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東方――亀兎木―― 作者:緑野ボタン4号

51話「仲良く喧嘩しな」

 
 飯も食ったことだし、今日は寝るとするか。妖術符の勉強は、明日から頑張ればいいや。
 俺の寝る部屋は、ナズーリンと一緒になった。

 「えー、おかあさん、他に部屋は余ってないの?」

 「いいじゃありませんか。ナズーリンはずっと一人で寝ていたので、葉裏さんがいれば寂しくないでしょう?」

 「私は一人で寝られないほど小さな子どもではないのだが」

 なんでも、白蓮は寅丸と、一輪は雲山と一緒の部屋で二人ずつ寝ているらしく、ナズーリンはこれまでずっと一人部屋だったらしい。ってか、一輪は雲山と寝てるのかよ!? そっちの方が驚きだよ!

 「なんなの、あんたら。夫婦なの?」

 一輪が俺の胸ぐらをつかみ上げる。身長の低い俺の体は宙に浮いた。陰に隠れたその顔は、目だけが異様に赤く光っている。

 「口のきき方に気をつけろ、雌妖怪ィィィ……!」

 「す、すみません……もう絶対言いません」

 どうやら、そういう関係ではないようだ。
 そろそろ部屋に移動しようかというときに、寅丸が話しかけてきた。

 「あの葉裏さん、気をつけてくださいね」

 「え? 何を?」

 「ナズーリンと一緒に寝ると、そのアレが大変なんです……」

 アレ? なんだよアレって。寝相がひどいとか、いびきがうるさいとか。はっ、もしかしてちょっとエッチな展開へのフラグですか!?

 『葉裏ぃ……一人で寝るのこわいの……そっちの布団に行ってもいーい?』

 ふむ、アリだな。

 「何を話しているんだ、ご主人?」

 「い、いや、何でもないです! それじゃあ、おやすみなさい!」

 「? まあ、いいか。葉裏、寝る部屋はこっちだ。ついてきてくれ」

 * * *

 ナズーリンの案内で寝室に到着、押入れから布団を出して敷く。

 「なんか布団の距離が近くないか」

 「まあまあ」

 明かりを消して布団に寝る。ふひひ、今夜はナズーリンをだっこしながらスイートなナイトをハブアナイスデイするとしますか。
 まだかまだかと期待して目を閉じる俺。星の光しかない薄暗がりの部屋には、外から聞こえる虫の声しかしない。
 だが、そのとき俺の顔のすぐ横に近づく気配。え、い、いきなり!?
 くそ、ちょっとドキドキしちまったじゃないか! ナズーリン、普段はクールなキャラできめてるのに、二人きりになると甘甘なのか……! そのギャップにはからずも萌えてしまう。

 「チューチュー」

 ちゅう!? はじめてーのー、ちゅう!?
 だ、大胆すぎるぞナズーリン! いかん、顔がニヤけてしまう。冷静になれ、俺! ビークール、ビークール……よし、準備は整った。いつでもこい!
 そして、俺の耳に走る甘美な痺れ。み、耳だと……! うぐおっ! や、やばい、体がビクンビクンなる! そんなことされたら、俺ッ……! ぬおおお、ビーストモード発動ッ!

 「チューチュー」

 ガジガジ

 「ああ、もうナズーリンったら、そんなに俺の耳かじっちゃダメだって……え、ガジガジ?」

 俺は目を開けて横を見る。俺の顔の横には、でかいネズミがいた。ナズーリンではなく、あの哺乳類の奴。そいつが俺の耳に噛みついている。

 「いってえええええええ!?」

 ばびょーんと布団から起き上がり、垂直に吹っ飛ぶ俺。そして、天井の板を頭が突き破る。天井に頭だけ刺さった首吊り状態。だが、天井の板が俺の体重に耐えきれず、壊れる。俺の体は落下。落下した衝撃で畳が持ちあがる。てこの原理で畳が俺の体を、今度は横に吹き飛ばした。
 どかーんと吹っ飛んで障子を突き破り、外に飛び出した俺は、地面をごろごろと転がりながら進んでいく。そして庭の一本の木にぶち当たった。ようやく止まったかと安心した俺。しかし、なんとその木から鳥の巣が落ちてきた。俺の頭上に乗っかる巣。そして巣から落ちた二つの卵が俺の両目にスポンとはまる。これでは前が見えない。ぴったりとはまり込んだ鳥の卵をぎゅーんとひっぱり、ポンっという音とともにやっとのことで取り外した。

 「って、トムとジェリーかよ!?」

 なんだこのドタバタコメディ。一部、物理法則を無視した動きがあったぞ。騒ぎを聞きつけて目を覚ましたのか、ナズーリンがさっき俺に噛みついたネズミを抱えてこちらに来た。

 「そうそう、いい忘れていたが、私の部下のネズミたちは食欲旺盛で凶暴な肉食性だ。気をつけた方がいい」

 「そういうことは、もっと早く言ってね!」

 結局その日は、軒先に干された自分の甲羅にこもって寝た。やっぱりここは落ちつく。
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