38話「後夜祭」
俺は永琳の後を追って山に入った。永琳たちは歩いて移動した。ということはまだ月には帰っていない。今なら間に合う。早く追いかけるんだ。追いぬけ。俺が一等賞だ。お前らになんか渡さん。でも、五等賞も捨てがたい。
知らないうちに俺は血まみれになっていた。体中傷だらけだ。腕には俺の愛剣が突き刺さっている。だれがこんなひどいことしたんだ。俺は剣を抜いて、鞘にしまった。そして、右の眼空に鞘ごと突き刺す。血と肉が飛び散った。よし、しっくりきた。でも、穴が小さくて奥まで入らない。これではすぐに外に出てしまう。念入りに深く突き刺しておこう。ぐりぐり。
山の中を進んでいると、何かが俺の前に飛び出してきた。妖怪だ。俺は颯爽と腰に差していたレーザー銃を構える。
「手を上げろ! お前は完全に包囲されている!」
俺の前に現れた妖怪は、鬼だった。人間の大男のような体格で、頭に角があり、皮膚が赤い。間違いなく鬼だ。それか、セールスマン。
とりあえず、射殺する。
「ばきゅーん☆ ばきゅーん☆ お前は死んだ」
「なんだお前? 俺に喧嘩売ってるのか?」
鬼が拳をパキパキ鳴らしながら近づいてきた。俺のレーザー銃の光線を受けて死なないとは、この鬼、かなりのテダレだ。俺の編み物教室レベルでは、もはや通用しないと言っても過言である。
「はっ、まさかお前は、えーりんの手下なのか!?」
「はあ? 俺はこの山に住む鬼だ」
やはり、永琳の配下の者であるようだ。どうりで強いと思った。これは俺も本気を出さなければ。俺はレーザー銃を腰に戻した。空手のポーズで迎え撃つ。
「鬼さん、暴力はいけません。お互いの見解が食い違うときは、手を上げて自分の主張を発表すべきです」
「ごちゃごちゃウルセエ奴だ! 鬼に喧嘩を売るってことがどういうことなのか、お前にもわかってるだろ? さっさと始めようぜ」
鬼は先手必勝とばかりに、こちらに向かって来た。それに対し、俺は土下座からの前転キックを繰り出す。鬼は俺の蹴り足をつかんだ。そのまま持ち上げようとする。
「お、重っ!?」
鬼が体勢を崩した。今だ!
俺は鬼の腹にしがみついた。そのたくましいお腹を、舐める!
ペロペロペロペロ。
「……なにしてんだ、お前」
ペロペロ、ん、このお腹……腹筋が六つに割れている、だと!?
一個もらおう。
腹筋を一個、むしり取った。鮮やかな赤色をした血のしたたる筋繊維だ。
「ぐああああ!? テメエ、やってくれたな!」
鬼が俺の頭を殴る。右目の穴から剣が吹っ飛んだ。いや、さすが永琳の配下の者、ブリティッシュジョークがうまい。座布団三枚はかたいだろう。
「はっはっは! 傑作でしたね!」
「な、何笑ってんだ、テメエ……」
鬼さんが俺の体を突き飛ばす。そのとき、俺の腰からレーザー銃が滑り落ちた。俺は慌てて拾おうとする。あぶない、あぶない。
「なんだ? 人間の使う道具か?」
俺の手がレーザー銃に届くより先に、鬼がそれを無造作に踏みつけた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
俺のレーザー銃が!
俺はすぐに鬼の太い脚を両手でつかむと、二つにへし折り、引きちぎった。
「ぎゃああああああっ!?」
「クソクソクソクソ! 俺の銃に何してくれてんだ! 謝れ! 俺の家族に謝れ!」
倒れた鬼の体を、瘴気を纏った拳で殴りつける。筋肉をはぎ取る。筋繊維をむき出しにする。これで、水中でも呼吸できるようになった。
「はあ、はあ、はあ……!」
鬼は死んだ。きっと仲の良い友達がドライブスルーまで死体を運んでくれるだろう。
俺は鬼を殺すと、踏みつけられた銃を確認する。幸いにも、銃はやわらかい土の上に落ちていたので、踏まれても壊れていなかった。これで俺はまた、戦える。
俺は飛んでいった短剣を回収し、右目に突っ込みなおした。そのうちに、あたりが騒がしくなる。なんと、ぞろぞろと鬼たちがまた現れたのだ。さっきの鬼の悲鳴を聞きつけてきたか。さすが、永琳配下の特殊部隊、勘が鋭い。
「おうおう! 喧嘩か? 俺たちも混ぜろ……あ?」
「な!? ひでえ殺し方しやがる! お前がやったのか!?」
俺はすぐにレーザー銃を構えた。鬼たちに向けてレーザー弾幕を放つ。
「ドドドドド☆ ドドドドド☆ シュビーンシュビーン☆」
「聞く耳持たねえか。どこの妖怪か知らねえが、この山にはこの山の掟がある。俺たち鬼の一族に刃向かう奴は、誰であろうと力でねじ伏せる! 覚悟しろ!」
やはり、レーザー攻撃が効かない。強敵だ。
どうやら、こいつらを倒さない限り、先には進めないようである。さっさと殺して永琳を追いかけよう。
* * *
軽く鬼を全滅させた俺は、山の頂上目指して走っていた。
月は中天を過ぎ、山の向こうに消えようとしている。急がなければ。
そして、山頂に到着した。木々がなく、開けた場所に出る。永琳はいない。どこに隠れているんだ?
「なーんか、今日は山が騒がしいと思ってみれば、とんでもない来客もあったもんだ」
声が聞こえた。広場の中央に転がる大岩の上に誰かいる。それは少女だった。ひらひらした服を着て、頭に大きな二本の角があった。ひょうたんを手に持ち、それに口をつけてあおる。中身は酒だろうか。変な飾りのついた鎖をも体に巻きつけている。
彼女は誰だ。頭に角があるから、鬼? でも、小さい女の子だし、もしかして、校長先生かもしれない。だったら、挨拶しないと。
「こんばんわー、校長先生ー」
「ぷはー! 今日も酒がうまい!」
しかし、どうして永琳がいない? どこへ行った? ここには校長先生しかいないし……
はっ! もしや、この校長も永琳の手下!? 永琳め、校長先生まで配下にもつとは、底が知れない。
「なるほど、ということは、校長はさしずめ中ボス。校長を倒さなければ、永琳は姿を見せないということか」
「お前も酒飲んでくかー?」
校長先生……こいつは強敵だ。ザコの特殊部隊とはわけが違う。なんたって校長だ。おそらく、レーザー光線は効きそうにない。本気を出さなければパイナップルにされてしまう。
「その手は食わんぞ! ぱきゅーん☆ ぱきゅーん☆ くそう、やっぱりレーザーが効かない! 肉弾戦で決着をつけるしかない!」
「まあ、そうだな。酒盛りの前に、一勝負やるとするか」
校長は岩の上に立ちあがった。校長先生だからって生意気だ。俺のこと見下しやがって。この高給取りが!
「あたしの名前は伊吹萃香。ま、せいぜい楽しく殺ろうじゃないか」
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