今、街の声を聞いていただいたんですが。やはり若い世代、20代の方は経済のことを言っているですが、気になったのは「戦争には走らないでほしい」という60代の女性の方のコメントでした。まさに安倍政権を象徴するような世代間のズレなんですが、古谷さん、どんな感想でしょうか?
古谷:
まさに上杉さんが仰ったように、「戦争に走らないでほしい」っていう女性の声がありましたけれども、でも、安倍政権のタカ派路線を警戒しつつも、「でも消極的に」という感じで今回与党に入れた人は多いと思うんですよ。
その理由というのは非常に重要で、自民党より右を謳って登場してきた次世代の党がありますけれども、今回その存在によって相対的に安倍さんのタカ派色がかなり薄まって見えたんじゃないかと思うんですね。そのせいで、本来であればかなり右なんですが、中道保守ぐらい、穏健な保守だよというふうに相対的に見えた可能性は非常に強いと思います。
上杉:
なるほど。まさに次世代の党、そして維新にも中には自民党よりもグッと右に寄った人たちがいて、そういう意味では、これまで安倍政権に持っていた極端な印象が少し中和された、と。
次世代の党の存在によって自民党のタカ派色が薄まって見えた
古谷:
かなりそういう部分があるような気がします。
上杉:
なるほど。経済に関してはどうなんですかね?
古谷:
経済に関しては色んな学説がありますので何とも言えないところですけれども、かなり不満を持っているというのは相当あると思います。
ただ、2年でそれを判定しろと言われても困るよというか、2年で庶民にこれを白黒つけろと言われても、もうあと2年ぐらい経たないと無理じゃないのっていう声とあると思いますので、その辺は白黒がつかないんで、”ありのままで”と思い込まされたというか、”ありのまま”を選ばざるを得なかったということもあるんじゃないかなと思います。
今井:
続いて福島です。有権者は今回の選挙の争点をどう見ているんでしょうか?
男性:
福島県民としてはですね、原発はなんとかしてもらいたいなっていうのがあるんですけれども。
女性:
子育てしやすいような整備を行ってくれる政党に入れたいと思っています。
男性:
除染やってますけどね、郡山のここを今ごろやってるみたいだから。
男性:
個人的にはアベノミクスよりも、例えば私でしたらちっちゃい子どもがいるので、福祉対策とか、あるいは前から言われている議員定数の削減とか、そういった問題にちゃんと取り組んでいらっしゃったのかなというところが疑問なので、アベノミクスよりほかの面で考えていきたいなと思っています。
男性:
安部首相はもっとしっかりしろよ、と。
男性:
国民に対してちゃんと希望が持てるような未来を示してほしいなとは思います。
女性:
もう少しね、被災地を見てもらいたい。復興は進んでいるって言うけれど、本当に進んでんだか。忙しいのは分かりますよ。でもね、安倍さんは外国行ってお金をばら撒いているじゃないですか。そんなんだったら被災地にもっと目を向けてほしい。
今井:
福島の声、「安倍総理には被災地にもっと目を向けてほしい」という声もありました。そして、沖縄の有権者にとっての争点を聞いてみましょう。
男性:
30代の教員です。やはり経済政策と安全保障のところを重点的に見て投票しました。
インタビュアー:
アベノミクスで私たちの生活が幸せになると思いますか?
同男性:
実感としてはまだないですけれども、今の経済状態を考えたら、今の流れが良いんじゃないかなとは個人的に思います。
女性:
20代、会社員です。消費税率の引き上げに対して、一部の人たちしか生活が潤ってないので。
女性:
60代、介護職をやっております。まず、沖縄県民として保守-革新ではなく、県民としてどちらを選ぶかですよね。まず、そこですね。
インタビュアー:
では、アベノミクスで私たちの生活が幸せになると思いますか?
同女性:
いやいや、とんでもないですよ。8%に上がった時に福祉関係には厚くっていう話だったと思うんですけど、もうとんでもない。年金は下がるし。ということで、そこが1番のポイントですね。
上杉:
福島そして沖縄の声を聴いていただいたんですが、共に年末に県知事選が行われたところです。古谷さん、この声を聴いてご感想は?
