と書きましたが、私はピケティの『21世紀の資本』を読んでいません。だからこの記事はピケティの本の解説をするものではありません。 r (資本からのリターン)が g (経済成長率)よりも大きくなるのはどういうときか? という問題をソローモデルで検証してみることが目的です。
まず、通常ソローモデルにおいて想定されているように、生産は資本と労働を生産要素として行われると想定します。生産関数は、

というかたちのものとします(これは「労働節約型」の生産関数で「ハロッド中立的」と呼ばれるものです。Y = AF(K,L) という「ヒックス中立的」の生産関数でも、以下の議論のインプリケーションは変わりません)。 Y:生産量, K:(社会全体の)資本, L:(労働)人口, A:知識(技術)です。
効率労働1単位当たりで考えたほうが(知識+労働者1単位当たりの生産関数や資本で考える)、技術進歩や人口増減の問題を取扱いやすいです。効率労働1単位当たりの資本を k とすると、k は

(1)
です。(t) はそれぞれの変数が時間の関数であることを表しています。
知識(技術)の増加率を a ( g と表記されることが多いですが、ここでは経済成長率と区別するために a とします)、人口増加率を n とします(注1)。

(2)
この式から

(3)
になるということが簡単にわかります。
生産関数は収穫一定であると想定します。効率労働当たりの生産関数を f(k) とすると、
(4)
が成り立ちます。
資本の増加率は次の式に従うと想定します。

(5)
これは、貯蓄から資本消耗(δは資本消耗率)を引いたものが、資本の増加分になることを表しています。
効率労働当たりの資本 k の変化を見たいので、k の時間微分を考えます(以下、時間を表す t を省略します。時間によって変化する変数は、Y, K, L, A です)。またドット(・)は、時間微分を表しています。つまり、ドットは

を表しているということです。
(1)式を時間 t で微分すると、

となります。K・ に(5)式を代入すれば、



これが効率労働当たりの資本 k の時間変化を表す式になります。

(6)
左辺は k を時間微分したものなので、この値がプラスならば k は増加し、マイナスならば k は減少します。
sf(k) と (a+n+δ)k を別々に描けば、次の図のようになります。

図1
通常、資本の限界生産物は逓減すると想定できるので、生産関数 f(k) は図のように湾曲したかたちになります。(a+n+δ)k の直線は、平衡投資(break even investment)と呼ばれます。効率労働単位当たりの資本 k を一定に保つために必要な投資の量を表しているからです。
sf(k) と (a+n+δ)k が交わる k の値を k* とすると、k<k* ならば、図1から、sf(k)>(a+n+δ)k となります( sf(k) が上になるので)。したがって、その範囲では(6)式の値がプラスになり、 k は増加します。k>k* ならば、sf(k)<(a+n+δ)k となります( (a+n+δ)k が上になるので)。その範囲では(6)式がマイナスになり、 k は減少します。
したがって、k は k* に収束することになります。k が k* に収束した状態は、均斉成長路と呼ばれます。
ソローモデルでは、貯蓄率 s が外生的に決定されるので、モデルから s がこのくらいになる、ということを言うことができません。しかし、社会は消費を最大化するように意思決定するように思われます(それが合理的な判断だからです)。そこで、消費を最大化するように s を決めたと想定してみます。
消費は所得(=生産量)から貯蓄を引いたものです。効率労働当たりの消費は、次のように表されます。

効率労働当たりの消費を見るために、図1に f(k) を加えれば、次の図のようになります。f(k) と sf(k) の差が消費になります。

図2
均斉成長路では、k は sf(k) と(a+n+δ)k の交点になります。この状態で消費 c が最大になるのは、平衡投資の直線 (a+n+δ)k と、f(k) の接線が平行になるときです。貯蓄率 s が調整され、この消費最大化の状態が達成される k の値は、「黄金律水準」と呼ばれます。
では、経済成長率(生産量成長率)はどのようになるでしょうか。成長率を g とすると、





