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東方――亀兎木―― 作者:緑野ボタン4号

43話「強さの何の」

 
 それから三日が経った。傷はもうほとんど完治している。唯一治っていないのは、右目くらいか。目は妖怪でもデリケートな部分のようで、完全につぶれた状態からの回復は時間がかかるようだ。

 「葉裏、はい、あーん」

 「いいって、もう一人で食べられるから」

 なぜか萃香は俺の世話を焼きたがり、寝たきりの間、ごはんを食べさせてくれたりした。いたれりつくせりだが、恥ずかしいことこの上ない。
 お礼といっては何だが、甲羅の中から酒のつまみになりそうなものを出して渡した。そう、『月人酒の友シリーズ』。

 「うひょおお! これって、スルメか!? 山暮らししてると、こういうもんがなかなか手に入らないんだよねー!」

 気に入ってもらえたようだ。他にもチーズ鱈とか燻製タコとか、とりあえずあるだけ渡しておいた。
 この三日で俺は色々と考えた。これからどうするかということだ。無論、永琳を追う。今すぐ月に行くことはできないが、どんなに時間がかかっても、俺はいつか必ず月へ行ってみせる。地上の人間の技術だって1000年待てば宇宙開発まで行きつくはずだ。永遠に月へ行けないわけじゃない。
 そして、俺はそれまでに強くならなければならない。永琳を倒すために。そのためなら、どんな手段だっていとわない。だから、考えなければ。俺はどうやって強くなるのか。その方法を。

 「強くなるための方法?」

 萃香は俺の問いかけに首をかしげる。萃香は俺よりも強い。あの反則的な能力は圧巻だった。俺が今までに出会った、どの妖怪より強かった。彼女ならなにか、いい助言をくれるのではないだろうか。

 「って言ってもなあ。そんな方法があったら、あたしだって知りたいし」

 「萃香は十分、強いじゃないか」

 「そりゃ、鬼だからな。鬼は単純に強い」

 種族としての強さか。確かに鬼と言えば、どの伝承でも語り草になるほどの暴力の権化だ。そこらの三流妖怪とはわけが違う。

 「それを言ったら、葉裏だってとんでもなく強いぞ。なにせ、その鬼を倒したんだから」

 俺はちょっと長生きなだけだ。妖力にものを言わせて戦うしか能がない。その戦い方は、萃香に通用しなかった。俺はもっと技術的な戦い方というものを学ばなければならない。

 「でも、俺はもっと強くなりたいんだ。萃香みたいに戦闘の技術を身につけたい」

 「そうか。でも、あたしも人に自慢できるほどの武術を持ってるつもりはないよ。こんなものは見よう見まねさ」

 武術についてはこれから練習していこう。だが、それだけではダメだ。永琳に勝つためには様々なアプローチから攻撃できる手段を考えなければならない。
 この三日で、一つ思いついた方法がある。俺は永琳に直接攻撃することができない。ということは、間接的な攻撃なら加えることができるのではないか。例えば、罠などをしかけて、そこに誘導する方法がある。そういった手段を取るなら、道具が必要だ。俺自身から離れたところで作動でき、ダメージを与えられるような道具を作ればいい。
 そこで考えたのが、陰陽術だ。

 「陰陽術? 葉裏は変なことを考えるもんだ。なんでそんなものが必要なんだ?」

 「俺は陰陽師たちの妖怪退治を見たことがある。奴らは霊力を札に込めて使う。物に力を宿せるんだ。その札には様々な呪文が組み込まれ、いろんな効果がある。そういった札を何枚もあらかじめ作っておくから、奴らの戦術は格段に広くなる。俺たちも、陰陽術が使えるようになれば、強くなれると思わないか?」

