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東方――亀兎木―― 作者:緑野ボタン4号

50話「基礎から始める妖術テクニック入門編」

 
 さっそく、俺は白蓮に妖術を教えてもらうことになった。白蓮の書斎のような部屋に連れて行かれる。巻物がたくさんある。

 「妖術とは妖力を使ってなすあやかしの技です。キツネやタヌキの“化かし”などの幻術や、鬼火、怪力なども妖術のくくりに入ります」

 「俺は怪力と妖力弾くらいしか使えないな」

 「妖力弾は最も原始的な妖術ですね。これはある一定の妖力を持つ妖怪や妖精ならば、だれでも使うことができます。単純ながら奥が深い術です。これを極めるだけでもなかなかの戦力になると思いますよ?」

 「まあ、それは平行してやっていくさ。俺が知りたいのは、俺に使えない妖術だ」

 キツネが葉っぱを使って人を化かす術は見たことがあるが、同じ妖怪で妖力を持っている俺には使えない。キツネをとっちめて無理やり聞きだしても使えるとは思えない。結局、妖術ってものは、その妖怪の種族が生まれつき使えるものに使用が限定されるのではないか。

 「その考え方はおおむね正しいです。その種族にしか使えない術というものがほとんどですから。私も妖術を身につけようと思ったときは、苦労しました」

 「ん? あんたも俺みたいに自分には使えない妖術を求めたのか?」

 「はい。実は私も葉裏さんのように、始めは法力や陰陽術を妖力で転用して使えないかと考えていました。結果的には無理でしたが、成果はありましたよ。それが『妖術符』です」

 白蓮によれば、陰陽道の式をヒントに作り出した符だという。この方法なら、符にこめた術式に合わせて妖術の効果を発動することができる。つまり、符の術式をいじれば自由に妖術の効果を変更できるのだ。

 「でも、陰陽術って神道だろ。仏僧のお前がなんでそんなこと知ってんだよ」

 「神も仏もみな平等です。関係ありませんよ」

 そういえば、こいつはそういう奴だった。気にしないでおこう。俺は強くなれればそれでいい。

 「ですが、妖術というものは、物体に宿すという性質に欠けるのです。妖力を符に込める工程が一番大変でした。複雑な術式を理解し、大量の妖力が必要になります。そう簡単に覚えられるような生易しいものではありませんよ」

 「うう……頑張ります!」

 俺は自分が頭のいい奴だと思ったことはない。はっきり言ってバカだ。一度、俺を退治しようとした陰陽師からお札をぶんどって解析しようとしたことがある。陰陽術の術式ですら、俺には理解不能だった。妖術符はそれよりもさらに難しいというのだ。不安はある。
 だが、これも永琳のため! 俺は自分の限界を超えてやる!

 「よろしい。では、授業を始めましょう」

 * * *

 「お、お……おおぉぉ……」

 「ご主人、見てみろ。葉裏の頭から湯気が出ているぞ」

 「よ、葉裏さん大丈夫ですか!?」

 俺の頭は知恵熱で沸騰しそうだった。もう、勉強はしたくない。
 これでも俺は真剣に取り組んだのだ。居眠りなんてもってのほか。白蓮の言う複雑難解な術式に関することを一字一句聞きもらすまいと必死だった。だが、集中してその言葉を聞けば聞こうとするほど、その文字列を狂気がかき乱すのだ。いや、いいわけとかではなく。本当に発狂しそうになる。
 思うに、俺は右脳型の考えに特化するようになってしまったのではないだろうか。ヴィジュアルで物事を直感的に理解することには恐ろしい適正がある。それが暗殺術『百見心眼』だ。だが、その代償として理論的な思考能力を失った。昔の俺はどちらかと言えば、左脳型だったはずだ。狂気の影響か、考え方が反転して性能がぶっ飛んでいる。
 口からエクトプラズムを出そうとしている俺の両隣りには、ナズーリンと寅丸がいた。寅丸は蒸気をあげる俺の頭をぱたぱたあおいでくれている。今は夕飯の時間のようで、命蓮寺の皆が集まり、一つのちゃぶ台を囲っているのだ。
 雲山もいる。安心しろ、服は着ていた。作務衣のようなものを着ている。図体がでかいので、無駄に場所をとる。圧倒的な存在感だ。てか、こいつも飯を食うのかよ。霞でも食ってろ。
 白蓮がごはんをよそう。最初についだのは、雲山の茶碗だ。

 「白蓮って、一番偉いんだろ? なんで奥さんポジションなの? あと雲山が無駄に偉そうなんだけど」

 「ふんっ!」

 「あがーっ!」

 雲山の手がゴムのように伸びて、俺の顔面にめり込むほどのパンチを食らわせる。なんで突然殴ったんだ、こいつ。

 「家長に一番に飯をつぐ! それが伝統的な日本の食卓だあ!」

 「だからオメーより白蓮の方が偉いだろうが!」

 「まあまあ、ふたりとも喧嘩はやめましょう。はい、ごはんの準備もできましたよ。それじゃあ、手を合わせてください」

 「「「いただきます」」」

 今夜の夕飯のメニューは、雑穀粥、おすいもの、山菜のおひたし、きゅうりの酢の物、以上。質素だなあ。すいものなんて、ごみくずみたいな具しか入ってなくて白湯のごとき薄味だ。なんか御馳走になるのが申し訳ない。俺は光合成ができるので、食べ物は食べなくてもお腹が空かないのだ。

 「いくら寺だからって、もう少しマシなもの食えないのか?」

 「うちの寺には借金に苦しむ信者が多くてな。姐さんは考えなしにそういう奴らの肩代わりをするんだ。寅丸の能力でどうにかやっているが、それでも家計は火の車。文句があるなら食わなくていいぞ」

 一輪がぴしゃりと言い放つ。借金の肩代わりまでするなんていい人すぎるというか、ただのバカだろ。絶対、利用されてるだけだって。

 くぅ~……

 「うぐっ!」

 隣からかわいいお腹の鳴る音が聞こえた。ナズーリンの方だ。

 「もー、ナズーリンはかわいいなあ。なでなで」

 「ひとのおなかを気安く撫でまわさないでくれるかな。同情するなら食糧をくれたまえ」

 「しょうがない。はい、ナズーリン、あーん」

 「そういうのいらない。普通にちょうだい」

 がお~……

 い、いま、すげえ音が聞こえたぞ。音のした方向には寅丸がいた。顔を赤くしてうつむいている。まさか腹の音なのか。
 そりゃあ、こんな少ない飯で育ち盛りの妖怪たちの腹が満たせるわけがないよな。人間を丸飲みしたいお年頃だろうに。

 「白蓮のごはんだけ量が少なくないか?」

 「ええ、私は物を食べなくても問題ありません。本当はみなさんに私の分も食べてほしいのですが、遠慮されてしまうので」

 なんて心温まる貧乏一家。涙が出そう。そこで、雲山が自分の茶碗を白蓮に差しだす。まさか、自分の分を白蓮に、

 「聖、おかわり」

 「てめえはもっと遠慮しろ!」

 俺は箸を雲山に投げつけた。一本ずつ右目と左目に突き刺さる。

 「あんぎゃあああ!!」

 「こらこら、葉裏さん、行儀が悪いですよ」

 目に箸が刺さったことは注意しないのか。まあ、雲だし、大丈夫だろ。
 のたうちまわる雲山を放置し、質素だが心温まる夕飯を楽しんだ。


ストックが尽きましたので、これにて連投祭りは終了です(泣
+注意+
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