ここで

は生産関数 f(k) の資本に対する弾力性です( F(K,AL) の K に対する弾力性も同じ値になります)。これを αk とおけば(通常、αk=1/3 ぐらいと想定されています)、成長率は

(7)
で表されます。(6)式を代入すれば、

(8)
となります。
均斉成長路では、k・ は 0 になります。したがって、均斉成長路の成長率は
(9)
です(注2)。 この成長率の値は、均斉成長路にいるなら k が黄金律水準になっているかどうかにかかわらず、a+n です。
いっぽう、資本からのリターンを r とすると、r は

(10)
となります(これは利潤最大化の条件から求められます)。
経済が均斉成長路上にいて、かつ黄金律水準が達成されているなら(つまり、貯蓄率 s が調整され消費が最大化されるように調整されるなら)、f(k) の接線が、平衡投資の直線 (a+n+δ)k と平行になります。したがって、
(11)
となります。そうすると、資本からのリターン r は、(10)式から、
(12)
となります。
ソローモデルでは、経済が長期均衡(=均斉成長路上で消費最大化が達成されている)にいるなら、 r = g になるのです。
しかし、経済が常に長期均衡にいるなんてことはありません。また、技術の進歩や人口増加率は変化します。また、経済が長期均衡に至るには時間がかかります(ソローモデルで考えると数十年の単位です)。
そこで、知識の増加率 (a) と人口増加率 (n) に変化が生じた場合を考えてみます(このモデルでは、a と n の変化は同じ影響を与えるので、ここではまとめてしまいます)。つまり、
① a と n が増加した場合
② a と n が減少した場合
の2つ場合です。

図3
① a+n が増加する場合、平衡投資の直線 (a+n+δ)k の傾きが大きくなります(赤い直線)。したがって、k は k* の位置から減少していきます。しかし、k は(6)式の動学方程式にしたがって変化します。そのため、すぐに B のレベル(あるいは E のレベル)にシフトしません。時間をかけてゆっくりと減少していきます。消費を最大化する黄金律水準に k が調節されるとすると、k は B のレベルで均衡するのではなくて、少し大きな水準になると思われます(E あたりの k )。
反対に② a+n が減少する場合、平衡投資の直線 (a+n+δ)k の傾きが小さくなります(青い直線)。したがって、k は D の位置から時間をかけてゆっくり F の位置に移動します。
この場合、成長率 g はどうなるでしょうか? (8)式を再掲しておきます。

(8)
① a+n が増加し、a’+n’ になった場合( a+n < a’+n’ )
a+n が増加し、a’+n’ になった場合、(8)式の右辺の第1項、第2項が a+n であるため、その分成長率は増加します(ジャンプアップします)。そして、a+n が増加すると、図3のように平衡投資の直線 (a+n+δ)k が左にシフトします。したがって、(8)式の第3項はマイナスになります(資本 k はゆっくりとしか移動できず、sf(k) が (a+n+δ)k よりも下にくるため)。第3項はマイナスになりますが、(8)式の右辺が a+n よりも小さくなることは、資本消耗率 δ がかなり大きくならない限り、ありません( αk= 1/3 ぐらいであることに注意)。そのため、a+n の増加が起こった時、g は a+n と a’+n’ の間のどこかのレベルまでジャンプアップすることになります。
そして、k が左にシフトしていくにしたがって、(8)式の第3項は、マイナスから 0 に増加していきます。そのため g は増加し、a’+n’ に近づいていきます(以下の図では、t = t0 で変化が起こると想定しています)。

図4
② a+n が減少し、a’+n’になった場合(a+n>a’+n’)
a+n が減少し、a’+n’ になったとすると、(8)式から、その分成長率は減少します(下の図のように、瞬時的に下がります)。そして、a+n が減少すると、平衡投資の直線 (a+n+δ)k が右にシフトします。したがって、(8)式の第3項はプラスになります( sf(k) が (a+n+δ)k よりも上になるため)。この場合も、(8)式の第3項はプラスになりますが、(8)式の右辺が a+n よりも大きくなることは起こりません。そして、k が右にシフトしていくにしたがって、(8)式の第3項はプラスから 0 に減少していきます。そのため g は減少を続け、a’+n’ に近づいていきます。

