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東方――亀兎木―― 作者:緑野ボタン4号

48話「聖☆おねえさんマジ聖」

 
 「なるほど、つまり法力を学びにこの寺へ来たのですね」

 「そういうことだ。妖怪でも法力は使えるのか?」

 「不可能ではありませんが、とても難しいですよ?」

 そもそも法力とはなんぞや。陰陽道と何か違いがあるのか。そこんところからして俺にはよくわかっていない。

 「法力とは、霊力を持つ人間が厳しい修行の末にたどりつく、功徳の力です。悪しき者を祓い、病を癒すことができます」

 「……それって、全然妖怪向きじゃない気がするけど」

 「はい、法力は霊力によってなすもの。妖力しか持たない妖怪には使えません。法力は霊力の使い方の一つです。その点で言えば、陰陽道も同じですね」

 「じゃあ、妖怪が霊力を持てるようになる方法でもあるのか?」

 「それもできません。妖力と霊力は相反するものです。この二つを同時に持つ術は、残念ながら私も知りません。結論から言ってしまえば、神力を用いて霊力の代替とするのです」

 「神力ぅ? それこそ妖怪にはふさわしくない力だろう。まだ妖力を霊力の代わりにしたって言うほうが信じられるぜ」

 「いいえ、神力とは信仰の力。人々から信仰を集めれば、どなたでも神力を得ます。私も恐縮ながら神力をいただいていますし、この寺にはあと一人、神力を持つ妖怪がいますよ」

 「おいおい、妖怪ってのは人間をおどかして襲うものだろ? それがなんで人に崇められるんだ?」

 白蓮の話によれば、妖怪でも神になれるということになる。神力というものは他の力の種類と比べて質が高いらしく、色々な応用ができるそうだ。使い勝手のいい力で、手早く強くなれる。人間と仲良くなってでも力を得たいと考える妖怪なら、神力を集めて神格を得ることもまた一つの手だ。人間に手を出さない代わりに生け贄や貢ぎ物を要求して無理やり信仰させる祟り神というやからも昔はいたようで、妖怪が人間に祀られるようになるって話も、そう考えるとおかしくはない。
 だが、俺は気にくわない。俺は永琳を倒すためにどんな汚い手段を使ってでも力を手に入れると誓ったが、それでも神力は欲しいと思わない。俺の目的は永琳の打倒。そのために人間に仁徳を説いて信仰力を集めるのか? 恨み殺しという最低の私利私欲の実現のために人間を守り、神と崇められることで得た力を使うのか? 俺は狂ったが、そこまで妖怪やめてない。

 「俺は妖怪だ。人を殺したことだってある。今さら中途半端に改心するつもりなんかない。俺はわかりやすい悪役でありたいぜ。人間の善意を利用して力を得ようなんてクソみたいな真似できるか。そこを曲げたら俺は俺じゃなくなる。あ、それが俺の妖・怪・道!」

 ててん!
 俺は歌舞伎役者のように大見栄を切る。白蓮はそんな俺を見て、ほがらかに笑った。

 「あらまあ、あなたはとても妖怪らしい妖怪のようですね。しかし、それでは法力を習得することはできそうにありませんねえ……」

 俺はいそいそと座りなおす。そうなんだよ。そこが困ったところなんだよ。

 「そもそも、どうして法力を学びたいと思ったのですか? あなたのおっしゃる通り、妖怪とは縁のない力だと思うのですが」

 「そりゃあ、強くなりたいからさ」

 「それでしたら、法力でなくても他に方法はあるように思いますよ」

 「まあな。ちょっと俺の暗さ……格闘術に使えないかと思ったんだ!」

 危ねぇ、うっかり暗殺術って答えるところだった。さすがに尼さんにそんなことを言ったら怒られそうだ。まぁ、暗殺術って言っても殺しに利用したことなんて皆無だけど。
 暗殺者は様々な道具と溢れる知恵を駆使してどんな状況にも対応できるもの。さらに、俺の場合は妖怪アサシン。怪しげな妖術で作りあげたビックリアイテムで敵をあっと驚かせたいところだ。

 「それでしたら、普通に妖術を習得すればいいのではないですか?」

 「妖術って習うようなものか? ほとんど生まれつきその妖怪が持ってる術になるだろ? だから俺は陰陽術や法力を学びたいんだ。人間はそういう体系をもった力の使い方を確立している。霊力という力そのものと、それの使い方をばらして考えられるところは評価できる。俺が知りたいのはそういう術だ」

 「なるほど、そういうことでしたら力になれるかもしれません」

 「ほんとか!?」

 「法力や陰陽術はあなたに合わないようですね。ですが、私の知る妖術ならあなたにも使えるかもしれません」

 ようし、これは予想外の収穫だ。習って覚えられる妖術。これが使えるようになれば、俺の暗殺術のレパートリーもぐっと広がるだろう。

 「姐さん、こんな得体のしれない妖怪に協力していいんですか?」

 尼さん風妖怪が愚痴るように白蓮に言う。余計なことを。

 「救いを求める者であれば、命蓮寺は拒むことなく受け入れます」

 「そうこなくっちゃ! それじゃ、しばらくこの寺の厄介になるぜ」

 「図々しい奴だな。まさか、住みつく気か?」

 「まあまあ、いいじゃありませんか。人手不足で困っていたところですし、葉裏には妖術を教える授業料の代わりとして、この寺のお手伝いをしてもらいましょう」

 白蓮、いい人そうな顔して実はちゃっかりしているのかも。でも、それくらいならお安い御用だ。今までずっと似非行商人の旅暮らしをしてきたから、一つの所に住みつくのは久しぶりだ。頑張って妖術を身につけるとするか。

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