古谷:
特に沖縄の声が心に刺さりまして。今回、小選挙区で自民全滅という、本土とは全く逆のパターンになりましたけれども、これが問いかけているところは、「沖縄にとっての保守とはなんだろうか?」っていうことだ思うんですよね。
沖縄の「保守」と本土の「保守」は真逆ではないか
沖縄にとっての保守というのは、先祖から受け継いできた土地を取り返したいとか、それを守りたいということだと思うんです。それで言うと、翁長さんが県知事選の時に「私は保守の政治家である」と言ったのは、基地というのは土地を固定化したくないという思いが、伝統とか祖先の土地を守りたい保守という意味では近いのかなと思いました。そういう意味では、「沖縄にとっての保守は基地の固定化に反対すること」なんじゃないかなと思いますね。
それで言うと、今回の沖縄の自民全敗というのは、革新が勝ったということではなくて、沖縄の「保守」が本土と真逆なんじゃないかなという意味では、すごく興味深いですね。
上杉:
面白い。保守というのは色んな見方がありますもんね。たしかにそれはそうですよね。必ずしも伝統文化を守るのが保守ではなくて、いま守るものを保ち守ることも保守だ、と。本土と沖縄ということを考えた場合、そういう考え方もでるんですね。
古谷:
そうですね。だから、今回、沖縄はむしろ保守化したのかもしれませんよね。
上杉:
なるほど。そして、福島、沖縄の声を聴いていただいたんですが。「アベノミクス解散」と自らアジェンダ・セッティングするのは驕りだと私は思うんですが、いずれにしろも現時点での結果を受けると、審判はもう下ったに等しいんですが。この結果と、そして野党があまりにも票を伸ばせなかったこと、この両面の部分ではいかがでしょうか?
古谷:
まず、アベノミクスに下された審判ということですけれども、与党がこれだけの議席を取ったからといって、決して肯定ではないとは思うんですが、結果がこうなっている以上は「様子見」であろうということが1番近いのかなと思います。今までの街の声を聴いても、「悪いんだけれども、かと言って」というニュアンスでしたので、様子見ということだと思いますね。
あと、野党については、維新が若干踏ん張ったかなというような気もしますけれども、一強多弱の構図は変わらずというところかなと思いますね。期待するのはかなり厳しいかなと思いますね。
上杉:
なるほど。先ほど稲田政調会長にも話を伺ったんですが 、安倍さんが本来訴えていることがどうも隠されたんじゃないかというのが印象で、それをぶつけてもみたんですが。特に憲法改正。衆議院で3分の2が与党になるので、次の参院選の結果次第ですけど、場合によっては憲法改正の第1歩に近付いたのかな、と。稲田政調会長が「党是でもある」と言った通り、たしかに自民党は1955年に憲法改正のためにできた政党ですから。この辺りは?
古谷:
上杉さんがおっしゃったように、安倍さんがもともと持っているようなタカ派の部分を前面に出した感じではなかったので、この結果がイコール憲法改正の発議とかに結びつくかどうかはかなり疑問ですよね。
で、おっしゃったように参議院がありますから、2016年にどうなるかっていうのがあると思うんですけど、国論も9条改正で二分している状況ですし、現状ではこの問題は変わらないとは思います。保守が思っているほど進展はしないでしょうし、護憲派が思っているほど危機的なことでもないと思いますね。
「憲法改正は保守が思っているほどは進展しないでしょう」
上杉:
なるほど。ただ、外交問題も含めて安全保障は今回のテーマから少し消されたかなと思うんですが、もう1つ消されたテーマとしては「原発」そして「放射能の問題」があったと思うんですが、この辺りはいかがでしょうか?
古谷:
色々な考えがあると思うんですけれども。基本的には原発推進、再稼働という感じですけれども、2016年まで選挙もありませんので、低空飛行というか、右左を見ながら進むんでしょうねというところでしょうかね。
今井:
争点について色々と見てきましたが、ここでリスナーの方からのツイートをご紹介したいと思います。こちら「ハンジュウリョク」さんという32歳の方。「国家の行く末を思う政治家が今も残っているかが争点だと思う。みんな絶望している。若者は政治に無関心だ。誰が政治をしても破滅に向かうと悟っている。破滅を食い止めてくれる政治家を誰もが求めている」というツイートなんですが、古谷さん、いかがでしょうか?