図5
では、資本からのリターン r はどうなるでしょうか?
(10)式から、
(10)
です。図3から、a+n が増加し、k が D から E へ左に移動すれば、f(k) の接線の傾きは大きくなるとわかります。したがって r は増加します。反対に a+n が減少し、k が D から F へ右に移動すれば、f(k) の接線の傾きは小さくなるとわかります。したがって r は減少します。
この増減は k の移動にともなっておこるので、g の変化のような不連続のものではなく、少しづつ変化するものになります。
(10)式を時間で微分すると、


(13)
となります。f”(k) は k の値によらずマイナスです。
① a+n が増加し、a’+n’ になった場合( a+n<a’+n’ )
r の変化の場合は、最初に黄金律水準が達成されていて(そのため r = a+n になる)、変化の後、再び黄金律水準が時間をかけて達成される(そのため r = a’+n’ になる)と想定しています。
図3から、 a+n が増加すると、平衡投資の直線が左にシフトするので、sf(k)-(a+n+δ)k はマイナスです。f”(k) の値はマイナスです。したがって、(13)式の値はプラスになります。そして、均斉成長路では sf(k)-(a+n+δ)k が 0 になるので、(13)式の値はしだいに 0 に近づいていきます。つまり、最初に大きく増加し、次第に増加率が小さくなっていきます。r は次のような変化になります。

図6
② a+n が減少し、a’+n’ になった場合( a+n<a’+n’ )
図3から、平衡投資の直線が右にシフトするので、sf(k)-(a+n+δ)k はプラスです。f”(k) の値はマイナスです。したがって、(13)式の値はマイナスになります。そして、均斉成長路では sf(k)-(a+n+δ)k が 0 になるので、(13)式の値はしだいにマイナスから 0 に近づいていきます。最初に大きく減少し、その減少率が少なくなっていきます。r は次のような変化になります。

図7
g (成長率)と r (資本のリターン)を重ね合わせて描くと次のようになります。

図8

図9
(8)式の成長率 g には a+g の項があります。したがって、a+g が変化すると、その影響を直接受けます(その時点でジャンプする)。しかし、資本からのリターン r ((10)式)は、資本 k のレベルにしたがってゆっくり変化するだけです。a+n が変化すると、先に g が大きく変化し、r の変化は遅れるのです。
具体的に言えば、知識の蓄積や技術開発が進み、人口増加率が増加すると、成長率はすぐに増加します。しかし、資本からのリターンは、よりゆっくりと増加していきます。そのため、g>r という状態が続くのです。ソローモデルにしたがえば、均斉成長路(長期均衡)に至るには数十年かかります。技術進歩が連続し、人口が増加し続けていれば、g>r という状態がずっと続くことになります。
逆に、知識や技術進歩の低下が起こったり、あるいは人口増加率が減少すると、成長率はすぐ低下します。しかし、資本からのリターンはよりゆっくりとしか減少しません。そのため、r>g という状態が続くことになります。
20世紀には、電力化、IT革命など大きな技術進歩が連続して起こりました。また、人口も増加しました。ソローモデルから解釈すれば、そのため g>r という状態が続いたと考えられます。
しかし、21世紀に入る前後から、コンピューター化やコンピューターを応用した技術が進んでいるとはいえ、かつての技術革新のようなインパクトのある大きな技術革新が起きなくなっていると言えます。また、人口増加率も停滞しています。ソローモデルにしたがえば、そのために r>g になったと考えられます。
注1) 指数関数を使えば、

