ここから本文です

アップル救ったジョブズ氏の慧眼 ビデオ映像の「死後証言」が決め手に

SankeiBiz 12月18日(木)10時56分配信

 米アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」が独占禁止法に違反しているとして、購入者が3億5000万ドル(約409億円)の損害賠償を求めた集団訴訟で、カリフォルニア州連邦地裁の陪審団は16日、原告の訴えを退ける評決を下した。アップル勝訴の決め手となったのは、共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏が2011年10月に56歳で亡くなる半年前に撮影されたビデオ映像。法廷で再生され、異例の「死後証言」として認められた。カリスマ経営者の慧眼(けいがん)によって残された“遺言”がアップルを救った。

[フォト] 「iTunes」を発表するスティーブ・ジョブズ氏。その慧眼が死後にアップルを救った

 この集団訴訟は、アイポッドの購入者である原告団が、アップルの音楽配信サービス「iTunes(アイチューンズ)」でしか楽曲を購入することができず、競合他社の配信サービスが排除されており、独禁法に違反するとして05年1月に起こした。証拠集めなどを経て今年12月にようやく審理が始まり、06〜09年にアイポッドを購入した消費者約800万人が原告となった。

 ニューヨーク・タイムズ紙など米メディアによると、原告側は、アイポッドとアイチューンズのソフトウエアが頻繁にアップデート(更新)されるため、他社のサービスはそれに対応できず、アイポッドの購入者はアイチューンズの利用を強いられたと主張。他社サービスで購入した楽曲が再生できなかったり、ソフトウエアの更新で消失したりして損失を受けたとしている。独禁法違反と認定されれば、賠償額が懲罰的に3倍に膨れあがる可能性があり、アップルといえども経営的に大きな打撃を受ける恐れがあった。

 審理でアップル側のウィリアム・アイザックソン弁護士は「実際に楽曲が失われた証拠はなく、消費者に損害は与えていない」などと反論。そして、今月5日の公判で、“切り札”ともいえるジョブズ氏の映像を証拠として法廷で公開した。

 これまで未公開だった約27分の映像の中でジョブズ氏は、アイチューンズのシステムを破り楽曲を盗もうとする「大勢のハッカーがいる」と指摘。「アイチューンズとアイポッドのソフトを更新し、(ハッカーの侵入口となる)セキュリティーホールを塞ぎ、さまざまな問題に対処する必要があった」と訴えた。その上で、結果として他社サービスが排除されているとすれば、それは「付帯的損害にすぎない」と主張した。

 異論もあった「死後証言」が認められたことで大きな注目を集めた評決では、「アップデートは純粋に(ハッカー対策といった)機能強化のためだった」として、8人の陪審員が全員一致で原告の主張を退けた。まさにジョブズ氏の証言をそのまま認めた内容だ。原告側はただちに「他社サービスの締め出しと機能強化は分けて判断すべきである」として上訴する意向を表明した。

 ジョブズ氏の死後証言は、この訴訟のために準備されていたものではないといい、自らの死後にアップルが窮地に立たされることを予測していたかのようだ。当時からハッカー対策に力を入れていたことも含めその先見性には驚かされる。もっとも最近のアップルは「iPhone(アイフォーン)」や「iPad(アイパッド)といったジョブズ氏が生み出した“遺産”頼みだが…。(SANKEI EXPRESS)

最終更新:12月18日(木)12時33分

SankeiBiz

 

PR