古谷:
(笑)。なるほど。若者は政治に対して関心を持っています。無関心ということは全くありません。それは若者に関する各種のデータから見ても 、若者は滾る政治的関心を持っていますね。
「若者は滾る政治的関心を持っています」
ただ、それが右派とか左派の期待するようなイシューではないということだけであって、若者は非常に身近な問題、環境の問題ですとか、原発の問題ですとか、あるいはブラック企業とか雇用の問題に非常に強い関心を持っているので、全然心配しなくて良いと思いますよ。
上杉:
ただ、今回、史上最低の投票率だ、と。
今井:
戦後最低ということですね。前回の選挙を7ポイントほど下回る見通しで、11時(※14日)現在の推定最終投票率が52.43%ということです。
古谷:
予想通りですけど、さらに落ち込んだなと思いますね。58ぐらいは行くと思っていたんですが、もうほとんど半分ですよね。これは半分の人が行きませんでしたということなので、やっぱり2年で問うというのはそもそもの構造自体がかなり無理筋だったことが証明されたんじゃないかなと思いますね。
今井:
ここまで、著述家の古谷経衡さんにお話を伺ってまいりました。古谷さん、どうもありがとうございました。
古谷:
とんでもないです。ありがとうございました。
上杉:
ありがとうございました。
今井:
お届けしてきました、「2014年衆議院選挙 特別番組 列島タイムライン-”ありのまま”で良いのか、ニッポン」。これからの日本が”ありのまま”で良いのか、今回の選挙から見えてきたそれぞれの争点をジャーナリストの上杉隆さんとお送りしてまいりました。
上杉:
改めてこれからの日本、”ありのまま”で良いのでしょうかというところんなんですが。今回の選挙を選挙戦前から見てきて、私自身が1番危機感を覚えたのは、表現、言論、報道の自由が損なわれてきたんじゃないか、と。特にこの2年間の安倍政権で、そういう意味でますます窮屈な状況が広がってきたのかなというのが実感なんですよね。
表現、言論、報道の自由が損なわれてきたんじゃないか
そういう意味で言うと、来年2015年は戦後70年ということなんですが、戦前の窮屈な言論空間、メディアで言えば大本営発表とかで言いたいことも言えないという時代に逆戻りしているんじゃないかという恐怖があるわけですね。そして、言論がだんだんだんだん窮屈になって損なわれると、その時に何があるかと言うと、「独裁」、そして最悪の場合は「戦争」なんですね。そこに向かってはいけない、と。
先ほど60代の女性の声も紹介しましたが、戦争っていうのは政治家もジャーナリストも関係なくみんなが避けなければならないので、今回の選挙でその部分がきちんとアジェンダ化されたかなというところが不安ですね。
今井:
今お伝えしています通り、自公合わせて300を超える議席を獲得して政権の継続が確実となりまして(※最終結果 )、今月24日にも特別国会が招集されて、その日のうちに第3次安倍内閣が発足する予定ですけども、この第3次安倍内閣についてどんな点に注目していくべきでしょうか?
上杉:
組閣自体はそれほど大きく変わらないと思うんですが、何度も申し上げたように、勝ち過ぎるとその後が非常に難しくなる。つまり、勝って驕りが出る、と。そしてそれとは別に、人数が多すぎると自分たちのやりたいことをやりにくくなるんですね。
人数が多すぎると自分たちのやりたいことをやりにくくなる
そういう意味では、安倍政権にとっての本当の危機の始まりは、実は選挙に勝ったこの今日から始まっているんじゃないかと思います。そして、民主党を含めて野党のほうも、惨敗だからではなくて、4年前の自民党を見ればこれに近い負けをしているわけですから、色んな形で訴えていくことによって、政権交代可能な、きちんとした民主主義国家を作ってほしいと思いますね。
今井:
「2014年衆議院選挙 特別番組 列島タイムライン-”ありのまま”で良いのか、ニッポン」。ここまでのお相手は、今井広美と。
上杉:
上杉隆でした。これからの日本が”ありのまま”で良いのか、師走の深夜、あなたも考えてみてください。
民主党:
まず、民主党が国会の中の論戦を通じて、今の自民党の危うさを指摘していなければならない。
街の声・男性:
円安はメリットよりもデメリットのほうが多いんじゃないかな。僕は「アベノミクス」じゃなくて「アベノリスク」やと思っているだけど。
自民党:
アベノミクスの評価等々に関しまして、期待がある反面、不安感もあるというのは率直なところだろうと思います。
街の声・女性:
私の生活が変わんないなら日本は”ありのまま”で良いと思う。誰かの人生を遮るような、そういう政治のせいでならなかったのだけは避けてほしくて、そうならないなら別にどうなってても良いです。
選挙に関して色んな論点があり非常に興味深い話でした。基地問題というの争点がはっきりしていた沖縄で自民党が全滅だったということは特に着目しています。色んな意味で弱い立場の人たちのために、はたして第3次政権はどういう手立てをとるのか、引き続き注視していきたいと思います。(編集部)
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