本書は進化心理学の解説書で、著者がみずからダンバー数と名づけた数字の話が中心である。これは人間が自然につくる集団の個体数の上限が150人だという話で、著者によれば個体群の大きさと大脳の新皮質の大きさには相関があるという。
個体群の戦いでは規模の経済が強いので、霊長類では大きな集団をつくれる種ほど繁殖するが、そのためには大きな脳が必要だ。ヒトに次いで大きな個体群を形成するのは新皮質の大きいヒヒやチンパンジーで、これは他の個体との関係をアレンジする計算量が大きいためだという。
個体群の戦いでは規模の経済が強いので、霊長類では大きな集団をつくれる種ほど繁殖するが、そのためには大きな脳が必要だ。ヒトに次いで大きな個体群を形成するのは新皮質の大きいヒヒやチンパンジーで、これは他の個体との関係をアレンジする計算量が大きいためだという。
しかし人間は類人猿とは違って、150人をはるかに超える集団を維持している。その理由を本書は、言語や宗教による計算量の節約に求めている。ゲーム理論でも、くり返し囚人のジレンマでサブゲーム完全均衡(協力解)を計算して行動することは、2人だと容易だが、3人以上だと組み合わせの爆発が起こる。
特に評判を共有して行動するには、膨大な情報交換と計算量(NP完全)が必要になる。これを解決するには、情報をハブに集中して蓄積すると、計算量は個体数の1次関数に削減できる(Kandori 1992)。このように特定の価値を共有することが言語や宗教の役割である。
さらに個体群を超える普遍的なルールを決めれば、計算量は大幅に節約できる。これが法の支配だが、日本人はこういう普遍的ルールを拒否してダンバー数を守ってきた。中世にはコモンロー的なルールもできたが、近世には個人を数百人の村に固定して評判を共有する幕藩体制で平和が保たれた。日本人が宗教をもたないことも、同じ理由で説明できる。
こういうローカルな集団で計算量を節約するしくみと、普遍的ルールで節約するしくみは複数均衡で、どっちがいいとは先験的にはいえない。150人以内の小集団では、日本型は柔軟で変化に強い。日本軍も中隊(200人程度)が最強だったが、全体のリーダーがいないので総力戦には弱い。こういう行動パターンは、集団淘汰圧の低い島国の特殊な環境で生き残ったものと考えられる。
だから小選挙区制で派閥がなくなるとか二大政党になるというのは大きな間違いで、ダンバー数を克服する制度設計を考えないと、タコツボ共同体を再生産するだけに終わる。こういう日本社会の構造は戦争には向いていないので、日米同盟と平和憲法は日本人に適した組み合わせともいえよう。
特に評判を共有して行動するには、膨大な情報交換と計算量(NP完全)が必要になる。これを解決するには、情報をハブに集中して蓄積すると、計算量は個体数の1次関数に削減できる(Kandori 1992)。このように特定の価値を共有することが言語や宗教の役割である。
さらに個体群を超える普遍的なルールを決めれば、計算量は大幅に節約できる。これが法の支配だが、日本人はこういう普遍的ルールを拒否してダンバー数を守ってきた。中世にはコモンロー的なルールもできたが、近世には個人を数百人の村に固定して評判を共有する幕藩体制で平和が保たれた。日本人が宗教をもたないことも、同じ理由で説明できる。
こういうローカルな集団で計算量を節約するしくみと、普遍的ルールで節約するしくみは複数均衡で、どっちがいいとは先験的にはいえない。150人以内の小集団では、日本型は柔軟で変化に強い。日本軍も中隊(200人程度)が最強だったが、全体のリーダーがいないので総力戦には弱い。こういう行動パターンは、集団淘汰圧の低い島国の特殊な環境で生き残ったものと考えられる。
だから小選挙区制で派閥がなくなるとか二大政党になるというのは大きな間違いで、ダンバー数を克服する制度設計を考えないと、タコツボ共同体を再生産するだけに終わる。こういう日本社会の構造は戦争には向いていないので、日米同盟と平和憲法は日本人に適した組み合わせともいえよう。