 「うーん、言いたいことはわかるけど……無理だと思うよ? 妖怪は妖術、人間は陰陽術。それがそれぞれの領分じゃないか。妖術が使える人間って、変だろ?」

 まあ、確かに。いい案だと思ったんだが。これは保留にしておこう。

 「妖力や身体能力以外で、手っ取り早く強くなりたいってんなら、『程度の能力』を鍛えるって手もあるぞ?」

 「ああ、そんなのもあったね。そういえば、萃香も能力を持ってるのか?」

 「ああ、あたしの能力は『密と疎を操る程度の能力』だ」

 密と疎。つまり、物事の集合と分離。ちぎれた体を修復したり、巨大化したり、分裂したりできたのは、この能力があったからだった。どうりで強いわけだ。

 「無敵じゃねえか! そんなん勝てるわけがねえ!」

 「いや、あたしも結構追い詰められてたぞ? 能力で霧状になるまで分裂しても、葉裏の攻撃は爆発みたいな衝撃に近いから避けようがないし、呪いは地味に回避が難しいからなあ。ほんとは密度を極限まで高めて炎を作り出す技もあるんだけど、使う余裕なかったし」

 「そんな便利な能力があるなんてうらやましいよ。俺なんか『注目を集める程度の能力』だぜ?」

 「それは……ぷっ!」

 「笑うな!」

 萃香の能力は物事の集合を操る。だから、注目を集めることもできる。俺の能力の効力も兼ねているわけだ。なんというチート。むごい。

 「こんな能力、あっちむいてホイくらいでしか勝負事での使い道がねえよ」

 「あっちむいてホイってなんだ?」

 「知らないのか? こうやって、指を出してだな……ホイ!」

 萃香の顔の前に人差し指を突き出し、かけ声と同時に上に指を向ける。俺は能力を使って、指先に『注目を集めた』。萃香は指の動きにつられて上を向く。

 「かけ声に合わせて、顔を動かすんだ。この指の向く方向に顔を向けたら負け。それ以外の方向を向いたら勝ちだ」

 「はあ、そんな遊びがあったのか……ん!? ということは、あたしはさっき負けたのか!?」

 「そうなるな」

 「納得がいかない! もう一回勝負だ!」

 それから十回くらい、あっちむいてホイをした。結果は俺の完勝。萃香は負けた悔しさに地団駄を踏んだ。鬼は勝負事にやたらこだわる奴らだな。

 「ちくしょー! また負けた!」

 「たかが子どもの遊びだろ。俺は能力使ってズルしてるんだし」

 「そうか、それだっ!」

 萃香が何かひらめいたように手を打つ。何を思いついたんだ。

 「その能力、自分以外の物にも使えるのか?」

 「自分以外?」

 俺は今まで、この能力は俺自身にしか使えないものだと思っていた。現に、前に使ったときは他の物に注目を集めて、敵の注意をそらすようなことはできなかった。

 「能力は成長する。長いこと使い続ければ、その効果も拡大解釈できるようになる。あんたの能力がその文面どおりなら、その程度の拡大解釈は可能なはずだ」

 少し、試してみるか。

 「そんなこと言われても……あ、勇儀が来たみたいだぞ?」

 そう言って、俺は萃香の後ろを『指差した』。

 「ん? ああ、勇儀ちょうどよかった。今、葉裏と話をしてて……」

 萃香が後ろを振り向く。しかし、そこに勇儀はいない。最初からいないのだ。だが、萃香はそこに勇儀がいるものと“錯覚した”。

 「今、能力を使ったのか?」

 「ああ、どうだった」

 「……驚いたな。本当に勇儀の気配がした。注目を作り出すということから、逆算的に私の意識の中にある『勇儀の気配』をくみ出し、捏造したことになる。私も『萃める』ことができる能力をもっているけど、『注目』という一点に関してはあんたに勝てないだろう」

 俺の能力の意外な利用法が見つかった。これをもっと突き詰めれば、戦闘にも十分活用できるのではないだろうか。


このときの萃香はまだ人間に討伐される前なので、そこまで嘘や騙されるのが嫌いというわけではない

という設定です!

気にしてたのですが、原作でもそこらへんはキッチリこだわってないみたいですね。
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