となります。
注2) このモデルの場合、均斉成長路での賃金の成長率は a になります。
賃金の増加率がaになることからわかるように、労働者は技術進歩による利益を受け取ることができています。したがって、この場合の技術は、労働者を「完全に」不要にしてしまうものではありません。ただし、このモデルの技術 A は労働節約的なので、労働を「節約する」ものであることは変わりません( A が増加すると、ある程度労働を不要にします。A の増加率が増加すると賃金が増加するのは、「同じ」労働量でよりたくさん生産できるようになるからです)。
まず、通常ソローモデルにおいて想定されているように、生産は資本と労働を生産要素として行われると想定します。生産関数は、
というかたちのものとします(これは「労働節約型」の生産関数で「ハロッド中立的」と呼ばれるものです。Y = AF(K,L) という「ヒックス中立的」の生産関数でも、以下の議論のインプリケーションは変わりません)。 Y:生産量, K:(社会全体の)資本, L:(労働)人口, A:知識(技術)です。
効率労働1単位当たりで考えたほうが(知識+労働者1単位当たりの生産関数や資本で考える)、技術進歩や人口増減の問題を取扱いやすいです。効率労働1単位当たりの資本を k とすると、k は
(1)
です。(t) はそれぞれの変数が時間の関数であることを表しています。
知識(技術)の増加率を a ( g と表記されることが多いですが、ここでは経済成長率と区別するために a とします)、人口増加率を n とします(注1)。
(2)
この式から
(3)
になるということが簡単にわかります。
生産関数は収穫一定であると想定します。効率労働当たりの生産関数を f(k) とすると、
(4)
が成り立ちます。
資本の増加率は次の式に従うと想定します。
(5)
これは、貯蓄から資本消耗(δは資本消耗率)を引いたものが、資本の増加分になることを表しています。
効率労働当たりの資本 k の変化を見たいので、k の時間微分を考えます(以下、時間を表す t を省略します。時間によって変化する変数は、Y, K, L, A です)。またドット(・)は、時間微分を表しています。つまり、ドットは
を表しているということです。
(1)式を時間 t で微分すると、
となります。K・ に(5)式を代入すれば、
これが効率労働当たりの資本 k の時間変化を表す式になります。
(6)
左辺は k を時間微分したものなので、この値がプラスならば k は増加し、マイナスならば k は減少します。
sf(k) と (a+n+δ)k を別々に描けば、次の図のようになります。
図1
通常、資本の限界生産物は逓減すると想定できるので、生産関数 f(k) は図のように湾曲したかたちになります。(a+n+δ)k の直線は、平衡投資(break even investment)と呼ばれます。効率労働単位当たりの資本 k を一定に保つために必要な投資の量を表しているからです。
sf(k) と (a+n+δ)k が交わる k の値を k* とすると、k<k* ならば、図1から、sf(k)>(a+n+δ)k となります( sf(k) が上になるので)。したがって、その範囲では(6)式の値がプラスになり、 k は増加します。k>k* ならば、sf(k)<(a+n+δ)k となります( (a+n+δ)k が上になるので)。その範囲では(6)式がマイナスになり、 k は減少します。
したがって、k は k* に収束することになります。k が k* に収束した状態は、均斉成長路と呼ばれます。
ソローモデルでは、貯蓄率 s が外生的に決定されるので、モデルから s がこのくらいになる、ということを言うことができません。しかし、社会は消費を最大化するように意思決定するように思われます(それが合理的な判断だからです)。そこで、消費を最大化するように s を決めたと想定してみます。
消費は所得(=生産量)から貯蓄を引いたものです。効率労働当たりの消費は、次のように表されます。
効率労働当たりの消費を見るために、図1に f(k) を加えれば、次の図のようになります。f(k) と sf(k) の差が消費になります。
図2
均斉成長路では、k は sf(k) と(a+n+δ)k の交点になります。この状態で消費 c が最大になるのは、平衡投資の直線 (a+n+δ)k と、f(k) の接線が平行になるときです。貯蓄率 s が調整され、この消費最大化の状態が達成される k の値は、「黄金律水準」と呼ばれます。
