49話「命蓮寺のなかまたち」
命蓮寺に居つくことになった俺は、まずこの寺に住む坊主たちと顔合わせをすることになった。と思ったら、この寺、妖怪しか住んでいないらしい。考えてみれば、人間と妖怪をともに受け入れるなんて思想に同調する人間なんていると思えない。なら、必然的に寺の運営は妖怪側がしていかなければならず、人間の坊主なんているはずがないというわけだ。
「みなさん、集まりましたね。今日はこの寺に来た新しいお友達を紹介します。では、葉裏さん、入ってください」
部屋の外で待たされていた俺は障子を開けて中に入る。俺は転校生か。まあ、いいや。そういうノリも嫌いじゃないぜ。
寺の一室に集まったのは、俺を除いて四人だ。結構規模の大きい寺なのに、これだけしか住み込みで働くものがいないとは。しかも、全員女の妖怪である。尼さんとはまた違うみたいだし、つくづくヘンテコな寺だ。
「では、葉裏さん、自己紹介を」
「俺の名は、和製アサシン、頭目、乙羅葉裏! 最強の忍者目指して修行の旅をしている! 好きな食べ物はポテトサラダ! 趣味はフラダンス! よろしくな!」
ダブルピース!
俺の素敵すぐる自己紹介に、一同唖然。一人だけ、なんか頭に花が咲いた奴がぱちぱちと拍手してくれた。照れるぜ。
「そ、それじゃあ、みなさんも一人ずつ自己紹介していきましょう! では、まず私から。前にも名乗りましたが、聖白蓮です。葉裏さんが妖術をちゃんと覚えられるまで面倒を見ます。よろしくお願いしますね」
「はい、先生! よろしく!」
俺は白蓮と握手して、手をぶんぶん振る。
「あ、あの私は寅丸星です! 聖の推薦で毘沙門天様の代理を仰せつかっている虎の妖怪です」
次に名前を教えてくれたのは、さっき拍手してくれた奴だった。虎の妖怪らしく、ショートカットの髪は黒と黄色の阪神カラーだった。頭の上に花が咲いている。気になる。
その右手には大事そうに宝塔を持っていた。
「あ、その宝塔、確かナズーリンが失くしたって言ってた……」
「あーあーあー! それは言っちゃダメです!」
「……またですか、星。あとでお説教です」
「ひいい!」
ドジっ娘のようだ。すごむ白蓮を見て、寅丸はすごくガクブルしている。
「私も前に名乗ったが……ナズーリンだ。まあ、この寺の先輩妖怪として色々と指導してあげよう、新入り君」
子ネズミ妖怪が生意気に上から目線で告げる。あー、あのミ●キーみたいなネズ耳をくにくにしてやりたい。
「雲居一輪だ。言っておくが、この寺に住まい以上、規則は守ってもらう。自分勝手な行動は許さないぞ」
はいはい、いいんちょさん。寺の前を掃除していた尼さん風妖怪である。もうここ、寺じゃなくて寺子屋にした方がいいんじゃない? 十分キャラがそろってるよ。
「そして、あともう一人……来い! 雲山!」
一輪が手に持つ金色の輪を掲げた。すると、その輪が光り、部屋に突風が吹き荒れた。ズバンっと障子の戸が開き、外に集まる白い塊。雲だ。雲が庭先に集まっている。その雲はもくもくと大きくなり、人の顔の形になる。いかめしい面をしたオヤジ顔が現れた。
「……」
「……」
なんかしゃべれよ。
「入道の雲山だ」
代わりに一輪が説明する。雲の入道ね。入道雲ね。
これで命蓮寺の住人は全部らしい。こんな個性的な奴ばかりだと、俺のキャラが薄れそうだぜ。ヒャッハー!
「それでは、葉裏さんに質問したいことがある人はいますか?」
「はい、アサシンって何のことですか?」
寅丸はアサシンがどういうものなのか知らない様子。他の面々もあまりよくわかっていないようだ。よかろう、この自称最強のアサシン、乙羅葉裏が解説してやろう。
「説明しよう! アサシンとは! 闇の世界を生きる影の者。すなわち、枯れ葉に紛れる蝶のように、花に扮する蟷螂のように、夜の闇にとどまらず、市井の中に、城の天井裏に、電柱の陰ベッドの下テレビの中、とにかくありとあらゆるところに身を隠す最強の紳士! それがアサシン!」
「変態か」
一輪が一言でまとめてくれた。そうとも言う。
「たぶん、人間たちの間で草とか乱破とか言われている者たちのことだと思うよ。普段は農耕に従事し、有事の際は諜報活動などを主体とする集団みたいだけど」
ナズーリンが補足する。それは忍者のことなんだけどな。まぁ実際、アサシンと忍者の違いなんて詳しく説明できないし、忍者ですって説明した方が手っ取り早い。俺の暗殺術も結構、忍術を参考にしている。和製だからね。
「まあ、俺のスーパーアサシンマジックが役に立つ機会があれば、いつでも言ってくれ。修行がてら、大抵のことは協力してやるぜ」
「それは頼もしいですね。みなさん、葉裏さんと仲良くしてくださいね」
「まてい! 聖、ワシは納得がいかんぞ!」
だが、そこに和を乱す一声がかかる。それは庭先に召喚された雲山のものだった。
「聖よ! このような身元もはっきりせぬ得体のしれない妖怪をこの寺にホイホイ迎え入れてよいのか!」
「ここは人も妖怪も平等なんだろ」
「はあああああっ!」
聞けよ。
雲山は気合いの声とともに、妖力を発する。その体がみるみる小さくなり、人型の形をとった。筋肉ムッキムキのボディビルダーのような大男の姿だった。髭もじゃだが、ハゲ散らかした頭は無駄に照り輝き、阿修羅のように厳しい顔つきで、肌の色は異様に白い。未着色のフィギュアみたいに。たぶん、雲だからだろう。
そして、全裸だった。チ○コみせんな。まるで見せつけるような仁王立ち。俺と一輪以外の女性陣はさっと目をそらす。
「ほざけ、小娘。貴様、自分のことを忍者と言ったな」
「いや、違……説明するのめんどいからもう忍者でいいよ」
「ふ、片腹痛いわ。そのような出で立ちで忍者だと?」
「なに……?」
聞き捨てならんな。俺は忍者ではないが正真正銘の暗殺者。その本質は同じく闇の世界存在である忍者に通ずるものがあるはず。つまり、俺が暗殺者であることを笑うことと同義である。出で立ちと言ったな。俺の格好のどこが問題なんだ。
「女の忍者、すなわちクノイチであれば、それ相応の服装というものがあるだろう! 例えば、このようにな!」
バッと雲山がどこからか、衣装を出す。それは、コスプレショップで売っていそうな露出度の高い服だった。ピンク色の上着は胸元が大きく開き、鎖帷子を思わせるアミアミがかかっている。スカートはパンツがモロ見えになりそうなくらい短い。肘上まで覆う手袋と、ニーソ並みの長さの靴下も、網タイツっぽいデザインになっている。
「雲山、もう帰って良いぞ」
一輪はそれだけ告げると、ぴしゃりと障子を閉めた。こうして、俺の顔合わせはつつがなく終了した。
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