挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
東方――亀兎木―― 作者:緑野ボタン4号

11話「人妖大戦」

 
 いよいよ、人間たちとの決戦の日が来た。俺たちは妖怪の大軍を率いて都を目指す。
 俺と猪々獄はその先頭に立っていた。俺も妖怪だ。後ろでふんぞり返っている気はない。

 「葉裏」

 「なんだ?」

 「この戦いが終わったら俺様と結婚してくれブヒ」

 「嫌だ。あと、そのセリフは死亡フラグっぽいぞ」

 猪々獄は、あれからずっと俺に求婚してくる。うざい。

 「それより、昨日話した作戦はうまくいきそうか?」

 「ああ、あれか! まったく、葉裏は面白いことを考えるブヒ!」

 妖怪軍の作戦は突撃の一択である。それ以外にやりようがない。シールドは360度死角なく都を覆い尽くしている。戦力を分散させてシールドの突破に手間取るより、一か所穴を開けてそこからなだれ込む方がいいだろうと、先日会議で決めた。人間側は1万の数がいるが、そのすべてが兵士というわけではないはずだ。妖怪側は6500。ぎりぎりなんとかなるのではないかという目算だ。
 ところで、俺は昨日、猪々獄の能力について話を聞いた。猪々獄は『槍を遠くまで投げる程度の能力』を持っているという。その能力を聞いて、少し思いついた作戦があった。名付けて『槍と一緒にかっとびましょう作戦』。猪々獄の大槍に妖怪をくくりつけ、投げてもらう。すると、あっという間に都のシールドを突破して中に侵入できるのではないかという作戦だ。妖怪ミサイルである。
 結論からして、それは難しいと言われた。投げた槍はすさまじいスピードで飛ぶので、並みの妖怪では耐えられず、目的地に到着と同時にはじけとび、死んでしまうらしい。しかし、例外的に並みの妖怪にとどまらない防御力をもったタフガールがいる。俺だ。俺ならおそらく着地の衝撃にも耐えられるし、孤立しても自分の力でなんとかやっていけるだろう。そのため、俺の背中にはいつでも投げてもらえるように、すでに槍がくくりつけられている。
 森から出て、都を前にする平野で俺たちは一時停止した。都の方から何かが近づいて来る。こちらに向けて無機質な声で何か言っている。

 『警告します。妖怪たちは直ちに引き返しなさい。これ以上、都市に接近した場合、武力を行使して対処します』

 いくつもの銀色の塊がこちらに向かって走ってくる。とうとう、向こうからも兵が放たれた。躊躇してなどいられない。俺は声を張り上げた。

 「全員、突撃いいいい!!!」

 オタケビをあげて妖怪たちが走りだす。銀色の物体はロボットだった。ロボット兵だ。人間たちはこんな物を作り出していたのか。
 俺は焦った。確かにこんなSFチックな科学技術を持っている奴らだ。ロボット兵くらいいてもおかしくはなかった。だが、もはや引き返すことなどできない。戦いは始まった。
 ロボット兵は近づいてきた妖怪たちに向けて銃を撃つ。妖怪はひるまなかった。ちょっとやそっと腕とか足とかもげても平気な連中である。鉛玉を数発ブチ込まれたくらいじゃ死なない。俺と猪々獄は猛然とロボット兵の只中へと飛び込んでいった。
 そこでわかったが、このロボット兵は銃を撃つしか能がない。接近戦に入れば木偶の坊も同然だった。

 「ブッヒヒヒヒ! まったく手ごたえのない奴らだブヒ!」

 俺が妖力弾を乱射し、猪々獄が槍を一振りするだけでゴミのようにロボット兵は壊されていく。これなら他の妖怪に任せても大丈夫だな。

 「猪々獄! あの作戦、いくぜ!」

 「そうか、ここは俺様たちに任せるブヒ!」

 猪々獄が俺の背中の槍をつかむ。『槍と一緒にかっとびましょう作戦』のお披露目だ。

 「うぐおおおおお!? お、おもいいい!!」

 「しっかりしろ、猪々獄! それでも妖怪四天王か!」

 「ふぬぐぐぐぐうっ!」

 なんとか俺を担ぎあげた猪々獄は、ゆっくりと助走を始める。ずしんずしんと地面にくっきり足跡をつけながら、スピードをあげていく。前に立ちふさがるロボット兵は猪々獄の突進を止めるすべなどなかった。

 「それじゃあ、俺は一足先に行ってくるぜ」

 「いっくぞおおおおおっ! はああああっ! ふんぐっ!」

 槍が猪々獄の手を離れた。その瞬間、周囲の光景が急速に後ろに飛び去っていく。これは風速で皮膚がはがれそうだ。俺はたまらず甲羅に隠れた。
 甲羅の中にはゴオオオという風の音しかしなくなる。そして、何かにブチあったような衝突音。これがシールドだろうか。音はすぐに止んだ。おそらく、シールドを突破したのだ。槍のスピードはさっきより落ちた気がしたが、それでもまだ速い。そして、さっきのシールドにぶつかったときとは比較にならないほどの音が甲羅の中に響き渡った。耳が痛い。
 これは無事に着地できたということか。俺は外に顔をだそうとした。だが、目の前にある壁が邪魔して頭が出せない。どうやら、頭から地面に激突してめり込んでしまったようである。しかも、俺がめり込んだ先は何だか金属質な構造物のようで、がっちりと穴に甲羅がはまり込み、抜け出すことができない。ど、どうすれば。

 「なんだこれは! どこから入ってきた!?」

 やべ、見つかった。

 「妖怪の仕業でしょうか。まさか、シールドを突破して攻撃を与えてくるとは」

 「ロケットの打ち上げは間もなく行われる。万が一に備えて警備を強化しろ」

 「はっ!」

 俺の姿は謎の物体として捉えられたらしく、特に警戒もなく、人間たちは立ち去っていた。攻撃に使用された武器としか思われなかったようだ。まあ、まさかこんな壁にめり込んだ意味不明の物体を妖怪とは思わないか。
 それにしても、ロケットってなんだ? 人間たちは何をしようとしているのだ?

 『全妖怪どもに告げる』

 そのとき、大きな声が響き渡った。さっきのロボットのような無機質な声ではなく、肉声を拡声器で大きくしたような響きである。

 『我ら人間は、穢れきった地上を捨て、新天地に人間の文明を築く。これより、我らは月の世界へと旅立つ』

 穢れきった地上? 月の世界? 何のことだ。

 『さらばだ! 低俗なる妖怪どもよ!』

 そして、大地が揺れた。轟音とともに振動は大きく膨れ上がっていく。

 『さらば、地球よ! いざ行かん、月の世界へ!』

 まさか、いや、そんな馬鹿な。人間は宇宙へ向かおうとしているのか!?

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