62話「ぴちぴち尼僧赤裸々白書」
「それでは、今日の授業はここまでです」
「おつかっれしたー」
今日の白蓮の妖術講座が終わった。いつもなら手伝いを頼まれない限り、ここから自由行動が許される。俺は真っ先に遊びに……もとい、アサシンの修行をしにいくのだが、今日は寅丸から大事なミッションを与えられている。白蓮の欲しい物を探るのだ。プライバシー? 犬に食わせた。
潜入捜査開始。まずは、今日の日のために作りあげた秘密兵器のお披露目だ。俺は自分の寝室の押し入れからあるものを取り出す。それは、木箱である。森の木を材料に日曜大工で作りあげた。俺は木箱を頭からかぶる。そして、体をかがめ、外から見えないようにする。
「ふっ、完璧な作戦だ」
できればダンボールにしたかったのだが、そんな技術はこの時代にはない。木箱に開けたのぞき穴から外の様子を確認しながらチョコチョコとしゃがみ歩きで進む。俺は何の変哲もない木箱になりすまし、白蓮の書斎を目指した。
(こちら、スネ○ク、潜入に成功)
『虚眼遁術』を使用した俺に死角はない。もし、見つかっても俺はただの木箱。怪しまれることはないだろう。
白蓮は書斎で仕事をしていた。巻物をひろげて何か筆を走らせている。捜査は忍耐。奴がしっぽを見せるまでこのまま待機だ。
* * *
腰が痛くなってきた。もうやめたい。
だいたい、なんで俺がこんなことしなくちゃならないんだよ。全然、面白いこと起きないし。白蓮はあれからずっと巻物に向き合っている。屁の一つくらいぶっこいてくれないかな。
「ふぅ……できた。今日はこのくらいにしておきましょう」
お、ようやく終わったか。巻物を棚にしまって、白蓮は立ち上がる。しかし、この部屋にある大量の巻物には何が書いてあるのだろうか。もしかして、俺がまだ教えてもらっていない妖術の秘奥義とか、法力の極意みたいなものが書いてあるのかも。もしかしたら一気にパワーアップできたりして! ……それはないか。しかし、使えないにしても気になるところだ。
白蓮が書斎から出ていった後、俺は木箱から外に出て、さっき白蓮がなにか書いていた巻物を手に取った。
「ふひひ、さーて、どんなすごい妖術の奥義が記されているのやら……」
しゅるしゅるしゅる……
『みょうれーん! みょうれんみょうれんみょうれんみょうれんみょれんみょみょみょみょみょうれーん! ハアハア! 命蓮かわいいよ命蓮! どうしてお姉ちゃんを残して死んじゃったのー! ぺろぺろ! 命蓮ぺろぺろぺろぺろ! 命蓮がかわいすぎて生きるのが辛い……』
うん、見るのはやめよう。人には誰にでも知られたくない過去がある。
俺はそっと巻物を元の場所に戻した。
* * *
白蓮は本堂へ移動していた。俺も木箱に入って、さりげなく後を追う。
「おお、白蓮様!」
「ありがたや、ありがたや」
命蓮寺の高僧として名高い白蓮は、人里の人間たちからの信頼も厚い。白蓮の説法を聞きに集まってくる人間は多い。
白蓮は読経を始めたようだ。美しい声が本堂に響き渡り、荘厳な雰囲気を作り出す。後ろに控えている人間の信者たちも白蓮にならって経を読み始めた。
つまらない。俺にとっては仏教の語る真理など、どうでもいい話である。このままここに居続けても、白蓮の秘密なんてわかりそうにない。読経が終わるまで捜査は中断しようかな。
だが、それにしても僧というのは、こんなつまらないことをし続けて、よく眠たくならないものだ。俺なら5分で睡魔に負ける自信がある。その睡魔をたち払うことも、また修行というわけか。木魚なんて、読経中に眠らないように気を紛らわす道具らしいし。さすが白蓮といったところか、木魚などという小細工等使わずとも、眠る様子はまったくない。その顔は菩薩様のように穏やかで、薄く閉じられた目はにこやかな微笑を……
「!?」
は、鼻ちょうちん……だと……!?
読経の声は朗々と響きわたっているが、白蓮の鼻にはきれいなちょうちんがぷっくりぷっくり膨れている。
え、もしかして寝ているのか。まだ、開始して一分も経ってないぞ。というか、お経よみながら寝るってどういうこと。後ろの人間たちは、手を合わせてこうべを垂れ、一心に念仏を唱えている。だれも白蓮の様子に気づく者はいない。
(いや、まさかあの白蓮がそんな不徳なことをするなんて思えない……きっと、鼻ちょうちんは出ているけど、眠ってはいないんだ。あまりにも読経に集中しているから、思わず出てしまった鼻ちょうちんのことを気にかける余裕もないということさ)
その証拠に、あんなによどみなく読経を続けているじゃないか。修行の末に法力まで身につけた信心深い白蓮。見なさい、あの首をがっくりがっくり上下に振りまくるという前衛的な読経スタイル……
(って、舟こいでるしっ!?)
後ろの人間たちはまだ気づかないのか。まあ、妖怪がはびこる寺に気づかず入信している時点で、こいつらの目は節穴だろうが。
それにしても白蓮ェ。もはや俺には擁護不能。化けの皮をはがしてやるつもりが、逆に俺の方が翻弄されている始末ではないか。こいつ、フリーダムすぎる。
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