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東方――亀兎木―― 作者:緑野ボタン4号

58話「続・なんでもお悩み相談室」

 
 悩める妖怪その2:多々良小傘

 今度の相談客は、水色の髪をした少女だ。オッドアイとは珍しい。ミニスカートで、足元は下駄。そして何より目立つのは、手に持つから傘お化けである。傘に一つ目と口があり、大きなベロを出している。どこからどう見ても妖怪です。ほんとうにありがとうございました。
 俺は顔に付いた漬物の汁を拭き取りながら対応する。

 「はい、こちらなんでも妖怪相談室です」

 「あ、よ、よろしくお願いします」

 おずおずと傘妖怪は座布団に座る。今度はちゃんとした悩みを持っていそうな妖怪が来たな。俺のパーフェクトなカウンセリングテクニックを見せるときが来たか。

 「あちきは妖怪ですから、人間を驚かせるのが仕事なんです。あるとき、あちきがいつものように物陰に隠れて人間が通りかかるのを待っていました。そして、人影を見たあちきは勢いよく飛び出しました」

 「ほうほう、それで?」

 「普通なら、これでびっくりしてくれるはずなんですが、その人間はとても変わっていました……あちきの姿を見るなり、そんな古典的な方法ではいまどき誰も驚かないとダメ出ししてきました。ショックでした……」

 傘妖怪はがっくりとうなだれる。相当ショックだったようだ。驚かせるはずだった人間に、逆に驚かし方を指摘されたのでは妖怪としての面目丸つぶれだろう。

 「そして、その人間はあちきに言いました。『君のような妖怪でも簡単に人を驚かせられるいいものがある』と。そして、大きな風呂敷包みから、この壺を取り出したのです」

 そう言って、傘妖怪はリサイクルショップで捨値で売っていそうな古めかしい壺を取り出す。あれ、この壺、どこかで見たことがあるような気が……

 「その人間の話によると、この壺は縄文時代の名のある陶芸家、八門之介ぱちもんのすけの遺作だそうです。製作者の強い念がこもったこの壺の所持者は、持っているだけでとてつもない妖力が自然に集まってきて、最強の妖怪になれてしまうのだとか」

 嘘くせえ。どう考えても詐欺だろ。それは引っ掛かる方が悪い。

 「あちきはもっと人間をびっくりさせられる強い妖怪になりたかった……だから、買いました。そのとき、90回払いの“ろーん”とかいう契約をさせられて、お金は今は払わなくていいからと言われました。お金も払わずに品物をくれるなんて、なんていい人間なんだとそのときは思ったのです」

 「それは借金ですね」

 「そうなんです! 後になって気づきました! 私、お金なんて少ししかないのに借金までしてこんな壺買ってしまって……しかも、この壺、持ってても全然妖力とか集まらないし……もうどうすればいいのかわからなくて、夜も眠れません!」

 なるほど、金銭がらみのトラブルは怖いねえ。妖怪も怖がるくらいだから相当だよ。ここは一つ、俺がこれまで培ってきた技能をいかした解決法で安心させてやろう。

 「……実はですね。そんなあなたにぴったりの、いいものがあるんですよ~」

 「え!? なんですか、教えてください!」

 俺は脇に置いていた甲羅の中から、あるものを取り出す。

 「これは貴重なものですから、本当はこういう形で紹介するなんてことは滅多にないんですが……これを見ていただけますか?」

 「これは……つ、壺ですか?」

 「ええ、壺です。ですが、ただの壺じゃあ、ありません。縄文時代! 言わずと知れたかの有名な陶芸家、八門左衛門ぱちもんざえもんの遺作です! どうです、この芸術的なフォルム。いいでしょう~」

 「はへー」

 傘妖怪は目を輝かせながら壺を見ている。

 「しかも、これは長年この命蓮寺に祀られていた神聖な壺です。法力が宿っておりまして、持ち主のあらゆる災厄を退ける効果があります」

 「本当ですか!? じゃあ、私の借金ももしかしたら……」

 「ええ、この法力パワーで金運招来。あっというまに億万長者ですよ。とても霊験あたたたな壺です」

 「あたたたですか!?」

 「あたたたです」

 「買います!」

 どうやら気に入ってくれたようだ。さっそく契約にうつる。どうみても金をもっていなさそうなので、ここは90回払いのローン返済契約に……

 「って! これ、私が騙されたときと同じ手口じゃないですか! うわーん! また騙されたー!」

 俺の顔面に壺がぶつけられた。傘妖怪は逃げるように帰って行った。

 * * *

 悩める妖怪その3:二ツ岩マミゾウ

 次に来たのは化けタヌキだった。少女の姿をしているが、タヌキの耳と大きなしっぽが見てとれる。丸眼鏡をかけていた。ノースリーブにスカートという服装だ。妖力を見るに、まだ年若いタヌキのようである。

