70話「戦艦ムラサ丸の逆襲~解決編~」
「えー、それでは、戦艦ムラサ丸の攻略を祝しまして乾杯の音頭をとらせていただきます。かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
俺たちは命蓮寺の庭で宴会を開いていた。いつもは清貧を心がける白蓮も、今日ばかりは何も言わない。羽を伸ばせということだろう。俺も甲羅にしまっておいた秘蔵の酒を大盤振る舞いした。これは萃香にもらった鬼の酒である。ついでに『月人酒の友シリーズ』も放出した。
「こら! ナズーリン、チー鱈ばっかり食うな!」
「むぐう!」
なぜ宴会をしているかというと、冒頭でふれた通り、戦艦ムラサ丸を攻略したからである。何のことかわからない諸兄のみなさんに詳しく説明しよう。
今日の早朝のこと、命蓮寺にある人間が大慌てで駆けこんできた。それはこの前、海に行くきっかけとなった漁村の人間だった。彼の話によると、白蓮が改心させたはずの海の怨霊である村紗水蜜が再び暴れ出したのだという。村紗は白蓮から『戦艦ビャクレン丸』を授かった。その船を使って、漁村の生活が安定するまで人間たちの漁の手伝いをするという約束だったはずだ。
しばらくの間は白蓮の言いつけどおり魚を獲っていた村紗。しかし、半ば予想していた通りの結果だが、村紗は人間に反旗を翻した。戦艦ビャクレン丸の船長であることをいいことに、そのけた外れのスペックで暴力の限りを尽くし、近海一帯に恐怖と混沌をまき散らしたのだ。村紗水蜜は船の名を『戦艦ムラサ丸』と改め、その悪名をとどろかせていた。
白蓮たちはすぐに村紗を懲らしめに海へ行くことになった。しかし、問題は命蓮寺の留守番である。この前はナズーリンの部下の妖怪ネズミたちに任せたのだが、帰って来た時、寺の中が大惨事になっていた。やはり、一人は留守番役として寺に残る必要がある。
そこで俺が留守番役に名乗りを上げた。面白そうなイベントだったが、最近人里での漬物の卸売が立て込んで疲れていたので辞退した。夜になって意気揚々ともどってきた連中を迎えて、祝いに酒盛りでもやろうと提案したのだ。
「で、まだ、どんなことがあったのか聞いてないわけだが、村紗はどうなったんだよ?」
「ああ、もちろん姐さんが矯正したぞ。しかし、村紗のところまでたどり着くのが大変だった。嵐のような砲撃の弾幕をくぐり抜けて甲板に降りるまでがひやひやしたな」
「ナズーリンが前歯で船底に穴を開けて浸水させたんですよ。とても堅そうな板をバリバリかじってすごかったです」
「ネズミを甘く見ないことだね。そういうご主人こそ、宝塔から神力の炎を出して船内を火の海にしたじゃないか。あれは壮観だったね」
「だが、一番活躍したのはこのワシじゃ。ワシが船内で巨大化し、大規模な水蒸気爆発を起こすことでブリッジを吹き飛ばしたあの一撃こそ最大の手柄よ!」
みんな大暴れしたみたいだ。村紗のやつお気の毒に。敵ながら哀れだ。
「でもやっぱり一番すごかったのは聖と村紗の一騎打ちだよ」
「ああ、まさかあんな手を使うなんて思いもしませんでした。さすがは聖です」
「なんだ、何をしたんだ?」
数々の攻撃を乗り越えて戦艦にたどりつき、猛威を振るった白蓮たち。半壊にまで追い込まれた戦艦は沈没寸前の状態に立たされる。慌てふためく船員のザコ妖怪どもを屠りながら、白蓮たちは村紗を追い詰めた。最後の足掻きとばかりに特攻をしかけようとした村紗に対し、白蓮は意外な方法でとどめを刺す。
白蓮は『飛倉』なるものを召喚したのだ。飛倉とは、白蓮の弟である命蓮の霊妙な力が込められた穀倉らしい。命蓮も白蓮に引けを取らないほどの法力を習得した高僧で、名前からわかる通り、命蓮寺はこの弟の名前をとってつけられたようである。
この飛倉、触れるだけで空を飛んだり、身体能力が向上したりするほどの御利益があるスーパーな建物のようだ。
「その飛倉を船の真上の空中に呼びだしたと思ったら、みるみる分解されていって、その破片が壊れかけていた船を覆ったんだ。そして、『戦艦ムラサ丸』と『飛倉』が融合し、『超法力南無三合体・聖輦船』が完成したというわけだ」
というわけで、なんやらかんやら日曜朝のとあるテレビ番組的展開の末に、強力な法力が込められた光の宝船、『聖輦船』が誕生した。法力パワーで空を飛ぶ飛行船らしい。
合体を果たした戦艦ムラサ丸は飛倉に全制御を奪われ、操行不能に陥る。そこでようやく村紗は完全に敗北を認め、白蓮怒涛の三時間説教コースを食らって今度こそ改心した。太っ腹なことに、白蓮はまたしても聖輦船を村紗に渡している。村紗は聖輦船の船長になった。ただし、船の制御は飛倉の法力による完全自動運航システムにより支配されているので、マニュアルでの操作はできない。船長とは言うが、実質的な役割はただの管理者にすぎないようだ。これで村紗も、もう悪さはできないだろう。
白蓮、お前は本当に想像の斜め上を行くことに関しては、期待を裏切らない奴だぜ。
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