では、経済成長率(生産量成長率)はどのようになるでしょうか。成長率を g とすると、
ここで
は生産関数 f(k) の資本に対する弾力性です( F(K,AL) の K に対する弾力性も同じ値になります)。これを αk とおけば(通常、αk=1/3 ぐらいと想定されています)、成長率は
(7)
で表されます。(6)式を代入すれば、
(8)
となります。
均斉成長路では、k・ は 0 になります。したがって、均斉成長路の成長率は
(9)
です(注2)。 この成長率の値は、均斉成長路にいるなら k が黄金律水準になっているかどうかにかかわらず、a+n です。
いっぽう、資本からのリターンを r とすると、r は
(10)
となります(これは利潤最大化の条件から求められます)。
経済が均斉成長路上にいて、かつ黄金律水準が達成されているなら(つまり、貯蓄率 s が調整され消費が最大化されるように調整されるなら)、f(k) の接線が、平衡投資の直線 (a+n+δ)k と平行になります。したがって、
(11)
となります。そうすると、資本からのリターン r は、(10)式から、
(12)
となります。
ソローモデルでは、経済が長期均衡(=均斉成長路上で消費最大化が達成されている)にいるなら、 r = g になるのです。
しかし、経済が常に長期均衡にいるなんてことはありません。また、技術の進歩や人口増加率は変化します。また、経済が長期均衡に至るには時間がかかります(ソローモデルで考えると数十年の単位です)。
そこで、知識の増加率 (a) と人口増加率 (n) に変化が生じた場合を考えてみます(このモデルでは、a と n の変化は同じ影響を与えるので、ここではまとめてしまいます)。つまり、
① a と n が増加した場合
② a と n が減少した場合
の2つ場合です。
図3
① a+n が増加する場合、平衡投資の直線 (a+n+δ)k の傾きが大きくなります(赤い直線)。したがって、k は k* の位置から減少していきます。しかし、k は(6)式の動学方程式にしたがって変化します。そのため、すぐに B のレベル(あるいは E のレベル)にシフトしません。時間をかけてゆっくりと減少していきます。消費を最大化する黄金律水準に k が調節されるとすると、k は B のレベルで均衡するのではなくて、少し大きな水準になると思われます(E あたりの k )。
反対に② a+n が減少する場合、平衡投資の直線 (a+n+δ)k の傾きが小さくなります(青い直線)。したがって、k は D の位置から時間をかけてゆっくり F の位置に移動します。
この場合、成長率 g はどうなるでしょうか? (8)式を再掲しておきます。
(8)
① a+n が増加し、a’+n’ になった場合( a+n < a’+n’ )
a+n が増加し、a’+n’ になった場合、(8)式の右辺の第1項、第2項が a+n であるため、その分成長率は増加します(ジャンプアップします)。そして、a+n が増加すると、図3のように平衡投資の直線 (a+n+δ)k が左にシフトします。したがって、(8)式の第3項はマイナスになります(資本 k はゆっくりとしか移動できず、sf(k) が (a+n+δ)k よりも下にくるため)。第3項はマイナスになりますが、(8)式の右辺が a+n よりも小さくなることは、資本消耗率 δ がかなり大きくならない限り、ありません( αk= 1/3 ぐらいであることに注意)。そのため、a+n の増加が起こった時、g は a+n と a’+n’ の間のどこかのレベルまでジャンプアップすることになります。
そして、k が左にシフトしていくにしたがって、(8)式の第3項は、マイナスから 0 に増加していきます。そのため g は増加し、a’+n’ に近づいていきます(以下の図では、t = t0 で変化が起こると想定しています)。
図4
② a+n が減少し、a’+n’になった場合(a+n>a’+n’)
a+n が減少し、a’+n’ になったとすると、(8)式から、その分成長率は減少します(下の図のように、瞬時的に下がります)。そして、a+n が減少すると、平衡投資の直線 (a+n+δ)k が右にシフトします。したがって、(8)式の第3項はプラスになります( sf(k) が (a+n+δ)k よりも上になるため)。この場合も、(8)式の第3項はプラスになりますが、(8)式の右辺が a+n よりも大きくなることは起こりません。そして、k が右にシフトしていくにしたがって、(8)式の第3項はプラスから 0 に減少していきます。そのため g は減少を続け、a’+n’ に近づいていきます。