 「入ってもいいか?」

 「どうぞー、適当に座っててね」

 俺は畳に散らばる壺の破片を片付けながら対応する。しかし、相談所は大盛況だなあ。次から次に客がくるぜ。休む暇もない。

 「それで、お悩みは?」

 「うむ、それなんじゃが……その……」

 狸妖怪は、うつむいてごにょごにょと言いごもる。顔を赤くしてもじもじする姿はかわいいのだが、肝心の悩みごとを打ち明けてくれないと、こちらも相談のしようがない。

 「さあ、恥ずかしがらずに、オープンになりな!」

 「だから……そ、その……まが、あれで……」

 「もっと心を開いて! 肋骨を外に向かって開放してみよう! ガパァッ!」

 「……き、きん……が、ないから……」

 「三分間待ってやる! 時間だ! 答えを聞こう!」

 「だ、だからっ、キン○マがほしいのじゃっ!」

 空気が、死んだ。
 なにこれ? 痴女なの? なんのカミングアウト? そういうプレイ?

 「あの、そういうことはここで相談せずに、」

 「お、おぬしが想像しているようなことでは、断じてないのじゃっ!」

 お前は何を想像したんだ。というか、俺はどうすればいいわけ。さすがに法力パワーでキ○タマが生える壺とか、俺も取り扱ってないぞ。

 「ごほん! ……『狸の金玉八畳敷き』という言葉を知っておるか?」

 「あー、確か化け狸のキンタ○は八畳もの大きさに広がるって話だろ?」

 「そう。狸にとって○ンタマの大きさは一種の地位を表すモノ。大きければ大きいほど強い力を持つ狸とされる。しかし! それはあくまでも目安にすぎん! しかも、雄同士でしか比べられぬモノだろう! 儂は他の狸よりも強い妖力をもっているというのに、キン○マがないというだけで! ……ぐぬぅ!」

 狸妖怪はメラメラと怒りの炎を瞳に宿して歯噛みしている。妖怪にも色々な種類と文化がるのだなあ。18歳未満閲覧禁止な展開にならなくてよかったよ。

 「そういうことでしたら、私どもでも協力することが可能ですよ」

 「なにっ!? い、いったいどうするというのじゃ!?」

 「『狸の金玉八畳敷き』……その考え方は、今や古い! 女性妖怪の地位向上のために新たなスローガンを掲げましょう! これからの時代は『狸のオッパイ八畳敷き』です!」

 「はあ!?」

 俺は身を乗り出し、狸妖怪のふくよかな胸のふくらみを指でつつく。ぷにぷに。

 「な、なにをする!?」

 「あなたのこの豊満なオパーイなら、八畳なんて軽い軽い。しかも二つもついているんだから二倍の十六畳敷きですよ」

 正直、そんな光景は見たくもないが。

 「そんなあなたに本日紹介する商品はこちら! どん! 『豊胸サポーターサラシ』! このサラシを胸に巻いているだけでアラ不思議! どんどん胸が大きくなっちゃう! さらに美乳効果に付け加え、骨盤の歪みを修正し、新陳代謝を高めてダイエット効果も! そして、一千万ガウスの磁気パワーが筋肉に作用し、コリをほぐします! 今なら、同じものを二枚? いえいえ、なんと三枚セットで、この特別価格! お掃除に便利な専用ブラシと専用携帯ケースもついてきます! どうです、買いませんか?」

 「……」

 あ、あれ? なんだかものすごーくヤバイ雰囲気。怒気がオーラのように噴出して、蜃気楼が見えちゃってるよ。

 「ふっ、ざっ、けっ、るっ、なっ!!」

 俺は顔面にゲンコツを五発も食らった。額が切れて血が止まらなくなったので、手元にあったサラシを包帯代わりに巻いた。狸妖怪は肩を怒らせながら帰って行く。
 そんな調子で俺のお悩み相談室は快調にみんなの悩みを消化していく。そして、その日の夜、俺は一輪にしこたま殴られた。

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