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東方――亀兎木―― 作者:緑野ボタン4号

65話「海へ行こう」

 
 プレゼントの一件以降、白蓮と寅丸はプラトニックな関係を維持しつつ、さらに信頼と絆を深めたようである。百合展開にはならなかったが、二人が仲良くなってくれれば、こちらも6時間正座させられて足の感覚が麻痺した甲斐があったというものだ。……くそぅ。

 「よう、雲山。そんなところに突っ立って、何してんだよ」

 「おお、葉裏か。あれを見てみい」

 ある日のこと。雲山が陰にこそこそと隠れて本堂の中を覗いていた。また変態行為でもしているのかと思ったが、違うらしい。部屋の中には、人間たちがいた。雲山は見た目的に妖怪だとすぐわかるので、人間の目に姿をさらしてはまずいのだ。だから、隠れながら様子をうかがっていたようである。
 しかし、中を見ても面白そうなことは何もない。いつものように悩みを抱えた人間が、白蓮に相談に来ているだけである。

 「……そういうわけでして、妖怪退治人としても有名な白蓮様の力をお借りしたいのです」

 「なるほど、舟を海へと引きずり込む怨霊ですか」

 どうやら、白蓮は妖怪退治の依頼をされているようである。白蓮は妖怪とは敵対関係になく、むしろ妖怪を救おうという思想をもっているが、それを人間には隠している。なので、法力を身につけた白蓮に妖怪の退治を依頼しにくる人間は少なくない。
 白蓮はそういった依頼を引き受けている。彼女にとっては、人も妖怪も平等に扱うべき対象である。一方だけに加担する気はない。人間に過度の悪さをする妖怪には、説教をしに行く。それでも改心しないようなら、殺しはしないが力づくで鎮静化させる。世間一般の妖怪退治人なら、どんな事情を抱えた妖怪だろうと問答無用で滅殺しようとするので、それを考えればかなり良心的な対応と言えるだろう。
 普通の退治人なら結構な額の代金を取るのだが、白蓮は建前上無料で引き受けている。実際はタダで妖怪退治をさせようとする厚顔無恥も甚だしい人間はいないので、任意にお布施を納めるという形でお金をいただいている。そのせいもあって、白蓮を頼ってくる人間は多いのだ。わざわざ遠方から訪ねてくる者もいる。今日依頼に来ている者は漁村の人間のようだ。ここは山奥なので、海まではなかなかの距離がある。

 「どんな妖怪が暴れてるん?」

 「ワシも最初から聞いていたわけではないが、どうやら海に舟を転覆させて回る恐ろしい怨霊が出たとか。名前は、村紗水蜜というらしいのぅ」

 「ふーん」

 海坊主か何かだろうか。ご大層に名前までつけられているとは、よほどの悪事をはたらいた妖怪なのか。いずれにしろ、俺には関係のない話だ。これまでにも何度も妖怪退治の依頼はあったが、俺は一度も手を貸していない。妖怪が妖怪を退治するとか、笑い話にもならない。妖怪の悪事に協力することはあっても、同族の邪魔なんかするわけがない。いくら命蓮寺に世話になっている身とはいえ、頼まれたって妖怪退治に協力する気はないのだ。これだけはどうあっても意見させないと突っぱねている。
 しかし、海か。しばらく見ていないな。今は夏だし、海水浴にいくのも気持ちがいいかもしれない。俺はカメの妖怪だからなのか、海が好きだ。確か生まれたときは陸棲だった気がするが、それでも泳ぐのが好きである。

 「海かー。行きてえなー」

 「ほう、葉裏は海が好きなのか。日差しの照り返る白い砂浜に映える美少女の肌というのもおつなもの……はっ!? 海に行く……美少女たくさん……泳ぐ……水着! これは水着イベントへのフラグかあああ! むぬう! こうしてはおれん! すぐに水着の作成に取りかからねば!」

 雲山は意味のわからないことをぶつぶつ口走ると、目の色を変えてどこかへ走り去って行った。何がしたいんだろう、あいつ。

 * * *

 後日。
 思った通り、白蓮は村紗とかいう妖怪の退治を引き受けた。今日はその退治決行予定の前日である。これから歩いて依頼人の待つ漁村へ向かう。明日の昼前には到着する見込みである。
 いつもなら俺は留守番をしているところだが、今回は一緒について行くことにした。無論、妖怪退治に協力などしない。遊びに行くのだ。昨晩はそのことで一輪と散々揉めたが、ダダをこねてついて行く権利を獲得した。
 俺が海に行きたいので一緒に行くと言ったら、白蓮は何を勘違いしたのか、命蓮寺一向全員で行きましょうという話になった。まるで家族旅行気分である。というわけで、命蓮寺の留守はナズーリンの部下の妖怪ネズミたちに任せて、俺たちは海へ行くことになった。

 「と、いう話だったと思うんだが、それがなんでこうなった」

 現在、命蓮寺の前。
 俺たちは全員、水着を着ていた。

 「この状況、いったいどういうことなのか説明してもらえるのだろううね?」

 ナズーリンは白いワンピースタイプの水着だ。スレンダーなボディラインにフィットしたすばらしい流線形。その清楚な印象が、いつものクールキャラと相まってアンヴィバレントだが、逆にエクセレント。

 「雲山……お前ってやつは……!」

 お次は一輪。普段、肌をさらさない厚ぼったい服装の彼女も今日は一転して開放的に。いわゆるタンキニタイプの水着である。かわいらしいフリルのついたタンクトップと、ビキニのコラボレーション。ポニーテールの青い髪がよく映える。

 「ひえええ! は、恥ずかしいですー!」

 寅丸は大胆にビキニ。しかも、お約束の虎柄。そのこぼれ落ちそうな豊満なオパーイが黒と黄色の縞模様の水着に包まれている様は、近づきがたい危険な香りを醸し出す。このデンジャラスなセクシーモンスターの出没に注意しな。

 「まあ、これは変わった服ですね。うふふ」

 そして、最後は白蓮。黒いヒモビキニ。もはや描写不要。そのダイナマイツなボディが惜しげもなく晒されている。要するに、布が三枚ありまして、それがヒモでつながっているといった状態であります。なぜ着た。

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