図5
では、資本からのリターン r はどうなるでしょうか?
(10)式から、
(10)
です。図3から、a+n が増加し、k が D から E へ左に移動すれば、f(k) の接線の傾きは大きくなるとわかります。したがって r は増加します。反対に a+n が減少し、k が D から F へ右に移動すれば、f(k) の接線の傾きは小さくなるとわかります。したがって r は減少します。
この増減は k の移動にともなっておこるので、g の変化のような不連続のものではなく、少しづつ変化するものになります。
(10)式を時間で微分すると、
(13)
となります。f”(k) は k の値によらずマイナスです。
① a+n が増加し、a’+n’ になった場合( a+n<a’+n’ )
r の変化の場合は、最初に黄金律水準が達成されていて(そのため r = a+n になる)、変化の後、再び黄金律水準が時間をかけて達成される(そのため r = a’+n’ になる)と想定しています。
図3から、 a+n が増加すると、平衡投資の直線が左にシフトするので、sf(k)-(a+n+δ)k はマイナスです。f”(k) の値はマイナスです。したがって、(13)式の値はプラスになります。そして、均斉成長路では sf(k)-(a+n+δ)k が 0 になるので、(13)式の値はしだいに 0 に近づいていきます。つまり、最初に大きく増加し、次第に増加率が小さくなっていきます。r は次のような変化になります。
図6
② a+n が減少し、a’+n’ になった場合( a+n<a’+n’ )
図3から、平衡投資の直線が右にシフトするので、sf(k)-(a+n+δ)k はプラスです。f”(k) の値はマイナスです。したがって、(13)式の値はマイナスになります。そして、均斉成長路では sf(k)-(a+n+δ)k が 0 になるので、(13)式の値はしだいにマイナスから 0 に近づいていきます。最初に大きく減少し、その減少率が少なくなっていきます。r は次のような変化になります。
図7
g (成長率)と r (資本のリターン)を重ね合わせて描くと次のようになります。
図8
図9
(8)式の成長率 g には a+g の項があります。したがって、a+g が変化すると、その影響を直接受けます(その時点でジャンプする)。しかし、資本からのリターン r ((10)式)は、資本 k のレベルにしたがってゆっくり変化するだけです。a+n が変化すると、先に g が大きく変化し、r の変化は遅れるのです。
具体的に言えば、知識の蓄積や技術開発が進み、人口増加率が増加すると、成長率はすぐに増加します。しかし、資本からのリターンは、よりゆっくりと増加していきます。そのため、g>r という状態が続くのです。ソローモデルにしたがえば、均斉成長路(長期均衡)に至るには数十年かかります。技術進歩が連続し、人口が増加し続けていれば、g>r という状態がずっと続くことになります。
逆に、知識や技術進歩の低下が起こったり、あるいは人口増加率が減少すると、成長率はすぐ低下します。しかし、資本からのリターンはよりゆっくりとしか減少しません。そのため、r>g という状態が続くことになります。
20世紀には、電力化、IT革命など大きな技術進歩が連続して起こりました。また、人口も増加しました。ソローモデルから解釈すれば、そのため g>r という状態が続いたと考えられます。
しかし、21世紀に入る前後から、コンピューター化やコンピューターを応用した技術が進んでいるとはいえ、かつての技術革新のようなインパクトのある大きな技術革新が起きなくなっていると言えます。また、人口増加率も停滞しています。ソローモデルにしたがえば、そのために r>g になったと考えられます。
注1) 指数関数を使えば、
となります。
注2) このモデルの場合、均斉成長路での賃金の成長率は a になります。
賃金の増加率がaになることからわかるように、労働者は技術進歩による利益を受け取ることができています。したがって、この場合の技術は、労働者を「完全に」不要にしてしまうものではありません。ただし、このモデルの技術 A は労働節約的なので、労働を「節約する」ものであることは変わりません( A が増加すると、ある程度労働を不要にします。A の増加率が増加すると賃金が増加するのは、「同じ」労働量でよりたくさん生産できるようになるからです)。